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第三章~お披露目~
百二十七話【SIDE:陽平】
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案の定、佐田の顔が屈辱に紅潮した。
「あんたが、どれだけ人の恋人に手を出したか。私達が、知らないと思ってるの!?」
「もう行っていい? 俺、授業には出たいから」
「っ、待ちなさい……!」
かっとなった佐田が、晶の背に掴みかかろうとした。――その手を、ぱしりと受け止める。
「佐田さん、やめてくれませんか?」
「……城山くん!」
佐田が、はっと目を見開く。俺は、晶を背に庇い、彼女らを見下ろした。
「晶は潔白ですよ。それに――手を出したとか、誘ったとか……いい淑女が、往来で叫ぶことに思えないっすけどね」
「……!」
冷静に指摘してやると、佐田の顔がさっと赤らんだ。ギャラリーの好奇の目に気づいたのか、悔し気に唇を引き結び、引き下がる。
「陽平……」
呆然と俺を呼ぶ晶の肩を、ぱんと叩く。
「ばーか。お前、先に行ってんじゃねえよ」
「……うるさいな。お前が寝坊するからだろ」
「んだと」
いつも通り、憎まれ口をたたく様子に、ホッとする。
晶は、抑制剤の効かない体質のせいで誤解されやすく、さっきのような言いがかりは少なくない。
だからといって、傷つかないわけじゃないのだ。
――俺以外は、なんでか気づいてやらねえけど……
もどかしい思いを持て余し、舌打ちをする。女学生たちが、びくりと肩を跳ねさせたのを一瞥し――俺は晶の肩を押した。
「行こうぜ」
「あ、ああ」
戸惑い気味に、歩を進める晶の肩を抱く。
すると、背後から鋭い声が上がった。
「ちょっと、待ってください!」
「……芽実!?」
佐田が、涙の浮かんだ目でこっちを睨んでいる。隣にいた女が、ぎょっとしている。――そのはずで、佐田の伯父は城山の下請けの社長だった。
親戚の立場を慮って、口をつぐむと思ったのに意外だった。
「なんですか」
「城山くん、目を覚ましてください……! 婚約者のいる蓑崎に肩入れなさっても、得るものなんてありませんっ!」
「はぁ?」
まるで、俺が晶に誑かされているかのような言い方が、癇に障る。
「あんたに口出しされる言われはない」
「……っ」
睨み据えると、佐田が涙ながらに叫ぶ。
「そんなに、蓑崎が大切ですか……? 春日くんを、酷い目に遭わせるほど……!」
「――!」
成己のことを引き合いに出され、目を見開く。
佐田が泣き崩れ、女学生たちが慌てて肩を抱いている。言い返すことも、立ち去ることもできず――その場に釘付けになっていると、車輪の音が聞こえた。
西野さんが自転車に乗って、こっちにやって来る。
「――芽実!? え。みんな、どうしたの?」
「友菜……!」
異変に気付いた西野さんが、驚いた様子で自転車から飛び降りた。すぐに、泣いている佐田の肩を抱き、慰めはじめる。
グループのリーダーである彼女が現れたことで、彼女らは元気を取り戻したらしい。口々に、事情を説明している。
「芽実ってば。あたしのために、無理しちゃって……」
「わかってるけど。とても、黙ってられなかったのよ」
「芽実……!」
西野さんが佐田を抱きしめると、友人たちも泣き出した。
「ぅわ……」
晶は、繰り広げられる感傷的なシーンに辟易した様子で、俺の腕を引く。
「行こうぜ、陽平。授業に遅れる」
「……ああ、そうだな」
俺は疲れた気分で、頷く。……正直、この場を脱するタイミングを得て、助かった。
踵を返そうとすると――「待って」と静かな声に引き留められる。
西野さんだった。
「……」
ばつの悪い思いに、口の中が苦くなる。
近藤のことは好きじゃねえけど、西野さんには世話になっていたと思う。面倒見の良い彼女を、成己も良く慕っていた。
――でも、あんたがあいつを諫めないから、こんなことになるんだ。
そう思うと、反抗心が湧いてきて……俺は西野さんを挑むように見た。すると、西野さんはただ悲し気に、俺を見かえす。
「城山くん。――後悔しないんだよね?」
「!」
予想外の言葉に、虚をつかれる。
「成己くんのこと、後悔しない?」
「……っ」
「あたしが言いたいのは、それだけ――芽実、みんな。行こう」
西野さんは、友人たちを促し去って行く。
そのきっぱりとした背中を、俺はぼんやりと見送る。
「おい、陽平。どうしたんだよ?」
晶に、焦れたように、肩を揺すられる。だけど俺は、動けない。
――成己くんのこと、後悔しない?
その静かな声が、ずっと谺していた。
「あんたが、どれだけ人の恋人に手を出したか。私達が、知らないと思ってるの!?」
「もう行っていい? 俺、授業には出たいから」
「っ、待ちなさい……!」
かっとなった佐田が、晶の背に掴みかかろうとした。――その手を、ぱしりと受け止める。
「佐田さん、やめてくれませんか?」
「……城山くん!」
佐田が、はっと目を見開く。俺は、晶を背に庇い、彼女らを見下ろした。
「晶は潔白ですよ。それに――手を出したとか、誘ったとか……いい淑女が、往来で叫ぶことに思えないっすけどね」
「……!」
冷静に指摘してやると、佐田の顔がさっと赤らんだ。ギャラリーの好奇の目に気づいたのか、悔し気に唇を引き結び、引き下がる。
「陽平……」
呆然と俺を呼ぶ晶の肩を、ぱんと叩く。
「ばーか。お前、先に行ってんじゃねえよ」
「……うるさいな。お前が寝坊するからだろ」
「んだと」
いつも通り、憎まれ口をたたく様子に、ホッとする。
晶は、抑制剤の効かない体質のせいで誤解されやすく、さっきのような言いがかりは少なくない。
だからといって、傷つかないわけじゃないのだ。
――俺以外は、なんでか気づいてやらねえけど……
もどかしい思いを持て余し、舌打ちをする。女学生たちが、びくりと肩を跳ねさせたのを一瞥し――俺は晶の肩を押した。
「行こうぜ」
「あ、ああ」
戸惑い気味に、歩を進める晶の肩を抱く。
すると、背後から鋭い声が上がった。
「ちょっと、待ってください!」
「……芽実!?」
佐田が、涙の浮かんだ目でこっちを睨んでいる。隣にいた女が、ぎょっとしている。――そのはずで、佐田の伯父は城山の下請けの社長だった。
親戚の立場を慮って、口をつぐむと思ったのに意外だった。
「なんですか」
「城山くん、目を覚ましてください……! 婚約者のいる蓑崎に肩入れなさっても、得るものなんてありませんっ!」
「はぁ?」
まるで、俺が晶に誑かされているかのような言い方が、癇に障る。
「あんたに口出しされる言われはない」
「……っ」
睨み据えると、佐田が涙ながらに叫ぶ。
「そんなに、蓑崎が大切ですか……? 春日くんを、酷い目に遭わせるほど……!」
「――!」
成己のことを引き合いに出され、目を見開く。
佐田が泣き崩れ、女学生たちが慌てて肩を抱いている。言い返すことも、立ち去ることもできず――その場に釘付けになっていると、車輪の音が聞こえた。
西野さんが自転車に乗って、こっちにやって来る。
「――芽実!? え。みんな、どうしたの?」
「友菜……!」
異変に気付いた西野さんが、驚いた様子で自転車から飛び降りた。すぐに、泣いている佐田の肩を抱き、慰めはじめる。
グループのリーダーである彼女が現れたことで、彼女らは元気を取り戻したらしい。口々に、事情を説明している。
「芽実ってば。あたしのために、無理しちゃって……」
「わかってるけど。とても、黙ってられなかったのよ」
「芽実……!」
西野さんが佐田を抱きしめると、友人たちも泣き出した。
「ぅわ……」
晶は、繰り広げられる感傷的なシーンに辟易した様子で、俺の腕を引く。
「行こうぜ、陽平。授業に遅れる」
「……ああ、そうだな」
俺は疲れた気分で、頷く。……正直、この場を脱するタイミングを得て、助かった。
踵を返そうとすると――「待って」と静かな声に引き留められる。
西野さんだった。
「……」
ばつの悪い思いに、口の中が苦くなる。
近藤のことは好きじゃねえけど、西野さんには世話になっていたと思う。面倒見の良い彼女を、成己も良く慕っていた。
――でも、あんたがあいつを諫めないから、こんなことになるんだ。
そう思うと、反抗心が湧いてきて……俺は西野さんを挑むように見た。すると、西野さんはただ悲し気に、俺を見かえす。
「城山くん。――後悔しないんだよね?」
「!」
予想外の言葉に、虚をつかれる。
「成己くんのこと、後悔しない?」
「……っ」
「あたしが言いたいのは、それだけ――芽実、みんな。行こう」
西野さんは、友人たちを促し去って行く。
そのきっぱりとした背中を、俺はぼんやりと見送る。
「おい、陽平。どうしたんだよ?」
晶に、焦れたように、肩を揺すられる。だけど俺は、動けない。
――成己くんのこと、後悔しない?
その静かな声が、ずっと谺していた。
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