149 / 390
第三章~お披露目~
百四十八話
しおりを挟む「う~ん」
二日後……ぼくは、自室でカタログを広げ、頭を絞っていた。
ティーセットを贈ると決めてから、あれこれと調べてみてるんよ。アイデアは宏兄がくれたから、「品物は選びたい」って、お任せしてもらったんやけど。
あちこちお店に行ったり、雑誌を調べてはいるものの……なかなかピンときません。
――お義母さんはコレクター。まだ持ってなくて、素敵なものを渡したい……!
うんうんと唸っていると、階下から賑やかな声が響いて来た。
「どうしたんやろう?」
お店の方から声がするみたい。
不思議に思って、下りて行ってみると――そこには宏兄と、意外な人がいて、ぼくは目を丸くした。
「杉田さん?!」
「成ちゃーん! 久しぶりだねえ!」
うさぎやの常連の杉田さんが、にこやかに手を振っていた。杉田さんは、カウンターに腰かけて、たくさんのアルバムを広げてはる。
「杉田さん、お久しぶりですっ。結婚式、お祝いに来てもろて、ありがとうございました」
「いやいやいや! 僕の台詞。良いもの見せて貰って、寿命が延びた!」
ぱしぱしと肩を叩かれて、笑いが零れる。
カウンターで作業していた宏兄が、嬉しそうに言った。
「成、ちょうどいいところに。杉田さん、結婚式の写真持ってきてくれたんだ」
「えっ、そうなんですか? わあ……こんなにいっぱい!」
杉田さん、結婚式のお写真撮ってくれてたん。現像が終わったから、アルバムにして持ってきてくれはったんやって!
「いや、下手の横好きなんだけどねえ。よかったらね、記念にね」
少し気恥ずかしそうに渡されたアルバムには、あの素敵な一日が再現されていた。
――チャペルから降りそそぐ光。中谷先生と歩いた、バージンロード。宏兄と、将来を誓った瞬間。お祝いしてくれた、皆の笑顔……見ていると、どっと感動がぶり返してくる。
ぼくは、夢中でページを繰りながら、すんと鼻を啜った。
「すごい嬉しいっ……こんな素敵なの、頂いていいんですか?」
「貰って、貰って! いやあ、喜んでもらえて、感激だなあ」
杉田さんは、顔を真っ赤にして頭を掻いている。宏兄は笑いながら、ぼくの目尻に浮かんだ涙を拭ってくれた。
「杉田さんの写真、いいよな。俺もさっき泣いちまったよ」
「嘘つけ、店長! 「店は休みだぞ」ってけんもほろろだったろ!」
「いやいや……俺、新婚ですよ?! ほんと能う限り、成とイチャイチャしてたいんですって。――それが奇しくも、この写真があったから、こうして珈琲だっていれてるってわけで」
「おお、待ってました!」
カウンター越しに、アイスコーヒーを宏兄がサーブする。杉田さんは、嬉しそうに受け取った。
宏兄ってば、なんやかんや嬉しいくせに。わいわいと話す二人を見ながら、ぼくはくすりと笑った。
「はあ~……杉田さん、ほんまにお写真上手ですねえ」
「ははは……成ちゃんは感動屋さんだなあ」
アルバムを見せてもらいながら、しみじみと呟く。光の入り方、シーンの切り取り方と言い……とてもロマンチックで、惚れ惚れしてまう。
すると、宏兄が驚きの情報を言った。
「成、この人謙遜してるんだ。ねえ、杉田さん。作家のパンフレットの写真とか、撮ってるじゃないですか」
「ええっ!」
「いやいや……! ほんと、仕事だなんて! 親戚の子の手伝いしてるだけだよ!?」
杉田さんは、顔を真っ赤にして首を振った。
謙遜しながら説明されることには――杉田さんの親戚に、陶芸作家をしてはる方がおられるそうなん。それで、作品のパンフレットをつくってくれないかって依頼が来たんやって。
ぼくは目を輝かせて、身を乗り出す。
「すごーい! 見てみたいです!」
「いやもう……参ったなあ~」
杉田さんは、恥ずかしそうに鞄からクリアファイルを取り出した。それは、A5サイズの小冊子で……あたたかな印象の橙色の表紙がついていた。
「わあ……」
感嘆の吐息が漏れる。
販売を目的にしたパンフレットらしく、用途と一緒に作品の写真が載ってる。書店に置いてあるのと遜色がない素敵なもので、杉田さんは謙遜しすぎやと思う。
素敵なお写真は、明瞭に品物がわかるだけでなく、見てるとロマンチックな気持ちになる。さらにぼくを驚かせたのが――その作品やったん。
「……かわいい!」
「でしょう。良いデザインだよねえ」
杉田さんが頷く。
陶芸作家さんっていうと、すごく渋い感じの作品のイメージやったん。でも、ここにあるのは、かわいい今風のデザイン。それでいて、あたたかみのある土の質感があって……すごく素敵。
「この子、脱サラして始めたばっかで、まだ知名度が無くてね。いいもの作ってるのに、あんまり売れてないんだよ」
「そうなんですか。もったいないなあ……手作りの一点ものは、現代じゃ貴重なのに」
宏兄が、残念そうに言う。ぼくは会話を上の空に聞きながら――あるページに釘づけになっていた。
「……あっ」
ふっくらした丸みのある胴体は、あたたかな土の質感が感じられる。うわぐすりで淡い空色に染め抜かれて……白い雲と猫の意匠があしらわれている……かわいいティーポット。
目を皿にして確認すると……お揃いのティーカップもある!
――これだ~!!!
101
関連作品
「いつでも僕の帰る場所」短編集
「いつでも僕の帰る場所」短編集
お気に入りに追加
1,475
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

半分だけ特別なあいつと僕の、遠まわりな十年間。
深嶋
BL
恵まれた家庭環境ではないけれど、容姿には恵まれ、健気に明るく過ごしていた主人公・水元佑月。
中学一年生の佑月はバース判定検査の結果待ちをしていたが、結果を知る前に突然ヒート状態になり、発情事故を起こしてしまう。
隣のクラスの夏原にうなじを噛まれ、大きく変わってしまった人生に佑月は絶望する。
――それから数か月後。
新天地で番解消のための治療をはじめた佑月は、持ち前の明るさで前向きに楽しく生活していた。
新たな恋に夢中になっていたある日、佑月は夏原と再会して……。
色々ありながらも佑月が成長し、運命の恋に落ちて、幸せになるまでの十年間を描いた物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる