いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百四十八話

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「う~ん」
 
 二日後……ぼくは、自室でカタログを広げ、頭を絞っていた。
 ティーセットを贈ると決めてから、あれこれと調べてみてるんよ。アイデアは宏兄がくれたから、「品物は選びたい」って、お任せしてもらったんやけど。
 あちこちお店に行ったり、雑誌を調べてはいるものの……なかなかピンときません。
 
 ――お義母さんはコレクター。まだ持ってなくて、素敵なものを渡したい……!
 
 うんうんと唸っていると、階下から賑やかな声が響いて来た。
 
「どうしたんやろう?」
 
 お店の方から声がするみたい。
 不思議に思って、下りて行ってみると――そこには宏兄と、意外な人がいて、ぼくは目を丸くした。
 
「杉田さん?!」
「成ちゃーん! 久しぶりだねえ!」
 
 うさぎやの常連の杉田さんが、にこやかに手を振っていた。杉田さんは、カウンターに腰かけて、たくさんのアルバムを広げてはる。
 
「杉田さん、お久しぶりですっ。結婚式、お祝いに来てもろて、ありがとうございました」
「いやいやいや! 僕の台詞。良いもの見せて貰って、寿命が延びた!」
 
 ぱしぱしと肩を叩かれて、笑いが零れる。
 カウンターで作業していた宏兄が、嬉しそうに言った。
 
「成、ちょうどいいところに。杉田さん、結婚式の写真持ってきてくれたんだ」
「えっ、そうなんですか? わあ……こんなにいっぱい!」
 
 杉田さん、結婚式のお写真撮ってくれてたん。現像が終わったから、アルバムにして持ってきてくれはったんやって!
 
「いや、下手の横好きなんだけどねえ。よかったらね、記念にね」
 
 少し気恥ずかしそうに渡されたアルバムには、あの素敵な一日が再現されていた。
 ――チャペルから降りそそぐ光。中谷先生と歩いた、バージンロード。宏兄と、将来を誓った瞬間。お祝いしてくれた、皆の笑顔……見ていると、どっと感動がぶり返してくる。
 ぼくは、夢中でページを繰りながら、すんと鼻を啜った。
 
「すごい嬉しいっ……こんな素敵なの、頂いていいんですか?」
「貰って、貰って! いやあ、喜んでもらえて、感激だなあ」
 
 杉田さんは、顔を真っ赤にして頭を掻いている。宏兄は笑いながら、ぼくの目尻に浮かんだ涙を拭ってくれた。
 
「杉田さんの写真、いいよな。俺もさっき泣いちまったよ」
「嘘つけ、店長! 「店は休みだぞ」ってけんもほろろだったろ!」
「いやいや……俺、新婚ですよ?! ほんと能う限り、成とイチャイチャしてたいんですって。――それが奇しくも、この写真があったから、こうして珈琲だっていれてるってわけで」
「おお、待ってました!」
 
 カウンター越しに、アイスコーヒーを宏兄がサーブする。杉田さんは、嬉しそうに受け取った。
 宏兄ってば、なんやかんや嬉しいくせに。わいわいと話す二人を見ながら、ぼくはくすりと笑った。
 
 
「はあ~……杉田さん、ほんまにお写真上手ですねえ」
「ははは……成ちゃんは感動屋さんだなあ」
 
 アルバムを見せてもらいながら、しみじみと呟く。光の入り方、シーンの切り取り方と言い……とてもロマンチックで、惚れ惚れしてまう。
 すると、宏兄が驚きの情報を言った。
 
「成、この人謙遜してるんだ。ねえ、杉田さん。作家のパンフレットの写真とか、撮ってるじゃないですか」
「ええっ!」
「いやいや……! ほんと、仕事だなんて! 親戚の子の手伝いしてるだけだよ!?」
 
 杉田さんは、顔を真っ赤にして首を振った。
 謙遜しながら説明されることには――杉田さんの親戚に、陶芸作家をしてはる方がおられるそうなん。それで、作品のパンフレットをつくってくれないかって依頼が来たんやって。
 ぼくは目を輝かせて、身を乗り出す。
 
「すごーい! 見てみたいです!」
「いやもう……参ったなあ~」
 
 杉田さんは、恥ずかしそうに鞄からクリアファイルを取り出した。それは、A5サイズの小冊子で……あたたかな印象の橙色の表紙がついていた。
 
「わあ……」
 
 感嘆の吐息が漏れる。
 販売を目的にしたパンフレットらしく、用途と一緒に作品の写真が載ってる。書店に置いてあるのと遜色がない素敵なもので、杉田さんは謙遜しすぎやと思う。
 素敵なお写真は、明瞭に品物がわかるだけでなく、見てるとロマンチックな気持ちになる。さらにぼくを驚かせたのが――その作品やったん。
 
「……かわいい!」
「でしょう。良いデザインだよねえ」
 
 杉田さんが頷く。
 陶芸作家さんっていうと、すごく渋い感じの作品のイメージやったん。でも、ここにあるのは、かわいい今風のデザイン。それでいて、あたたかみのある土の質感があって……すごく素敵。
 
「この子、脱サラして始めたばっかで、まだ知名度が無くてね。いいもの作ってるのに、あんまり売れてないんだよ」
「そうなんですか。もったいないなあ……手作りの一点ものは、現代じゃ貴重なのに」
 
 宏兄が、残念そうに言う。ぼくは会話を上の空に聞きながら――あるページに釘づけになっていた。
 
「……あっ」
 
 ふっくらした丸みのある胴体は、あたたかな土の質感が感じられる。うわぐすりで淡い空色に染め抜かれて……白い雲と猫の意匠があしらわれている……かわいいティーポット。
 目を皿にして確認すると……お揃いのティーカップもある!
 
 ――これだ~!!!
 
 
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