いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百五十七話

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 さやさやと、カーテンが揺れる音がした。
 書斎の窓は開け放たれていて、涼しい風が入り込んでいた。滲んだ視界に、白い光の帯が巻いている。
 
「成……」 
「宏兄っ……」
 
 ソファに転がって、ぼくと宏兄は唇を交わしていた。――宏兄の原稿のお手伝いをしていて、「休憩をしよう」ってお茶を飲んでいたんやけど。手と手が触れ合ったと思ったら、もう、こんなことに……
 
 ――……あったかい。きもちいいよう……
 
 ぼくはうっとりして、宏兄の舌を受け入れた。
 抱きしめられた体も、慈しむように包まれる唇も。ふわふわとやわらかな幸せに、体が溶けていきそうになる。
  
「……成、好きだよ」
「……!」
 
 宏兄が、キスの隙間に言ってくれた。胸がきゅんとして、ぼくは大きな背中にしがみつく。すると、キスがもっと甘いものになって、すぐにとろとろになってしまった。
 
「ひろにい……」
「……可愛いなあ」
 
 くったりと、ソファに身を凭れさせて、浅い息を吐いていると――宏兄が熱い目でぼくを見てる。その眼差しは、ぼくの全身にシャワーみたいに降り注いでいて……くすぐったいような、逃げ出したいような気持になった。
 思わず、ころんと寝返りをうつと、くすりと宏兄が笑った。
 
「なーる。ほら、もう一回」
「あっ……宏兄」
 
 頬を包まれて――また、キスが始まる。今度もすぐに深くなって、ぼくの舌に宏兄が触れてきた。――引っ込み思案なこどもの手を引くように、そっと……でも、しっかりと。宏兄は、辛抱強く待ちながらも、ぼくを導いてくれた。
 口いっぱいに、宏兄の動きを感じていると……からだがホカホカ熱くなって、呼吸が弾んだ。
 
「成……」
 
 ぼくを呼ぶ宏兄の声も、蜂蜜みたいに甘い。 
 はっとしたときには……宏兄の大きな手が、ぼくのシャツのボタンに触れていた。ぷつん、と音をたて、瞬く間にひとつ外れてしまう。あれよあれよと、襟の間に、宏兄の手がすべりこんでいた。
 
「あっ、わっ」
 
 脱がされちゃう!
 ぶわわ、と顔が熱くなって、体がカチコチになる。
 はだけた肌に、宏兄の唇がタッチした。そのまま、降りてきたキスが……鎖骨をとらえる。背筋にきゅんと甘い痺れが走って――ぼくは、「あっ」と目を見開いた。
 
 ――だ、だめーっ……!
 
 ぎゅう、と体を縮ませたそのとき――ぴりりり、と電子音が響く。
 ぼくはハッとして、宏兄の肩を叩いた。
 
「ひ、宏兄っ。お電話鳴ってるよ!」
「えー。出なきゃ駄目か?」
「ダメッ。お仕事かも! 出て。ねっ」
「くっ。良いとこだったのに……」
 
 宏兄は悔しそうに言うと、スマホを掴み部屋を出て行った。
 大きな背を見送って……ぼくは、「はふう」と息を吐く。
 
「うう。ごめんね、宏兄……」
 
 ぼくは、いっぱいキスをしていたせいで、ふわふわと熱を持つ唇を撫でる。
 体にも、恋人らしい触れ合いの恍惚感が残っていた。
 こうして、宏兄と触れ合うことが、日常になりつつあって。すごく……その、嬉しいなって思ってるのに。

「……また、誤魔化してしもたぁ」

 ぎゅ、とはだけたシャツを掻き合わせる。さっき、宏兄が外したボタンを、のろのろと留めなおした。

 ――ぼくと宏兄は、夫婦やのに。夫婦になるって、ちゃんと決めたのに……意気地なしっ。

 絶対にいやじゃない。ぼくなんかを求めてくれて、本当に嬉しい。
 せやのに――良い雰囲気になるたびに、腰が引けてしまう。
 ため息をついて、自らのからだを見下ろした。……やせっぽちで、子供っぽい。

「……」

 裸になるのが怖い、なんて――第一段階が、だめやんね。

「もうっ。ちゃんとしなくちゃ……!」

 パチン、と頬を叩く。
 いつまでも、宏兄の優しさに甘えてたらあかん。
 次こそは――ぼくは、ぎゅっと拳を握った。
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