161 / 346
第三章~お披露目~
百六十話
しおりを挟む
「はぁ~……」
ぼくは、しょんぼりと息を吐く。
翌日の午前中――無事ホテルのロビーに、到着しました。大きな窓から見える庭園には、さんさんと陽光が差して、緑が萌えてます……。
「どした、成己。なんか暗くね?」
「あっ」
隣の綾人が、不思議そうに問う。ぼくは、ハッとわれに返る。――いけない、暗い顔するなんて。
「なんでもないねん。ちょっと緊張して」
この言い訳、めっちゃ使ってる気がする。綾人は、「なんだ」と白い歯を見せて笑った。
「だーいじょうぶだって! パーティたって、オレらは殆どすることねえしさ。楽しもうよ」
「綾人……」
がし、と肩を組まれる。夏の陽射しに負けない綾人の笑顔に、勇気づけられた。
「うん……! ありがとう、綾人」
にっこりすると、綾人が照れたように目元を赤らめる。
「へへ……成己、めっちゃ綺麗だな」
「本当?! 嬉しいっ」
ぼくは、ぱっと笑顔になる。
宏兄が選んでくれた桜色のスーツには、繊細な刺繍が施されてて。すごく綺麗で、ぼくも大好きなん。
「綾人もスーツ、凄く決まってる。かっこいいね!」
「そうかなー、へへへ」
爽やかなネイビーのスーツに、活動的なスニーカーが綾人らしい。シンプルな分、彼の颯爽とした美質が際立っていた。
心から言うと、綾人は嬉しそうにポーズをとってる。かわいい。
「ホントは、パーティだしさ。着ぐるみ借りて、着てこうと思ったんだよ! ゆるキャラとか、お義母さん好きだしウケるかなって。朝匡に止められちまったけど」
「あはは。お茶目すぎるよっ」
綾人って、ほんとに楽しいんやから。
和やかに談笑していると、「おーい」と声がかかった。ぼくは途端に、ぎくりと肩を強張らせる。
「あ、宏章さん!」
離れたところで、お兄さんと話していた宏兄が、にこやかに言う。
「成、綾人くん。お待たせ。もうじき受付が始まるらしいから、行こうか」
「わかったっす! あれ、朝匡は」
「兄貴は、母さんに捕まってるよ」
朗らかに話す二人の声を聴きながら、俯いていると……ぽんと背中を叩かれる。
「宏兄」
「成、行こう。大丈夫だよ」
「……っうん」
宏兄が微笑んで、手を差し出してくれた。ぼくは、大きな手を取りながら、なんとか頷く。
――うう。優しい笑顔が、見られへんよう……
ぼくは、昨夜のことを思い出す。
あのあとね――結局、なんもなかったんよ。
『成。無理しなくていい』
『えっ……』
ボタンを外そうとした手を、そっと宏兄が押しとどめた。驚いて見上げたら、優しい眼差しがあって――そっと腕に抱き寄せられたん。
『ほら、こんなに震えてるじゃないか』
かたかたと震える体に、気づかれていたみたい。宏兄は、優しい手つきで頭を撫でてくれた。
『でも……』
『いいんだよ。俺のために、ありがとうな』
そして、宏兄はぼくを腕に抱いたまま、寝かしつけてくれたと言うわけなんです。
――罪悪感っ!
「あうう」
頭を抱えて、うんうん唸る。
自分から誘っておいて、結局は怖気づいてしまうなんて、ぼくは一体何様なん?!
それやのに、宏兄は本当に優しいから。朝からも、ずっといつも通りに接してくれてるん。ぼくは、宏兄に申し訳なくて……ぎこちなくなってしまって。
――ぼくのバカ。宏兄は、こんなに優しいのに……怖いことなんか、ないやんか。
ニ十歳で、大人やし。結婚もしてるのに……ぼく、気もちが甘えてるんやろうか。
「……」
ちらり、と宏兄を見上げると、「ん?」と切れ長の目が尋ねてる。
その背後に、パーティの受付が見えて、ハッとする。
「どうしたんだ、成」
「だ、大丈夫ですっ!」
ぼくは、慌ててぶんぶんと頭を振った。
いけない。これ以上、心配かけたら――ぼくは、ふんすと気合を入れなおす。
――えい、しっかりしなさい! 今日はお義母さんの誕生日……心を込めて、お祝いするんや!
宏兄がそっとしてくれてるのに、ぼくが蒸し返していてどうするっ。
ぼくは、にっこりする。
「なんでもないよっ。さっきね、パーティ楽しみやなって、綾人と話してたん」
「そうか。今日はな、色々とあるらしいぞ」
宏兄は、ほっとしたように目元を和らげる。
「うおー! メシもっすか?」
「ああ、メシもな」
和やかに話しながら、ぼく達は受付を終え、パーティ会場に足を踏み入れた。
そこで、驚きの事件が待ち受けていると、知らないまま――
ぼくは、しょんぼりと息を吐く。
翌日の午前中――無事ホテルのロビーに、到着しました。大きな窓から見える庭園には、さんさんと陽光が差して、緑が萌えてます……。
「どした、成己。なんか暗くね?」
「あっ」
隣の綾人が、不思議そうに問う。ぼくは、ハッとわれに返る。――いけない、暗い顔するなんて。
「なんでもないねん。ちょっと緊張して」
この言い訳、めっちゃ使ってる気がする。綾人は、「なんだ」と白い歯を見せて笑った。
「だーいじょうぶだって! パーティたって、オレらは殆どすることねえしさ。楽しもうよ」
「綾人……」
がし、と肩を組まれる。夏の陽射しに負けない綾人の笑顔に、勇気づけられた。
「うん……! ありがとう、綾人」
にっこりすると、綾人が照れたように目元を赤らめる。
「へへ……成己、めっちゃ綺麗だな」
「本当?! 嬉しいっ」
ぼくは、ぱっと笑顔になる。
宏兄が選んでくれた桜色のスーツには、繊細な刺繍が施されてて。すごく綺麗で、ぼくも大好きなん。
「綾人もスーツ、凄く決まってる。かっこいいね!」
「そうかなー、へへへ」
爽やかなネイビーのスーツに、活動的なスニーカーが綾人らしい。シンプルな分、彼の颯爽とした美質が際立っていた。
心から言うと、綾人は嬉しそうにポーズをとってる。かわいい。
「ホントは、パーティだしさ。着ぐるみ借りて、着てこうと思ったんだよ! ゆるキャラとか、お義母さん好きだしウケるかなって。朝匡に止められちまったけど」
「あはは。お茶目すぎるよっ」
綾人って、ほんとに楽しいんやから。
和やかに談笑していると、「おーい」と声がかかった。ぼくは途端に、ぎくりと肩を強張らせる。
「あ、宏章さん!」
離れたところで、お兄さんと話していた宏兄が、にこやかに言う。
「成、綾人くん。お待たせ。もうじき受付が始まるらしいから、行こうか」
「わかったっす! あれ、朝匡は」
「兄貴は、母さんに捕まってるよ」
朗らかに話す二人の声を聴きながら、俯いていると……ぽんと背中を叩かれる。
「宏兄」
「成、行こう。大丈夫だよ」
「……っうん」
宏兄が微笑んで、手を差し出してくれた。ぼくは、大きな手を取りながら、なんとか頷く。
――うう。優しい笑顔が、見られへんよう……
ぼくは、昨夜のことを思い出す。
あのあとね――結局、なんもなかったんよ。
『成。無理しなくていい』
『えっ……』
ボタンを外そうとした手を、そっと宏兄が押しとどめた。驚いて見上げたら、優しい眼差しがあって――そっと腕に抱き寄せられたん。
『ほら、こんなに震えてるじゃないか』
かたかたと震える体に、気づかれていたみたい。宏兄は、優しい手つきで頭を撫でてくれた。
『でも……』
『いいんだよ。俺のために、ありがとうな』
そして、宏兄はぼくを腕に抱いたまま、寝かしつけてくれたと言うわけなんです。
――罪悪感っ!
「あうう」
頭を抱えて、うんうん唸る。
自分から誘っておいて、結局は怖気づいてしまうなんて、ぼくは一体何様なん?!
それやのに、宏兄は本当に優しいから。朝からも、ずっといつも通りに接してくれてるん。ぼくは、宏兄に申し訳なくて……ぎこちなくなってしまって。
――ぼくのバカ。宏兄は、こんなに優しいのに……怖いことなんか、ないやんか。
ニ十歳で、大人やし。結婚もしてるのに……ぼく、気もちが甘えてるんやろうか。
「……」
ちらり、と宏兄を見上げると、「ん?」と切れ長の目が尋ねてる。
その背後に、パーティの受付が見えて、ハッとする。
「どうしたんだ、成」
「だ、大丈夫ですっ!」
ぼくは、慌ててぶんぶんと頭を振った。
いけない。これ以上、心配かけたら――ぼくは、ふんすと気合を入れなおす。
――えい、しっかりしなさい! 今日はお義母さんの誕生日……心を込めて、お祝いするんや!
宏兄がそっとしてくれてるのに、ぼくが蒸し返していてどうするっ。
ぼくは、にっこりする。
「なんでもないよっ。さっきね、パーティ楽しみやなって、綾人と話してたん」
「そうか。今日はな、色々とあるらしいぞ」
宏兄は、ほっとしたように目元を和らげる。
「うおー! メシもっすか?」
「ああ、メシもな」
和やかに話しながら、ぼく達は受付を終え、パーティ会場に足を踏み入れた。
そこで、驚きの事件が待ち受けていると、知らないまま――
139
お気に入りに追加
1,402
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
Tally marks
あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。
カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。
「関心が無くなりました。別れます。さよなら」
✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。
✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。
✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。
✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。
✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません)
🔺ATTENTION🔺
このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。
そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。
そこだけ本当、ご留意ください。
また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい)
➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。
➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。
個人サイトでの連載開始は2016年7月です。
これを加筆修正しながら更新していきます。
ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
いっそあなたに憎まれたい
石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。
貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。
愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。
三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。
そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。
誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。
これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる