いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
上 下
286 / 388
最終章〜唯一の未来〜

二百八十五話

しおりを挟む
 飛び込むように車に乗り込んだと思うと、エンジンが唸る。
 宏ちゃんは、慌ただしくぼくのシートベルトを締めて、言った。
 
「今から家は遠いな。成、ホテルでも構わないか」
「えっ、うん。でも、そんな大丈夫やで?」
 
 ぼくは、おろおろとバッグを抱く。たしかに、体がホカホカしているものの、噂で聞くほど切羽詰った感じはしないから。
 宏ちゃんは首を振り、キッパリと言う。
 
「お前の体のことは、俺の方がわかってる」
「……ひえっ!?」
 
 とんでもない言葉に口をパクパクしていると、宏ちゃんは「飛ばすぞ」と言って、車を発進する。
 開け放した窓から、突風が吹きこんだ。宏ちゃんは宣言通り、びゅんびゅん車を飛ばし、華麗なハンドルさばきで前の車を抜き去っていく。
 凄いスピードのせいで、シートの背もたれに体を押し付けられながら――ぼくは、顔全部が熱くて仕方なかった。
 
 ――知らんかった。こんなにスピード出すんや、宏ちゃんてば。
 
 
 
 
 
 数十分後――宏ちゃんが素晴らしく飛ばしてくれたおかげで、あっという間にホテルに到着した。
 ビジネスホテルの一室のベッドに、ぼくはちょんと腰を掛けている。宏ちゃんに勧められて、もうシャワーを浴び終えて、バスローブしか着ていなかったり、する。
 
「……うう……」
「大丈夫か?」
 
 隣に腰かけた宏ちゃんに、肩を抱き寄せられる。同じくシャワーを浴びて、バスローブを羽織っただけのかっこう。――大胆にはだけた前から、逞しい胸が見えていた。
 
「大丈夫ですっ。宏ちゃん、あの……ちゃんと服を着て」
 
 刺激的な光景すぎます。慌てて前をかき合わせてあげると、宏ちゃんが笑う。
 
「もう脱ぐから、いいけどな」
「……宏ちゃんのエッチ!」
 
 どん、と胸を突くと、「あはは」と声を上げて笑ってる。ぼくは真っ赤になった頬を押さえて、床に突っ立った。
 
「すぐ脱ぐとは限らないですよっ、宏ちゃん」
 
 暫く経ったけど、ほわほわしていた体に、いまだ大きな変化はなかった。むしろ、お風呂に入ったから、身も心もさっぱりして……清く正しい有様だと思う。
 
 ――せっかく連れてきてもらって、申し訳ないのやけれど……たぶん、ヒートじゃないと思うんよ。
 
 そう主張すると……宏ちゃんは組んだ腿に頬杖をついて、面白そうに目を細めた。
 
「そうかあ? いい匂いだけどな」
「それは、宏ちゃんも……」

 気恥ずかしくなって、途中で口を噤む。 
 ……宏ちゃんから、凄くいい香りがするん。嗅いでいるとね、気もちがそわそわして、じっとしてられないくらいに。
 すると、手が差し出された。
 
「成、おいで?」
 
 もうすでに、ぼくを抱きしめているような熱い瞳で見つめられ、頬がぱあっと火照る。
 
 ――わあ。なんか、恥ずかしい……
 
 向き合うだけで、変な気持ちになってきて、戸惑っちゃう。――お部屋で二人っきりなのは、いつものことなのに。
 ”そういうつもり”で来たせいやろうか。
 
「ね、ねえ、宏ちゃん。戦利品、いろいろ見ない? ベッドにわーって広げて、楽しむの」
 
 ぼくは恥ずかしさに耐えかねて、目を逸らした。
 
「ベッドにか?」
「そうっ。立ちっぱなしだったし……寝転んで、ゆっくりするん。ねっ」
「ほう」

 ――わあ、宏ちゃん響いてなさそう~。

 ともあれ、バッグは備え付けのクロークに置いてある。急き立てられるよう、足を踏み出そうとしたら――くい、と手首を引かれた。
 
「あっ!」
 
 ぼくは、宏ちゃんの膝の上に座り込んでいた。
 逞しい腕に羽交いに抱きしめられ……どきん! と心臓が大きくジャンプする。

「鑑賞会も良いけど。俺は、お前を見たいかな」 
「宏ちゃ……んっ」
 
 顎を掴まれ、後ろを振り向かされたと思うと……かぷりと食まれるよう、キスされた。
 
「待っ……ふぁ……っ」
 
 薄く開いた唇のあわせから、舌が滑り込む。「待って」も「だめ」も言わせまいとするよう、絡められ――甘えた吐息ばかり漏らしてしまう。
 
「――ひゃっ?」

 バスローブの上から、胸の尖りをくすぐられた。甘いキスで期待した其処を、厚い布越しに引っかかれると、たまらない。

「やあ……そこはっ」
「好き?」
「ぁんっ」

 前合わせから入り込んできた手が、キュ、と尖りを摘まむ。……そこは、毎日のように愛されるせいか、すごく敏感になってて。
 やのに、宏ちゃんは嬉しそうに、ますます可愛がってくるん。

「あぁ……っ」

 胸への愛撫で、意地も力もなくなってしまう。
 身を預けたぼくを、宏ちゃんはぬいぐるみみたいに抱えて、愛で始めた。




「ひろちゃ……もっと」

 そのうちに――ぼくは宏ちゃんの膝に向き合って、必死にキスに応えていた。宏ちゃんはくすりと笑って、ぼくの顎を摘む。

「可愛い……もっと口開けて」
「んっ……」

 言う通りにすると、キスがもっと深く甘くなる。ぴちゃぴちゃって水音が、明るい客室に響いて――すごく、あられもない。
 でも、すごく気持ちいい……

「ぁぅ……!」

 一緒に、きゅ、きゅ、と胸の尖りを捏ねられて、頭がトロンとする。

「!」

 がっしりした首に腕を回して、舌を絡めていると……大きな手が、トントンとお尻の上を叩いてきた。

――やっ……それ、だめぇ……!

 お腹の奥が、震えちゃう。
 甘痒い刺激に、もじもじと体を揺すると……するりとバスローブの裾をからげられた。下着をつけていないから、お尻が露わになる。

「成、綺麗だ」
「ひゃ……っ?」

 二本の太ももを包むように、大きな手が上ってくる。

――ああ……っ!

 気持ちいい、もどかしい――宏ちゃんの肩に、きつくしがみ付く。ずっと続くキスに、吐息も飲み込まれ、お腹に気持ちよさがわだかまってきて……
 熱い指先が、内腿をつと撫でて、ビクンと体が弾む。

「……んぅっ、ふ……!」

 優しく、脚の付け根を揉みほぐされる。
 しだいに……宏ちゃんの膝に跨った脚の奥が、熱く潤み始めていた。
 蕾と、後ろと。その間に、疼くようなちりちりした熱が――

「……はぁ……はぁ」

 やっと離れたぼく達の間に、銀の糸が伝う。それを恥ずかしいと感じる間もなく――押し倒されてしまった。
 冷たいシーツに背中がくっついて、すぐに宏ちゃんが覆いかぶさってくる。

「ほら……凄くいい匂いだよ、成」
「……あっ……」

 わざとやん! と正気なら、突っ込んでしまうんやけど――ぼくの理性は、もうとろとろになっていて。性急にバスローブを脱がされるのを、夢心地で待った。
しおりを挟む
感想 211

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話

雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。 一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

処理中です...