いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第二章~プロポーズ~

百一話 

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 そして、数十分後。買い物を終えたぼく達は、同じフロアにある喫茶店に入ったん。
 大きな百貨店は、センターの認証店が充実してるので、オメガのぼくも安心して入ることができる。ちょうどおやつ時で、ほんのりとカレーのいい匂いのする店内には、楽しそうなお客さんで賑わってた。
 
「いやぁ、楽しかったなあ」
「あ、あはは……」
 
 にこにこと満面の笑みを浮かべた宏兄が、メニューを開いて見せてくれる。その隣の椅子には、荷物置きに収まらなかったショッパーが、でんと鎮座していた。
 恐ろしいことに、殆どがぼくのだったりする。
 
 ――結局、すっごい買ってもらっちゃったよう……
 
 大きなお買い物に、心臓がドキドキと鼓動する。
 どうしよう――ぼくの貯金では、到底お返しできないっ。平静を装いながら、頭の中はてんてこ舞いやった。
 
「俺はサンドイッチにしよう。成はどうする?」
「えと……ぼくは、アイスクリームでお願いします」
「わかった。コーヒーでいいか?」
 
 頷くと、宏兄が店員さんを呼んで、サンドイッチとアイスクリーム、コーヒーに……なぜか、ホットケーキを注文する。
 しずしずとお冷を飲んでいると、宏兄がじっとぼくを見つめてた。
 蜂蜜みたいに甘い目に、どきりとする。
 
「ど……どうしたの?」
「うん。可愛いなあと思って」
「ぶっ」
 
 臆面もなく言われて、お水を噴きそうになった。

「な、何言うてるんっ? 褒めても何も出ませんからねっ」
「そうか? お前を見てたら、視力が良くなりそうだ」
「もう……すぐ、からかうんやもん」

 ぱあっと、頬が熱くなる。
 ぼくが身にまとうのは――買ってもらったばかりのサマーニットと細身のパンツ。宏兄にすすめられて、そのまま着てきたんよ。
 ホワイトとライトブルーのボーダーが爽やかで、クール過ぎなくて。自分で言うのも何やけど、似合ってる気がします……

 ――でも、宏兄は、ぼくを甘やかしすぎやと思うっ。

 ぼくは狼狽えて、じっと宏兄を見上げる。

「宏兄っ。どうして、いきなりショッピングなん? ――お兄さんが会いに来るって、話してたはずやのにっ」

 あれよあれよと百貨店へ連れられて、こんなにお買い物してもろて……
 すると、宏兄はきょとんと目を丸くする。

「どうしてって。普通にデートだぞ」
「デ……?!」

 予想外の言葉に、ぼくはあんぐりと口を開ける。

「出かけるには、いい機会だなって。お前の服、選んでみたかったんだよなあ」
「えええ」

 そうやったん!?
 でも、言われてみれば――宏兄も、今日は綺麗なネイビーのカットソーを着てる。シンプルなのが返って素敵で、あちこちの席から、熱い視線が集まってた。

「この後、どうする。映画でも観るか?」
「あ……待って!」

 うきうきしている宏兄に、慌ててストップをかける。

 ――お洋服も、映画も。気持ちは、すごく有り難いけど……!

 今は、いっぱいいっぱいで……。
 お兄さんと会う準備とか、しなくていいのかなって。
 そう言うと、宏兄はからっと笑う。

「いいよ。兄貴の奴、「三日以内に行く」ぐらいしか、言わなかったし。その間、ずっと緊張してたら疲れるだろ?」
「う……それは、たしかに」

 ずっとこの調子で、「何時いらっしゃるかな」って考えてたら、パンクしちゃうかも。

「な。のんびり遊んでよう」

 おずおずと頷くと、宏兄は励ますようにほほ笑む。

「大丈夫。そんなに構えなくても、俺がいる。どうも気が重いなら、会わなくってもいいんだから」
「えっ! そ、そういうわけには行かへんよ……!」
「はは。俺はとっくに独立してるし、結婚は二人の問題だよ。気にすることないさ」

 あえて軽い口ぶりで、宏兄が言う。きっと、ぼくを気にさせまいとしてるんやと思う。
 宏兄は、本当に優しいから。

――やからこそ……ぼく、宏兄のご家族に、嫌われたくないんよ……

 もう二度と、失敗したくないもん。
 ぼくは、膝の上でぎゅっと拳を握りしめた。

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