いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
上 下
247 / 393
第四章~新たな門出~

二百四十六話

しおりを挟む
 それから――ぼくは、もう二日センターでお世話になって、退院しました。
 というのも、精密検査することになったからなんよ。
 
「そんな、大丈夫やで。CTじゃ、何もなかったって……」 
「駄目だ。頭を打ってるんだぞ。しっかり調べてからの方が、絶対に安心だから」
 
 と、宏ちゃんがいたく心配してくれて。運び込まれた時の検査でも、大丈夫って結果やったそうやのに……優しいよな。
「心配かけてごめんね」って思いつつも、凄くじんわりしてしまった。
 で、検査の結果……大事はないことがわかったので、うさぎやへ帰れることになったんよ。
 
「成ちゃん、美味しいもの食べて養生するんやで。もう、今回みたいなのは勘弁してな!」
「はいっ、涼子先生。心配かけてごめんなさい。気をつけます」
 
 目を潤ませた涼子先生に叱られて、ぼくはぺこぺこ謝った。涼子先生、ぼくの顔を見て卒倒してしもたから……すっごい心配かけたんやなあって、猛省です。
 
「ほんまに、ありがとうございました」
「成己くん、お大事に」
 
 道すがら、お世話になった職員さんたちに、挨拶をする。
 忙しいのに、皆かわるがわるお見舞いに来てくれて、嬉しかった。宏ちゃんと話している中谷先生に近づくと、にこにこと振り返らはる。
 
「先生、お世話になりました」 
「成己くん、退院おめでとう。あ、宏章くんにも伝えたけど、経過をみるから、また一週間後にね。もちろん、何かおかしいなと思ったら、すぐに来るんだよ?」
「中谷先生……ありがとうございますっ」
 
 ぼくは、にっこり(痛いのでちょっと控えめ)して、頭を下げた。
 そっと、お腹に手を当てる。検査の後、先生に教えてもらったことを思い出して、唇がほころんだ。
 
「帰ろうか、成」
「うんっ」
 
 差し出された宏ちゃんの手を取って、ぼくはセンターを後にした。
 
 
 
 
 
 家に帰りついたぼくは、目を丸くした。
 
「……綾人! と……えと、お兄さん?」
 
 お店の前には、人影が二つ……綾人と、お兄さんが訪ねてきてくれてたんよ。
 
「成己……今日、退院するって聞いてきたんだ」
 
 車を降りてくと、綾人はぱたぱたと駆け寄ってきて、いきなり頭を下げた。
「怪我をさせちゃって、本当にごめん」って、退院祝いの花束を差し出され、目を丸くする。
 
「綾人のせいじゃないよ! ぼくの方こそ、心配かけてごめんね」
「何いってんだよ! オレと朝匡の喧嘩に巻き込んだから。オレ、成己に何かあったらって……」
「へいきやで。ぼく、けっこう頑丈なんやから」
 
 泣き出しそうな綾人の肩を、ぽんと撫でた。今回のことは、ぼくが突っ走ってしもただけやから。綾人には、なにも気にして欲しくなかったん。
 
「巻き込んだなんて、さみしいこと言わんといて。友達やん」
「……成己ぃ!」
 
 目を潤ませた綾人が、ばっと両手を広げる。
 と……ぼくは、ふわりと後ろに抱き寄せられた。――森の香りに包まれて、目をぱちりと瞬く。

「あれ? なんで?」
 
 綾人は不思議そうに、ぼくの後ろ……宏ちゃんを見上げた。
 
「一緒に来たってことは、兄貴とは仲直りしたのかな?」
 
 宏ちゃんは訊ねた。穏やかなんやけど、有無を言わせへん気迫があって、ぼくはどきりとする。
 綾人は、緊張した面持ちで背筋を伸ばした。

「宏章さん、すみません。ええと、仲直りかと言うと……」

 そう言って、綾人が心細げに目を向けたのは、お兄さん。

「……」

 お兄さんは、ずっと押し黙ってはる。
 いつもやったら、綾人の側について、わいわい言うてはるのに。

――……まるで、お兄さんやないみたい。

 と言うより、本当にお兄さんかしら、と疑問さえ湧く。
 だってね、今日のお兄さんは、お兄さんらしくないと言うか……お顔が見えなくて。綾人と一緒に居ることと、スーツの雰囲気で判断したと言うか。
 つまり、

 ――お兄さん、なんで包帯ぐるぐる巻なんやろ?

 お兄さんと思しきお方は、何故か顔が包帯ぐるぐる巻で。
 絶対言えないけど……お兄さんと言うより、犬神家のスケキヨさんみたいなんやもの。

しおりを挟む
感想 211

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

【完結】妹が私の婚約者から好意を抱かれていると言いましたけど、それだけは絶対にあり得ませんから

白草まる
恋愛
シルビアとセリアの姉妹はルーファスと幼馴染であり、家族ぐるみの付き合いが続いていた。 やがてルーファスとシルビアは婚約を結び、それでも変わらない関係が続いていた。 しかし、セリアが急に言い出したのだ。 「私、よく考えてみたのですけど……ルーファス様、私のことが好きですよね?」

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

処理中です...