96 / 346
第二章~プロポーズ~
九十五話
しおりを挟む
――微かに、シャワーの音が聞こえてくる。
「うう……」
ベッドの端っこに腰かけて、ぼくは胸を抑えた。ドキドキって、心臓が激しく鼓動してる。口から出ちゃいそう……
ちら、と枕もとを見る。
そこには、さっきまで無かった枕が、もうひとつ。宏兄が用意してくれたんやって、すぐにわかった。
「うぅ~。やっぱり、ここで寝るんやんねっ?」
ベッドは別――そんなオチはないみたい。
ばふ、と横倒しに倒れる。フカフカのお布団が、受け止めてくれるけど……緊張は余計に高まっちゃう。
――『俺も、すぐ行くからな』
低い甘い声を思い返して、頬がぱっと熱くなった。ぼくは、もぞもぞと落ち着かない気持ちで、座りなおす。
「宏兄、は……どうするのかな」
口に出してみて、胸がきゅう、と締めつけられる。
宏兄は、大切なお兄ちゃん。
でも、今は……ぼくの夫になる人でもあって。
兄弟じゃないんだから……一緒に眠ることは、それ以上の意味を持ったりする、よね。
「昨夜は、疲れてすぐ眠っちゃったから。何も考えへんかったけど……」
――今日が、初夜……ってことになるのかな。じゃあ、なにかする、のかな……?
夫婦といえば。
抱き合って……キスしたりするんやろうか。
ぼくと、宏兄が――
「……!!!」
ひい、と小さく叫んで、ベッドを転げる。恥ずかしくて、居ても立っても居られない。
――あ、頭が煮えちゃう……!
猛烈に照れてしまい、誰に弁明するでなく、ぼくは口走る。
「やぁ、ない。ないって! 発情期でもないし。宏兄は大人やし、ぼくなんか……」
ぎゅ、と両腕でわが身を抱く。――やせっぽちの、子どもみたいな体。
「…………ないよね」
なんか、急激に冷静になった。
陽平と一年以上、同じベッドで眠って――なにもなかったんやで。
ぼくに、魅力があるとは思えないし。宏兄は、大人のアルファとして……お付きあいした人は、今までにたくさん居るはず。
「よいしょ……」
ぼくは、もそりと身を起こす。
まじまじと、自分の体を見下ろした。パジャマの襟から、中を覗く――あばらの薄っすら浮かんだ胸に、ぺたんこのお腹。
オメガの色香とは? と首を傾げたくなる有り様やった。
「はぁ~……」
ため息をつく。しゅるしゅると、浮かれた気分が萎んでいくみたいやった。
「アホやなぁ……そもそも、宏兄の優しさなんやから……」
同情じゃないって、言ってくれた。
でも……愛情が、恋情とは違うくらい、ぼくだってわかってる。
――宏兄は、引く手数多のアルファなんやもん。ぼくなんか、子どもにしか見えないよ……
慌てていたのが、馬鹿みたいに思えてきた。ぼくは、さっきまでと違う意味で、赤面してしまう。
「もうっ、自意識過剰っ」
熱る頬を、両手で覆う。むぎむぎ、と戒めるように揉み込むと、痛みのせいか、涙が滲んだ。
――ぜっったい、普通にしてよう。
強く、心に決める。
ぼくが、意味深にオタオタしてたら、宏兄に気を遣わせるかもしれへん。そうしたら、宏兄は優しいから……ぼくに恥かかせたらあかんって、無理するかも……
「そんなんダメ……! そんな、宏兄に無理させて……嫌われちゃったらいややもんっ」
考えただけで、ゾッとする。
陽平に捨てられたみたいに……宏兄に嫌われたら、どうしていいかわからない。
足元から地面が消えるような恐怖にさらされ、ぼくは身震いした。
「そうや……先に寝ちゃったらええんや!」
ぼくが「寝ようとしてます」と意思表示しちゃえば、宏兄も気を使わへんはずや。
位置の相談もせえへんのは心苦しいけど、背に腹は代えられない。
「えいっ」
ぼくは勢いよく布団をはぐって、中に滑り込んだ。
ふかふかのお布団を、鼻の上まで被ったとき――間一髪。
寝室のドアが、開く音がした。
「うう……」
ベッドの端っこに腰かけて、ぼくは胸を抑えた。ドキドキって、心臓が激しく鼓動してる。口から出ちゃいそう……
ちら、と枕もとを見る。
そこには、さっきまで無かった枕が、もうひとつ。宏兄が用意してくれたんやって、すぐにわかった。
「うぅ~。やっぱり、ここで寝るんやんねっ?」
ベッドは別――そんなオチはないみたい。
ばふ、と横倒しに倒れる。フカフカのお布団が、受け止めてくれるけど……緊張は余計に高まっちゃう。
――『俺も、すぐ行くからな』
低い甘い声を思い返して、頬がぱっと熱くなった。ぼくは、もぞもぞと落ち着かない気持ちで、座りなおす。
「宏兄、は……どうするのかな」
口に出してみて、胸がきゅう、と締めつけられる。
宏兄は、大切なお兄ちゃん。
でも、今は……ぼくの夫になる人でもあって。
兄弟じゃないんだから……一緒に眠ることは、それ以上の意味を持ったりする、よね。
「昨夜は、疲れてすぐ眠っちゃったから。何も考えへんかったけど……」
――今日が、初夜……ってことになるのかな。じゃあ、なにかする、のかな……?
夫婦といえば。
抱き合って……キスしたりするんやろうか。
ぼくと、宏兄が――
「……!!!」
ひい、と小さく叫んで、ベッドを転げる。恥ずかしくて、居ても立っても居られない。
――あ、頭が煮えちゃう……!
猛烈に照れてしまい、誰に弁明するでなく、ぼくは口走る。
「やぁ、ない。ないって! 発情期でもないし。宏兄は大人やし、ぼくなんか……」
ぎゅ、と両腕でわが身を抱く。――やせっぽちの、子どもみたいな体。
「…………ないよね」
なんか、急激に冷静になった。
陽平と一年以上、同じベッドで眠って――なにもなかったんやで。
ぼくに、魅力があるとは思えないし。宏兄は、大人のアルファとして……お付きあいした人は、今までにたくさん居るはず。
「よいしょ……」
ぼくは、もそりと身を起こす。
まじまじと、自分の体を見下ろした。パジャマの襟から、中を覗く――あばらの薄っすら浮かんだ胸に、ぺたんこのお腹。
オメガの色香とは? と首を傾げたくなる有り様やった。
「はぁ~……」
ため息をつく。しゅるしゅると、浮かれた気分が萎んでいくみたいやった。
「アホやなぁ……そもそも、宏兄の優しさなんやから……」
同情じゃないって、言ってくれた。
でも……愛情が、恋情とは違うくらい、ぼくだってわかってる。
――宏兄は、引く手数多のアルファなんやもん。ぼくなんか、子どもにしか見えないよ……
慌てていたのが、馬鹿みたいに思えてきた。ぼくは、さっきまでと違う意味で、赤面してしまう。
「もうっ、自意識過剰っ」
熱る頬を、両手で覆う。むぎむぎ、と戒めるように揉み込むと、痛みのせいか、涙が滲んだ。
――ぜっったい、普通にしてよう。
強く、心に決める。
ぼくが、意味深にオタオタしてたら、宏兄に気を遣わせるかもしれへん。そうしたら、宏兄は優しいから……ぼくに恥かかせたらあかんって、無理するかも……
「そんなんダメ……! そんな、宏兄に無理させて……嫌われちゃったらいややもんっ」
考えただけで、ゾッとする。
陽平に捨てられたみたいに……宏兄に嫌われたら、どうしていいかわからない。
足元から地面が消えるような恐怖にさらされ、ぼくは身震いした。
「そうや……先に寝ちゃったらええんや!」
ぼくが「寝ようとしてます」と意思表示しちゃえば、宏兄も気を使わへんはずや。
位置の相談もせえへんのは心苦しいけど、背に腹は代えられない。
「えいっ」
ぼくは勢いよく布団をはぐって、中に滑り込んだ。
ふかふかのお布団を、鼻の上まで被ったとき――間一髪。
寝室のドアが、開く音がした。
118
お気に入りに追加
1,401
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
Tally marks
あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。
カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。
「関心が無くなりました。別れます。さよなら」
✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。
✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。
✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。
✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。
✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません)
🔺ATTENTION🔺
このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。
そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。
そこだけ本当、ご留意ください。
また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい)
➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。
➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。
個人サイトでの連載開始は2016年7月です。
これを加筆修正しながら更新していきます。
ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
いっそあなたに憎まれたい
石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。
貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。
愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。
三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。
そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。
誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。
これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる