いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百四十六話

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 ともかく、家に上がってもらった綾人と、ぼく達はリビングで向かい合っていた。 
 
「――お誕生日会?!」
 
 ぼくは、びっくりして身を乗り出す。綾人は、「おう!」と明るく頷いた。
 
「今月の二十七日さ、お義母さんの誕生日なんだ。で、ホテルで誕生日会やるから、お前と宏章さんに来てほしいんだって!」
「ええっ」
 
 思わず、両手で口を覆った。そうやないと、「ひゃー」って叫んじゃいそうやったから。
 だって――月末にお義母さんのお誕生日で、ホテルで誕生日会で……そして、ご両親と顔合わせ……!? 情報過多すぎるよっ。
 キャパシティオーバーしそうになってたら、隣に腰かけた宏兄が言う。
 
「綾人君。それは、招待客にお披露目もするってことかな?」
「あ、はい。朝匡がそう言ってました」
「お……おひろめ……」
 
 けろりと返ってきた答えに、絶句する。
 ホテルでする規模の誕生会で、野江家のお客さんたちに向けて……お披露目!? それってどういう風なんやろう。何か一芸、習得していったほうがええのかな……

「あわ……」

 おろおろしていたら、宏兄に手を包まれる。
 
「成、大丈夫だ」
「えっ……」
「無理しなくてもいい。顔合わせなんて、いつでも出来るんだし。な」
 
 宏兄を見上げて、はっとした。――あたたかな、優しい眼差しが降り注いでいて……じんわりと心が落ちついてくる。
 ご家族の誕生日っていう大切な行事やのに。ぼくのことばっかり、気遣ってくれてるのが伝わって来るんやもん。
 
 ――……ぼく、宏兄の優しさに応えたい。
 
 ぼくはきりっと気合を込めて、手を握りかえす。
 
「ううん、大丈夫! ぼくも、お会いしたいからっ」
「そうか?」
「うんっ。パーティって初めてやし、楽しみです」
 
 にっこりすると、宏兄は日なたにいるように、目を細めて笑ってくれた。
 
「成己、一緒にうまいもん制覇しような!」
「わあっ。やっぱり、ごちそうが出るん?」
「おう! すげーのなんの。いっつも、うまいもん食ってるうちに、パーティ終わってるぜ」
「あはは。綾人ってば」
 
 白い歯をみせて笑う綾人に、ふき出してしまう。ぼくの気を軽くしようと、楽しいことばっかり言うんやから。
 宏兄と綾人のおかげで、はらが座ったぼくは、今後のための気合を入れる。
 
「そうと決まれば――ぼく、よかったら、お誕生会のお手伝いに行きたいな。たくさん人が来るなら、きっと準備とかいろいろあるよね? ぼく、体力はけっこう自信あるからっ」
 
 ふんすと拳を握る。宏兄は一瞬目を丸くして、相好を崩した。
 
「ありがとうな。でも、準備は母さんに任せて大丈夫だよ。家族も込みで、人をもてなすのが好きな人なんだ。成をもてなしたくて、うずうずしてると思う」
「そ、そう?」
「ああ。成が楽しんでくれれば、一番だよ」
 
 大きな手に、頭を撫でられる。「いいのかな?」と思ったけど、息子さんの宏兄のアドバイスやし。
 ここはひとつ、素直にお言葉に甘えよう。
 
「じゃあ、楽しみに待ってます!」
「うん。伝えとくよ」
 
 びしっと敬礼すると、宏兄が破顔した。
 

 
 それからね。
 宏兄はお仕事の電話がかかってきて、席を外してて。
 綾人と、お土産の冷やしおでんを頂きながら、これまでのパーティについて教えてもらったんよ。
 
「――オレ、制服で行くって言ったらさ。「俺が犯罪者みたいだからスーツ着ろ」って朝匡が」
「あはは、お兄さん真面目なんやね。やっぱり、パーティってスーツなん?」
「そうだなあ……あーでも、お義母さんはいつも着物だし、ドレスとかの人もいるしなー……ごめん、ちょっとわかんね。いっぺん、宏章さんに聞いてみ?」
「そっか……わかった! ありがとうね」
 
 男性体のオメガは、ドレスコードがはっきり決まってへんけど、TPOは大事やもんね。
 肝に銘じていると、満面の笑みを浮かべた綾人が、ずいと身を乗り出した。
 
「でさ、成己。こっから本題なんだけど、誕生日プレゼントさ――」
「あっ!」
 
 ぼくは、はっと目を見開く。
 
 ――そうや、誕生日プレゼント……!
 
 嫁として、新たに知り合うものとして……大切なミッションやないの!
 大切なことを思い出させてくれた綾人に、感謝の気持ちが溢れ出す。はっしと両手を握りしめた。
 
「ありがとう、大事なこと言うてくれて……! お義母さんに、素敵なプレゼント贈らなやんね!」
「へえっ? お義母さんもだけどさ、あの――」
「よおし! 綾人、色々教えてねっ。お義母さんの好みとか、あと、何贈るかとか……!」
「お、おう……?」
 
 じっと熱を込めて見つめると、綾人の顔がどんどん赤くなる。きっと、ぼくの熱が伝わって、心が燃えてるに違いない。
 
「そうと決まれば、作戦会議!」
 
 ぼくは、アイスコーヒーのおかわりを入れるべく、キッチンにダッシュした。
 
 
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