いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第三章~お披露目~

百二十八話【SIDE:陽平】

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 その夜も、俺は晶と体を重ねていた。
 ベッドにうつ伏せた晶に覆い被さり、激しく腰を送る。

「あっ、んん……奥ばっかっ……!」
「……っ、嘘つけ、いいんだろッ……!」

 抵抗するのに苛立ち、俺は靭やかな腰を掴んで、奥を責め苛んでやった。芳醇なフェロモンが強くなり、晶の歓喜が部屋中に充満する。

「あっ、陽平っ……あんっ」
「ほら……!」
「あぁ……いいっ、そこぉ……!」

 淫らに腰を揺らし、晶が振り返る。縋るような目に煽られて、ねっとりとキスを交わした。
 上からも下からも、情熱的に絡みつかれ――快楽に脳が痺れる。

――……もっと、忘れさせてくれ。

 こうして、晶を抱いているときだけは、頭が真っ白になる。何も、考えなくて済む。

「好き、好き……陽平っ」
「ああ、俺も……!」

 荒々しい動きに悲鳴を上げるように、ギシギシと激しくベッドが軋んだ。

「あーっ!」

 やがて、晶が蕩けた声で叫び、白い背を仰け反らせる。きつく絞られて、俺も中に解き放った。

「……っ、く……」
「はぁ……ん」

 静かになった部屋に、互いの荒い息だけが響く。
 晶は腰だけ上げた姿で、ぐったりと余韻に浸っている。――俺を包んだところの縁から、白いものが溢れ出していた。

 ――流石にやり過ぎたか……

 少し冷静さを取り戻し、腰を引くと……晶が呻いた。

「ぁん……」
「大丈夫か?」
「ねえ……もっとして……?」
「……っ!」

 晶は腰を妖しく揺らし、淫靡な微笑みを浮かべる。強烈なフェロモンが香った。
 強い酒を飲んだ時のように、喉が渇き、理性が失われる感覚――晶は、まるで誘蛾灯のように、俺を誘っていた。

「晶……!」
「ああっ……!」

 白い体を組み敷き、動きを再開する。肌が赤くなるほどに突き立てても、晶は淫らに叫びながら、腰をくねらせた。

「陽平、もっと……!」

 頭が真っ白になる快楽に、俺は溺れた。





 結局、終わることが出来たのは――深夜を回ってからだった。

「……」

 俺は一人、ダイニングの椅子に座り、酒を呷る。
 晶と限界まで抱き合い……その酩酊が覚めると、酒に力を借りる。それが、最近のルーティンとなっている。
 試験も近いのに、不健康なのはわかっているが――やめられない。

 ――父さんが見たら、何て言うか。

 そんなことを考えて、激しく頭を振る。

「親父のことは、関係ない。俺は、もう一人のアルファだ」

 自分の決断に迷いなんかない。――持つものか、とビールの缶を握りしめる。すると、強く握り過ぎたのか、呑み口から酒が溢れ出た。

「……っ、くそ」

 拭くものを探そうとして、ティッシュ箱が空なことに気づく。濡れた手の感触に苛ついて、俺は怒鳴った。

「おい、成己! ティッシュ――」

 そして、ハッとする。誰もいない部屋に、響いた自分の声に驚き……心臓が跳ねた。

――俺は、一体何を。

 成己がここに居るはずはない。その分かりきった事実に、酷く動揺していた。

「……」

 原因は、昼間の西野さんの言葉か……。
 いや、それだけじゃない。俺は髪を掻きむしり、壁にかけられたカレンダーを見た。
 ここ数日、俺の思考を奪っていた原因――

『ふふ。お誕生日に結婚なんて、すごいプレゼントやねえ』

 七月八日を囲む、大きな花丸。――それを描いたやつのことを、どうしても思い出してしまう。

――成己……あと二日で、あいつの誕生日だ。

 オメガは二十歳の誕生日を迎えると、出産の義務を果たさなければならない。それは、あいつも同じだった。
 家族になることに、誰より夢を見ていたあいつが……

「……知るかよ。あいつが、撒いた種だ」

 そう、吐き捨ててやる。
 あいつが……オメガのくせに晶を理解せず、センター送りにしようとするから。
 だから、これは因果応報なんだ。

――『城山くん。後悔しない?』

「……うるせえ!」

 ダン! 

 ビールの缶を、テーブルに叩きつける。酒が辺りに飛び散り、匂いが充満する。
 荒い息が、静かな部屋に響いた。

「俺には関係ねえ。……あいつが、悪いんだ!」

 そう低く呟いたとき、ギイと音をたて、ダイニングのドアが開いた。

「陽平……?」
「あ……」

 眠っていた筈の晶が、そこに立っている。裸身にシャツを纏っただけのしどけない姿で、近づいてくる。

「どうしたんだよ、大きい声出して」
「……悪い」

 バツが悪くなり、そっぽを向くと頭を抱えられる。

「馬鹿、いいよ。散々つき合ってもらったしな」
「別に、そういうわけじゃ……」

 もごもご呟くと、晶が静かに問うてきた。

「……昼間のこと、気にしてんの?」
「!」

 思わず、顔を上げると……晶は真剣な顔をしている。

「あのさ。佐田はさ、お前のことが好きだから。あーいう風にこじつけて、責めてるだけだよ」
「え……そうだったのか?」
「おいおい、気づいてないわけ? 鈍いやつ」

 呆れ顔で言われて、憮然とした。そんなことを言われても、わかるはずがない。俺は、佐田とは殆ど付き合いがなかったのだから。

「俺は心配だな……お前、人のことにも自分のことにも鈍いから」
「……?」

 首を傾げると、晶はさみしげにほほ笑んだ。

「俺は一人で平気だよ。どうせ、あの人に捨てられても、俺に似合いの場所へ行くだけだし。お前が成己くんのこと、追っかけたいなら……」
「……黙れ!」

 俺は、それ以上言わせずに、痩身を掻き抱いた。

「あっ……」
「俺は、お前を守る! そう言っただろ?!」
「陽平……っ」

 きっぱりと言うと、晶の声が潤む。すぐに、俺の背に腕が回ってきた。
 縋る腕の強さに、晶の不安を感じる。

 ――やっぱり、無理してたんだな。馬鹿なやつ……

 自分の考えこそ、正しいんだ。晶には俺しかいないんだから……
 そう、息をつくと……そっと、晶の手が俺の太ももに触れた。

「っ、晶……?」
「陽平……慰めてやるよ」

 意図をもって探られて、また体が昂り始める。
 シャツを脱ぎ捨て、全裸になった晶が俺の膝に跨がってきた。――ゆっくりと、腰を下ろしはじめ……

「あ……ふあ……っ」
「晶……」

 外が白むまで……淫らな声が止むことはなかった。
 
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