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最終章〜唯一の未来〜
二百六十話【SIDE:陽平】
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「一体、何を考えている!」
家の中に入るやいなや、父さんは大喝した。
「蓑崎の家で、また晶君と接触するなど! お前はまだ、この状況をわかっていないのか?! 何かあったら、お前の名誉は地に落ちていたぞ!」
「申し訳ありません!」
火を噴くような勢いで怒鳴られ、頭を下げながら冷や汗が滲む。
帰路につく車中でずっと無言だったのは、運転手を気遣ってのことだったらしい。
「心底呆れ果てる……次は、お前を連れていくわけにいかんな」
「えっ……しかし! 俺にも責任が」
「何の責任が取れる。お前にも、弁明と謝罪の機会が必要かと連れて行ったが――意味は無かったようだ。後は私の言う通りにし、反省だけしていなさい」
早口に言うと、父さんは疲れたようにため息をついた。
「……申し訳ありません」
父に呆れられることは、何歳になっても胸を苛む。居心地の悪い気持ちで、立ち尽くしていると、父さんの背広から電子音が鳴る。
「――ああ、私だ。……わかった」
躊躇うことなく電話に出た父は、くるりと踵を返した。
「父さん、どちらに――」
「仕事だ。急ぎのようだから、出てくる」
帰って来たばかりで、靴も脱がないままで、また出かけるのか。
俺は、二階をちらりと見上げかけ――結局、会釈するにとどめる。
「そうですか。お気をつけて」
「……全く、せっかくの休暇になんてことだ」
父さんは小さく呟くと、家を出て行った。振り返りもしない背を見送り、知らず息を吐く。
握りしめていた手のひらに、汗が滲んでいた。
――俺が、馬鹿やったせいだ。だから仕方ない……失望されたって。
頭ではわかっているが、やはり堪えた。
幼い頃から、あの人に褒められた記憶がない。今度こそは、完全に見放されてしまったかもしれない。
「母さん、具合は」
帰ろうかと思ったが、母さんを見舞ってからにすることにした。母さんは、婚約破棄を父さんに伝えてからというもの、臥せってしまっている。
「陽平ちゃん……」
ベッドに横たわる母さんは、やつれて弱弱しかった。
俺は傍に寄って、優しく聞こえるよう心がけて、声をかけた。
「今日も、食べてないんだって? 体を壊すよ」
「……食欲がないの。あの人に、軽蔑されたと思ったら……」
「母さん……」
力なく目を伏せる母さんに、胸が重石を乗せられたように苦しくなる。
俺が馬鹿やったせいで、母さんまで父さんに叱責を受けたんだ。――あれだけ、父さんにはいい格好をしたかったこの人が、どれだけ打撃を受けたことか。
「お父さんは仕事に行ったの?」
「うん。電話があって」
「そう……」
母さんは、見るからに落ち込んでしまった。……父さんが、一度も見舞わないので、見捨てられたと思っているらしい。「そんなことはない」と思うけど、俺のせいだから居たたまれない。
「父さんは、俺のせいで忙しいだけだよ。だから……」
「いいの。わかってる……本当は、こんなことしてる場合じゃないって。馬鹿よね、何を甘えてるのかしら」
「……そんなことないよ」
自分でも、下手な慰めだなと思う。それを詰る元気もないらしく、母さんは力なく目を閉じた。
目を閉じていると顔色の悪さが際立って、心配になる。
――やっぱり、何も食えねえとよくねえよな……
「母さん、ちょっと待っててくれ」
「え?」
少し、思いついたことがあった。
家の中に入るやいなや、父さんは大喝した。
「蓑崎の家で、また晶君と接触するなど! お前はまだ、この状況をわかっていないのか?! 何かあったら、お前の名誉は地に落ちていたぞ!」
「申し訳ありません!」
火を噴くような勢いで怒鳴られ、頭を下げながら冷や汗が滲む。
帰路につく車中でずっと無言だったのは、運転手を気遣ってのことだったらしい。
「心底呆れ果てる……次は、お前を連れていくわけにいかんな」
「えっ……しかし! 俺にも責任が」
「何の責任が取れる。お前にも、弁明と謝罪の機会が必要かと連れて行ったが――意味は無かったようだ。後は私の言う通りにし、反省だけしていなさい」
早口に言うと、父さんは疲れたようにため息をついた。
「……申し訳ありません」
父に呆れられることは、何歳になっても胸を苛む。居心地の悪い気持ちで、立ち尽くしていると、父さんの背広から電子音が鳴る。
「――ああ、私だ。……わかった」
躊躇うことなく電話に出た父は、くるりと踵を返した。
「父さん、どちらに――」
「仕事だ。急ぎのようだから、出てくる」
帰って来たばかりで、靴も脱がないままで、また出かけるのか。
俺は、二階をちらりと見上げかけ――結局、会釈するにとどめる。
「そうですか。お気をつけて」
「……全く、せっかくの休暇になんてことだ」
父さんは小さく呟くと、家を出て行った。振り返りもしない背を見送り、知らず息を吐く。
握りしめていた手のひらに、汗が滲んでいた。
――俺が、馬鹿やったせいだ。だから仕方ない……失望されたって。
頭ではわかっているが、やはり堪えた。
幼い頃から、あの人に褒められた記憶がない。今度こそは、完全に見放されてしまったかもしれない。
「母さん、具合は」
帰ろうかと思ったが、母さんを見舞ってからにすることにした。母さんは、婚約破棄を父さんに伝えてからというもの、臥せってしまっている。
「陽平ちゃん……」
ベッドに横たわる母さんは、やつれて弱弱しかった。
俺は傍に寄って、優しく聞こえるよう心がけて、声をかけた。
「今日も、食べてないんだって? 体を壊すよ」
「……食欲がないの。あの人に、軽蔑されたと思ったら……」
「母さん……」
力なく目を伏せる母さんに、胸が重石を乗せられたように苦しくなる。
俺が馬鹿やったせいで、母さんまで父さんに叱責を受けたんだ。――あれだけ、父さんにはいい格好をしたかったこの人が、どれだけ打撃を受けたことか。
「お父さんは仕事に行ったの?」
「うん。電話があって」
「そう……」
母さんは、見るからに落ち込んでしまった。……父さんが、一度も見舞わないので、見捨てられたと思っているらしい。「そんなことはない」と思うけど、俺のせいだから居たたまれない。
「父さんは、俺のせいで忙しいだけだよ。だから……」
「いいの。わかってる……本当は、こんなことしてる場合じゃないって。馬鹿よね、何を甘えてるのかしら」
「……そんなことないよ」
自分でも、下手な慰めだなと思う。それを詰る元気もないらしく、母さんは力なく目を閉じた。
目を閉じていると顔色の悪さが際立って、心配になる。
――やっぱり、何も食えねえとよくねえよな……
「母さん、ちょっと待っててくれ」
「え?」
少し、思いついたことがあった。
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