81 / 360
第二章~プロポーズ~
八十話
しおりを挟む
頬を包まれたと思ったら、芳しい森の香りが近づいてきた。ふわ、とやわらかな感触が、額に落ちてくる。
「えっ」
きょとんと目を瞬くと、宏兄の微笑みが間近にある。あ、と思ったときには、もう一度――今度は、頬に同じ感触が落ちる。
そこで、ようやく唇が触れたんやって、気づいた。
――これって……キス……!?
ぱあっ、と頬に血が上る。口をパクパクして、宏兄を凝視してしまう。すると不思議な色の瞳が、嬉しそうに細まった。
「可愛い。真っ赤だ」
「……!?」
ぎゅう、とやわらかく抱き締められる。子犬にするみたいに頬ずりされて、ますます顔が熱くなった。
「ちょ、宏兄……!?」
「もっと可愛い顔見せて」
甘い声で囁かれ、米神にもキスされる。頬や、首筋まで……ちゅ、ちゅって、愛しむみたいに、あちこちを啄まれてしまう。
――な、何これ……何これっ!?
恥ずかしさに耐えかねて、ぼくは宏兄の肩を押した。
「ま、待って」
「ん? いやだ」
「いや!?」
ぎょっと目を見開くと、宏兄は大まじめに言う。
「成に、俺のことを知って欲しいからな」
「え……?」
「まあ、色んなもんがあるが……今は、」
ちゅ、と目じりにキスされる。
「俺がどれだけ、お前を可愛く思ってるか……とかな」
「!」
宏兄の声に、悪戯っぽい響きが乗る。ぼくは、これ以上なく頬が熱るのがわかった。
「ぜ、絶対、ウソやもんっ……」
動揺しすぎて、声がひっくり返る。
「嘘だったら、俺も苦労しないんだよなあ」
宏兄の指が、ぼくの髪を梳く。――子猫を可愛がるような指先に、かあっと頭に血がのぼる。
「からかわんといてっ……!」
そりゃ、ぼくだって。
可愛いって、言われたことはあるよ。でも、いつも……子供とか、マスコットとかに言うニュアンスやし。
――オメガとして魅力的やなんて、いちども思われたことないんやもん!
そっぽを向くぼくを、宏兄は笑いながら抱きしめてくる。
「疑り深いのも、可愛いぞ」
「なっ」
頬を包んで、振り返らされて……どきりとした。
「成は自分を知らないだけだ」
「……!」
宏兄の目が、ぼくを見つめてる。甘い甘い……蜂蜜を煮つめたように濃い眼差し。
こんな目をする宏兄は、知らない。
「……ぁ……」
「……可愛いよ」
宏兄の指が、ぼくの顎をくすぐる。芳しい木々の香りが鼻の奥に抜けて、頭がじんと痺れた。
――あ……キスされちゃう。
じっと見つめられて、直感が察した。
いままでの、じゃれるようなキスじゃなくて……唇にキスされちゃうって。
「……っ、ひろに……」
「……成」
宏兄の指が、ぼくの唇を撫でた。熱い……しっとりした、感触がする。ふに、と二本の指で唇を挟まれた。
「……ひゃっ……!」
恥ずかしくて、居てもたってもいられなくなって――ぼくは「やあっ」と叫んだ。
「だ、だめっ……!!」
ぐるん、と万力で寝返りをうつ。ベッドをころころ転がって、壁におでこがぶつかった。
「いたいっ」
「成っ。大丈夫か?」
「あ……! ま、待って……ぼく……」
宏兄の手から逃げるよう、ぼくは、小さく体を丸めた。
ドキドキ、鼓動が膝にまで伝わってくる。――こうして抱えてないと、心臓が転げだしそう。
――も、もうわかんない……怖いよっ……
じわ、と目に涙が滲む。不安と緊張で、心がおぼつかなかった。
唇を、手で覆う。
――……陽平……っ。
ふと浮かんだ顔に、泣きたくなる。
なんで、思い出すんよ。陽平は――ぼくのこと、可愛いなんて一度も言ってくれなかったのに。
「ひっ……う……」
自分が情けなくて、嗚咽がこぼれた。
すると……ぎし、とベッドが軋む。大きな手に、頭を撫でられた。
「……っ」
「ごめんな。ちょっと、急ぎすぎたな」
穏やかな声が、降ってくる。いつもの宏兄の……優しい、あたたかい声。
「ううっ」
ぽろぽろと、熱い涙が頬を伝う。手で拭っていると、そっと抱きしめられる。
「よしよし……大丈夫だ」
「ごめ……なさっ」
「いいんだよ。おどかしてごめんな?」
ぽんぽんと頭を撫でられた。宏兄は、すっかりお兄ちゃんモードに戻っていて……温かな抱擁は、安心だけをくれる。
「宏兄……」
「ゆっくりでいい。俺はずっと……お前の側にいるからな」
優しい囁きに、ますます涙が溢れる。
安心したぼくは、宏兄にしがみついて、わんわん泣いてしまった。
「えっ」
きょとんと目を瞬くと、宏兄の微笑みが間近にある。あ、と思ったときには、もう一度――今度は、頬に同じ感触が落ちる。
そこで、ようやく唇が触れたんやって、気づいた。
――これって……キス……!?
ぱあっ、と頬に血が上る。口をパクパクして、宏兄を凝視してしまう。すると不思議な色の瞳が、嬉しそうに細まった。
「可愛い。真っ赤だ」
「……!?」
ぎゅう、とやわらかく抱き締められる。子犬にするみたいに頬ずりされて、ますます顔が熱くなった。
「ちょ、宏兄……!?」
「もっと可愛い顔見せて」
甘い声で囁かれ、米神にもキスされる。頬や、首筋まで……ちゅ、ちゅって、愛しむみたいに、あちこちを啄まれてしまう。
――な、何これ……何これっ!?
恥ずかしさに耐えかねて、ぼくは宏兄の肩を押した。
「ま、待って」
「ん? いやだ」
「いや!?」
ぎょっと目を見開くと、宏兄は大まじめに言う。
「成に、俺のことを知って欲しいからな」
「え……?」
「まあ、色んなもんがあるが……今は、」
ちゅ、と目じりにキスされる。
「俺がどれだけ、お前を可愛く思ってるか……とかな」
「!」
宏兄の声に、悪戯っぽい響きが乗る。ぼくは、これ以上なく頬が熱るのがわかった。
「ぜ、絶対、ウソやもんっ……」
動揺しすぎて、声がひっくり返る。
「嘘だったら、俺も苦労しないんだよなあ」
宏兄の指が、ぼくの髪を梳く。――子猫を可愛がるような指先に、かあっと頭に血がのぼる。
「からかわんといてっ……!」
そりゃ、ぼくだって。
可愛いって、言われたことはあるよ。でも、いつも……子供とか、マスコットとかに言うニュアンスやし。
――オメガとして魅力的やなんて、いちども思われたことないんやもん!
そっぽを向くぼくを、宏兄は笑いながら抱きしめてくる。
「疑り深いのも、可愛いぞ」
「なっ」
頬を包んで、振り返らされて……どきりとした。
「成は自分を知らないだけだ」
「……!」
宏兄の目が、ぼくを見つめてる。甘い甘い……蜂蜜を煮つめたように濃い眼差し。
こんな目をする宏兄は、知らない。
「……ぁ……」
「……可愛いよ」
宏兄の指が、ぼくの顎をくすぐる。芳しい木々の香りが鼻の奥に抜けて、頭がじんと痺れた。
――あ……キスされちゃう。
じっと見つめられて、直感が察した。
いままでの、じゃれるようなキスじゃなくて……唇にキスされちゃうって。
「……っ、ひろに……」
「……成」
宏兄の指が、ぼくの唇を撫でた。熱い……しっとりした、感触がする。ふに、と二本の指で唇を挟まれた。
「……ひゃっ……!」
恥ずかしくて、居てもたってもいられなくなって――ぼくは「やあっ」と叫んだ。
「だ、だめっ……!!」
ぐるん、と万力で寝返りをうつ。ベッドをころころ転がって、壁におでこがぶつかった。
「いたいっ」
「成っ。大丈夫か?」
「あ……! ま、待って……ぼく……」
宏兄の手から逃げるよう、ぼくは、小さく体を丸めた。
ドキドキ、鼓動が膝にまで伝わってくる。――こうして抱えてないと、心臓が転げだしそう。
――も、もうわかんない……怖いよっ……
じわ、と目に涙が滲む。不安と緊張で、心がおぼつかなかった。
唇を、手で覆う。
――……陽平……っ。
ふと浮かんだ顔に、泣きたくなる。
なんで、思い出すんよ。陽平は――ぼくのこと、可愛いなんて一度も言ってくれなかったのに。
「ひっ……う……」
自分が情けなくて、嗚咽がこぼれた。
すると……ぎし、とベッドが軋む。大きな手に、頭を撫でられた。
「……っ」
「ごめんな。ちょっと、急ぎすぎたな」
穏やかな声が、降ってくる。いつもの宏兄の……優しい、あたたかい声。
「ううっ」
ぽろぽろと、熱い涙が頬を伝う。手で拭っていると、そっと抱きしめられる。
「よしよし……大丈夫だ」
「ごめ……なさっ」
「いいんだよ。おどかしてごめんな?」
ぽんぽんと頭を撫でられた。宏兄は、すっかりお兄ちゃんモードに戻っていて……温かな抱擁は、安心だけをくれる。
「宏兄……」
「ゆっくりでいい。俺はずっと……お前の側にいるからな」
優しい囁きに、ますます涙が溢れる。
安心したぼくは、宏兄にしがみついて、わんわん泣いてしまった。
140
お気に入りに追加
1,428
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います
ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。
フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。
「よし。お前が俺に嫁げ」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる