いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第四章~新たな門出~

二百四十六話

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 それから――ぼくは、もう二日センターでお世話になって、退院しました。
 というのも、精密検査することになったからなんよ。
 
「そんな、大丈夫やで。CTじゃ、何もなかったって……」 
「駄目だ。頭を打ってるんだぞ。しっかり調べてからの方が、絶対に安心だから」
 
 と、宏ちゃんがいたく心配してくれて。運び込まれた時の検査でも、大丈夫って結果やったそうやのに……優しいよな。
「心配かけてごめんね」って思いつつも、凄くじんわりしてしまった。
 で、検査の結果……大事はないことがわかったので、うさぎやへ帰れることになったんよ。
 
「成ちゃん、美味しいもの食べて養生するんやで。もう、今回みたいなのは勘弁してな!」
「はいっ、涼子先生。心配かけてごめんなさい。気をつけます」
 
 目を潤ませた涼子先生に叱られて、ぼくはぺこぺこ謝った。涼子先生、ぼくの顔を見て卒倒してしもたから……すっごい心配かけたんやなあって、猛省です。
 
「ほんまに、ありがとうございました」
「成己くん、お大事に」
 
 道すがら、お世話になった職員さんたちに、挨拶をする。
 忙しいのに、皆かわるがわるお見舞いに来てくれて、嬉しかった。宏ちゃんと話している中谷先生に近づくと、にこにこと振り返らはる。
 
「先生、お世話になりました」 
「成己くん、退院おめでとう。あ、宏章くんにも伝えたけど、経過をみるから、また一週間後にね。もちろん、何かおかしいなと思ったら、すぐに来るんだよ?」
「中谷先生……ありがとうございますっ」
 
 ぼくは、にっこり(痛いのでちょっと控えめ)して、頭を下げた。
 そっと、お腹に手を当てる。検査の後、先生に教えてもらったことを思い出して、唇がほころんだ。
 
「帰ろうか、成」
「うんっ」
 
 差し出された宏ちゃんの手を取って、ぼくはセンターを後にした。
 
 
 
 
 
 家に帰りついたぼくは、目を丸くした。
 
「……綾人! と……えと、お兄さん?」
 
 お店の前には、人影が二つ……綾人と、お兄さんが訪ねてきてくれてたんよ。
 
「成己……今日、退院するって聞いてきたんだ」
 
 車を降りてくと、綾人はぱたぱたと駆け寄ってきて、いきなり頭を下げた。
「怪我をさせちゃって、本当にごめん」って、退院祝いの花束を差し出され、目を丸くする。
 
「綾人のせいじゃないよ! ぼくの方こそ、心配かけてごめんね」
「何いってんだよ! オレと朝匡の喧嘩に巻き込んだから。オレ、成己に何かあったらって……」
「へいきやで。ぼく、けっこう頑丈なんやから」
 
 泣き出しそうな綾人の肩を、ぽんと撫でた。今回のことは、ぼくが突っ走ってしもただけやから。綾人には、なにも気にして欲しくなかったん。
 
「巻き込んだなんて、さみしいこと言わんといて。友達やん」
「……成己ぃ!」
 
 目を潤ませた綾人が、ばっと両手を広げる。
 と……ぼくは、ふわりと後ろに抱き寄せられた。――森の香りに包まれて、目をぱちりと瞬く。

「あれ? なんで?」
 
 綾人は不思議そうに、ぼくの後ろ……宏ちゃんを見上げた。
 
「一緒に来たってことは、兄貴とは仲直りしたのかな?」
 
 宏ちゃんは訊ねた。穏やかなんやけど、有無を言わせへん気迫があって、ぼくはどきりとする。
 綾人は、緊張した面持ちで背筋を伸ばした。

「宏章さん、すみません。ええと、仲直りかと言うと……」

 そう言って、綾人が心細げに目を向けたのは、お兄さん。

「……」

 お兄さんは、ずっと押し黙ってはる。
 いつもやったら、綾人の側について、わいわい言うてはるのに。

――……まるで、お兄さんやないみたい。

 と言うより、本当にお兄さんかしら、と疑問さえ湧く。
 だってね、今日のお兄さんは、お兄さんらしくないと言うか……お顔が見えなくて。綾人と一緒に居ることと、スーツの雰囲気で判断したと言うか。
 つまり、

 ――お兄さん、なんで包帯ぐるぐる巻なんやろ?

 お兄さんと思しきお方は、何故か顔が包帯ぐるぐる巻で。
 絶対言えないけど……お兄さんと言うより、犬神家のスケキヨさんみたいなんやもの。

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