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最終章〜唯一の未来〜
二百六十八話
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気がつけば――宏ちゃんの腕のなかで、うとうとと微睡んでいた。
仰向けの宏ちゃんの上に、半ば乗りかかるかたちで……背を抱かれて。お互いの脚を絡ませて、ぴったりと寄り添っている。
――ああ、あったかい……
芳しい香りにうっとりしながら、緩んだ唇を動かした。
「宏ちゃん……」
「成。――大丈夫か?」
優しく尋ねられ、頬が熱る。さっきまで、すごく奔放に振舞ってしまったのを、思い出してしまったん。……と、腰の奥に残る、甘い痺れが大きくなりそうで、慌てて頷く。
宏ちゃんは、ほうと息を吐いた。
「つい、貪り過ぎた。お前が可愛くて……」
「そ、そんな……ぼくのほうこそっ」
すごくしたかった――言いかけて、照れくさくなって口を噤む。もぞもぞと逞しい胸に頬を埋めると、喉の奥で笑う気配がある。
「嬉しいよ」
「……ほんと?」
「うん。俺も、お前が欲しかったから」
そこまで言うと、宏ちゃんはぎゅっ、とぼくを抱いた。咄嗟に抱き返し――じっと温かい腕に囲われていると、からだの奥から安堵がこみ上げてくる。
「宏ちゃん、大好き……」
心から、沁み出すような思いを、言葉にする。
「俺も。お前が大好きだよ」
宏ちゃんは頷いて、大きな手のひらで背中を撫でてくれた。情欲を感じない、泣く子をあやすような優しい手つき。「大丈夫だよ」って伝えてくれるときの――
「……っ」
なぜだか、胸がきゅうと痛くなって、鼻を啜る。
逞しい胸に頬を寄せると、鼓動を感じた。どくんどくんって、力強い響きに耳を傾けながら――ぼくは、そっと目を閉じる。
――宏ちゃんがいてくれれば、だいじょうぶなんだって。
***
「成ちゃん、おいで」
涼子先生が、笑って手招きする。ぼくは、喜びに胸をふくらませながら、とことこと駆け寄った。
お勉強の時間の後、先生がこっそり連れてきてくれた、医療棟。「大切な宝物」を紹介すると、嬉し気に耳打ちされて……ぼくは、嬉しくてたまらなかった。
――宝物を見せてくれるなんて、”とくべつ”みたいや!
涼子先生は、清潔で、明るい廊下を進み……大きな窓の嵌ったお部屋の前で止まった。見覚えのあるその場所に、どくんと鼓動が跳ねる。
――ここは……あの、怪我をした夜に見た場所?
突然、逃げたくなった。
自分でも、その気持ちに戸惑ってたら――手を握られた。
「――ほら、見てごらん!」
「……!」
まるで、やわらかな光が、差しているみたいやった。
お部屋の中には、たくさんの小さなベッドが並んでいて――ふくふくした赤ちゃんたちが、眠っていた。看護師さんが、大切そうに赤ちゃんたちを見守っている。
涼子先生は、ぼくの背をぽんと叩いた。
「ここはね、成ちゃんの先輩たちが、生んでくださった赤ちゃんたちのお部屋なんや。見てみぃ、みんな可愛らしいやろう?」
「センターの、あかちゃん……」
心臓が、どきんと鼓動する。
「ほんまに、立派なお仕事やんな。でね……ほら、見て」
先生はこっくり頷いて、ひとつのベッドを指さした。――「これが本題」なのだと言って。ふっくらした片頬に、照れくさいような笑みが乗る。
「成ちゃん、見える? あれが、”宝物”――うちの、家族なんやで」
今まで、見たことがないほど……とても幸せそうで、誇らしそうな笑顔だった。
仰向けの宏ちゃんの上に、半ば乗りかかるかたちで……背を抱かれて。お互いの脚を絡ませて、ぴったりと寄り添っている。
――ああ、あったかい……
芳しい香りにうっとりしながら、緩んだ唇を動かした。
「宏ちゃん……」
「成。――大丈夫か?」
優しく尋ねられ、頬が熱る。さっきまで、すごく奔放に振舞ってしまったのを、思い出してしまったん。……と、腰の奥に残る、甘い痺れが大きくなりそうで、慌てて頷く。
宏ちゃんは、ほうと息を吐いた。
「つい、貪り過ぎた。お前が可愛くて……」
「そ、そんな……ぼくのほうこそっ」
すごくしたかった――言いかけて、照れくさくなって口を噤む。もぞもぞと逞しい胸に頬を埋めると、喉の奥で笑う気配がある。
「嬉しいよ」
「……ほんと?」
「うん。俺も、お前が欲しかったから」
そこまで言うと、宏ちゃんはぎゅっ、とぼくを抱いた。咄嗟に抱き返し――じっと温かい腕に囲われていると、からだの奥から安堵がこみ上げてくる。
「宏ちゃん、大好き……」
心から、沁み出すような思いを、言葉にする。
「俺も。お前が大好きだよ」
宏ちゃんは頷いて、大きな手のひらで背中を撫でてくれた。情欲を感じない、泣く子をあやすような優しい手つき。「大丈夫だよ」って伝えてくれるときの――
「……っ」
なぜだか、胸がきゅうと痛くなって、鼻を啜る。
逞しい胸に頬を寄せると、鼓動を感じた。どくんどくんって、力強い響きに耳を傾けながら――ぼくは、そっと目を閉じる。
――宏ちゃんがいてくれれば、だいじょうぶなんだって。
***
「成ちゃん、おいで」
涼子先生が、笑って手招きする。ぼくは、喜びに胸をふくらませながら、とことこと駆け寄った。
お勉強の時間の後、先生がこっそり連れてきてくれた、医療棟。「大切な宝物」を紹介すると、嬉し気に耳打ちされて……ぼくは、嬉しくてたまらなかった。
――宝物を見せてくれるなんて、”とくべつ”みたいや!
涼子先生は、清潔で、明るい廊下を進み……大きな窓の嵌ったお部屋の前で止まった。見覚えのあるその場所に、どくんと鼓動が跳ねる。
――ここは……あの、怪我をした夜に見た場所?
突然、逃げたくなった。
自分でも、その気持ちに戸惑ってたら――手を握られた。
「――ほら、見てごらん!」
「……!」
まるで、やわらかな光が、差しているみたいやった。
お部屋の中には、たくさんの小さなベッドが並んでいて――ふくふくした赤ちゃんたちが、眠っていた。看護師さんが、大切そうに赤ちゃんたちを見守っている。
涼子先生は、ぼくの背をぽんと叩いた。
「ここはね、成ちゃんの先輩たちが、生んでくださった赤ちゃんたちのお部屋なんや。見てみぃ、みんな可愛らしいやろう?」
「センターの、あかちゃん……」
心臓が、どきんと鼓動する。
「ほんまに、立派なお仕事やんな。でね……ほら、見て」
先生はこっくり頷いて、ひとつのベッドを指さした。――「これが本題」なのだと言って。ふっくらした片頬に、照れくさいような笑みが乗る。
「成ちゃん、見える? あれが、”宝物”――うちの、家族なんやで」
今まで、見たことがないほど……とても幸せそうで、誇らしそうな笑顔だった。
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