いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
上 下
88 / 406
第二章~プロポーズ~

八十七話 

しおりを挟む
 次の日から――宏兄のお家での、新生活が始まった。

「わあ……! お洗濯日和やね」

 よく晴れた空を見上げて、ぼくは思わず笑顔になる。
 雨が続いていた空が、今日は真っ青に高い。そろそろ、梅雨明けなのかもしれへん。

「よいしょ」

 ベランダにお布団を干して、ぱふぱふと叩く。ずっと寝かせて貰って、お世話になったお布団たち。今日のお天気なら、ふかふかになってくれるはず。

「~♪」

 シーツをはいで、マットだけになったベッドにコロコロをかけていると、宏兄がひょいと顔を出した。

「おーい。成ー」
「あっ、宏兄」

 ぱっと振り返ると、宏兄が目を丸くしてる。

「病み上がりなのに、こんなに働いて。無理してないだろうな?」
「あはは。もうすっかり元気やもん。これ以上寝てたら、体がなまっちゃう」

 宏兄ってば、心配性なんやから。 
 シーツと布団カバーを抱えて、くすくす笑う。宏兄も「仕方ないな」って顔で笑った。
 
「ところで、宏兄はどうしたん?」
「ああ。お前に見せたいものがあったんだ。ちょっと来てくれ」

 笑顔で手招きされる。ぼくは首を傾げつつ、後をついて寝室を出た。

「なになに?」
「見てのお楽しみ」

 楽しそうな宏兄について、廊下を歩く。ちなみに、宏兄のお家はうさぎやの二階なんよ。
 絵とか、観葉植物とか、いろいろな物がたくさんあって。でも、不思議と散らかってない、素敵なお家。

――宏兄らしいなあ……

 いままで、宏兄のお家に上がったことなかったん。オメガとしてのマナーやし、宏兄もフリーのアルファとして、すごく紳士的やから。ぼくをお家に誘ったりせんかったん。

――こういうことにならなきゃ、宏兄のお家に上がることは……ずっと無かったのかも……

 そう思うと、不思議やね。
 キョロキョロしながら歩いてると、宏兄が一つの部屋のドアを開けた。
 連れてこられたんは、宏兄の書斎の隣の部屋。

「ここ、成の部屋にしないか」

 きれいなレースのカーテンが、はためいていた。開け放された窓から吹き込んできた風が、ぼくの前髪を揺らす。
 日当たりの良いきれいな洋室に、目を見開いた。

「わあ……!」
「ひとつ遊んでた部屋なんだ。好きに使ってくれな」
「宏兄っ」

 大らかなほほ笑みに、胸がほかほかと温かくなる。
 お部屋に足を踏み入れると、空っぽの本棚とチェストが置かれてて。ローテーブルに、夏用の涼しそうな敷物がある。

「あ……」

 ぼくは、気づいた。
 使ってないって言ってたのに……このお部屋、ぴかぴかに綺麗や。じわじわと瞼が熱くなってくる。

――わざわざ、誂えてくれて……

 綺麗なお部屋に……ぼくの好きなインテリア。
 本当に、急に決まった結婚やったのに。大急ぎで、ぼくのお部屋作ってくれたんや。それって――

 「ここに居ていいよ」って、宏兄の気持ちが伝わってくる。

 そう思ったら、ありがたくて……足元がふらつきそうなくらい。
 胸がいっぱいで、苦しい。肩を抱き寄せてくれる、大きな手を握りしめた。

「宏兄、ほんまにありがとう……」
「当たり前だろ」
 
しおりを挟む
感想 213

あなたにおすすめの小説

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

処理中です...