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第一章~婚約破棄~
四十七話
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翌日――ぼくは、城山家から来たお迎えの車に乗って、高級住宅街へ降り立った。
「わあ……」
高い塀に囲まれた、広いお庭とモダンなデザインの大きな家。テレビとかで紹介される、有名人の豪邸のイメージそのものや。
――やぁ……いつ見ても、陽平のおうちってすごいなぁ……
手土産を膝に、口をポカンと開けていると――運転手の小川さんが、笑顔でドアを開けてくれた。
「春日様、どうぞ中へ。奥様がお待ちですよ」
「あ……はいっ。ありがとうございました!」
慌てて車を降りて、ペコリと頭を下げる。ガレージへと向かう車を見送り、ぼくは「よし」と気合を入れ、インターホンへ指を伸ばした。
通されたのは、吹き抜け天井の広いリビング。ダックスフントみたいな、大きな革張りのソファにちょこんと座り、お義母さんを待った。
すると――螺旋状の階段から、カツンカツン……と音を立て、小柄な女の人が下りてくる。
「いらっしゃい。成己さん」
鈴を転がすような、可憐な声。――薄水色のワンピースの裾をひらひらさせながら、近づいてくる女性に、ぼくは立ち上がって頭を下げた。
「お義母さん、お邪魔してますっ。お迎えの車も出してもらって、ありがとうございました」
「あら、いいのよ。陽平ちゃんの婚約者を、バスに乗せるわけにいかないもの」
陽平のお母さんは、くすくすと笑う。――少女めいた仕草の似合う、華奢で可憐なひと。その分、目尻の花の紋様がひときわ艶やかだった。
――お義母さん、いつお会いしても、妖精みたいに綺麗……
陽平のお母さんは、女性体のオメガなん。
柔らかそうな栗色の髪や、色白の気品のある顔だちが、陽平とよく似ていてね。お義母さんと向かい合うと、家族って凄いなぁって思うんよ。
促されて、ぼくはソファに座り直す。お義母さんは、対面のソファにゆったりと脚を組んだ。
「それで、成己さん。陽平ちゃんに会いに来たのよね」
「……はい」
いきなり本題に入って、ぼくは緊張気味に頷いた。
「昨日は、ご連絡くださって、ありがとうございます。……どうか、陽平と会わせてもらえませんか」
しっかりと頭を下げて、お願いする。
そう――昨夜、ぼくに電話してきたのは、お義母さんやってん。
『陽平ちゃん、家に帰ってきてるわよ。しばらく、戻らないって言ってるんだけど』
不思議そうに、陽平が実家に帰っていると知らされて、ぼくは頬が熱くなった。
だって、ケンカして、何も言わんと里帰りなんて。お義母さんはどう思ってはるやろうって、恥ずかしくて……
――せめて、直接伝えてくれたら良かったのに……!
そんなに、ぼくと話すのいやなん? って悲しさ半分、怒り半分の気持ちで項垂れてしもた。
そしたら、お義母さんが、
『とりあえず、明日いらっしゃいよ。どっちみち、陽平ちゃん、すごく疲れてるから、今は話せないわ』
って、おっしゃったんよ。
それで……ぼくは、陽平に会いに来たわけなんよ。
お義母さんの背後の、螺旋階段。あそこを上がった先に、陽平の私室があって……つまり、そこに居るはずなんよね。
ぼくは、じっとお義母さんの言葉を待つ。
お義母さんは、髪をくるくると指先に巻きつけて、言う。
「来てもらって、残念だけど……陽平ちゃん、会いたくないらしいのよ」
「え……っ」
「それに、どうしても外せない用があるって、さっき出かけて行っちゃったの」
「そんな……」
がーんって、目の前が暗くなる。
お義母さんごしに、拒絶されるなんて……どれだけぼくと会いたくないんやって、呆然とする。
「ごめんなさいねえ」
「あ……いえ」
「けどね、成己さん。陽平ちゃんが優しい子なのは知ってくれてるでしょ? よっぽど、何か嫌なことがあったと思うのよ」
お義母さんが、にっこり笑う。ぼくは、なにか押されるように、頷いた。
「はい……」
「成己さん。あの子はアルファで、背負うものが大きいんだもの。だから、あなたがちゃんと、支えてあげなくちゃいけないわ。ねっ?」
笑ってるけど、目が笑ってへん。迫力があって、ぼくはじっとりと冷や汗をかく。
――えーっ……なんか、ぼくが悪いみたいな感じに思われてる……?
これは、割に合わんよっ、て思う。
でも――お義母さんは陽平のことを宝物のように思ってはるから、仕方ないのかな。「ずっと、大切に守ってきたの」って、いつかお話してくれた。お嫁さんになる、ぼくが頼りないと心配で困る、とも――
「……はい。わかりました」
ぼくは一先ず、複雑な思いをわきにやって、頷く。
また、日を改めてくるように言われたけど……なかなか手強い状況に、ちょっと不安になった。
「わあ……」
高い塀に囲まれた、広いお庭とモダンなデザインの大きな家。テレビとかで紹介される、有名人の豪邸のイメージそのものや。
――やぁ……いつ見ても、陽平のおうちってすごいなぁ……
手土産を膝に、口をポカンと開けていると――運転手の小川さんが、笑顔でドアを開けてくれた。
「春日様、どうぞ中へ。奥様がお待ちですよ」
「あ……はいっ。ありがとうございました!」
慌てて車を降りて、ペコリと頭を下げる。ガレージへと向かう車を見送り、ぼくは「よし」と気合を入れ、インターホンへ指を伸ばした。
通されたのは、吹き抜け天井の広いリビング。ダックスフントみたいな、大きな革張りのソファにちょこんと座り、お義母さんを待った。
すると――螺旋状の階段から、カツンカツン……と音を立て、小柄な女の人が下りてくる。
「いらっしゃい。成己さん」
鈴を転がすような、可憐な声。――薄水色のワンピースの裾をひらひらさせながら、近づいてくる女性に、ぼくは立ち上がって頭を下げた。
「お義母さん、お邪魔してますっ。お迎えの車も出してもらって、ありがとうございました」
「あら、いいのよ。陽平ちゃんの婚約者を、バスに乗せるわけにいかないもの」
陽平のお母さんは、くすくすと笑う。――少女めいた仕草の似合う、華奢で可憐なひと。その分、目尻の花の紋様がひときわ艶やかだった。
――お義母さん、いつお会いしても、妖精みたいに綺麗……
陽平のお母さんは、女性体のオメガなん。
柔らかそうな栗色の髪や、色白の気品のある顔だちが、陽平とよく似ていてね。お義母さんと向かい合うと、家族って凄いなぁって思うんよ。
促されて、ぼくはソファに座り直す。お義母さんは、対面のソファにゆったりと脚を組んだ。
「それで、成己さん。陽平ちゃんに会いに来たのよね」
「……はい」
いきなり本題に入って、ぼくは緊張気味に頷いた。
「昨日は、ご連絡くださって、ありがとうございます。……どうか、陽平と会わせてもらえませんか」
しっかりと頭を下げて、お願いする。
そう――昨夜、ぼくに電話してきたのは、お義母さんやってん。
『陽平ちゃん、家に帰ってきてるわよ。しばらく、戻らないって言ってるんだけど』
不思議そうに、陽平が実家に帰っていると知らされて、ぼくは頬が熱くなった。
だって、ケンカして、何も言わんと里帰りなんて。お義母さんはどう思ってはるやろうって、恥ずかしくて……
――せめて、直接伝えてくれたら良かったのに……!
そんなに、ぼくと話すのいやなん? って悲しさ半分、怒り半分の気持ちで項垂れてしもた。
そしたら、お義母さんが、
『とりあえず、明日いらっしゃいよ。どっちみち、陽平ちゃん、すごく疲れてるから、今は話せないわ』
って、おっしゃったんよ。
それで……ぼくは、陽平に会いに来たわけなんよ。
お義母さんの背後の、螺旋階段。あそこを上がった先に、陽平の私室があって……つまり、そこに居るはずなんよね。
ぼくは、じっとお義母さんの言葉を待つ。
お義母さんは、髪をくるくると指先に巻きつけて、言う。
「来てもらって、残念だけど……陽平ちゃん、会いたくないらしいのよ」
「え……っ」
「それに、どうしても外せない用があるって、さっき出かけて行っちゃったの」
「そんな……」
がーんって、目の前が暗くなる。
お義母さんごしに、拒絶されるなんて……どれだけぼくと会いたくないんやって、呆然とする。
「ごめんなさいねえ」
「あ……いえ」
「けどね、成己さん。陽平ちゃんが優しい子なのは知ってくれてるでしょ? よっぽど、何か嫌なことがあったと思うのよ」
お義母さんが、にっこり笑う。ぼくは、なにか押されるように、頷いた。
「はい……」
「成己さん。あの子はアルファで、背負うものが大きいんだもの。だから、あなたがちゃんと、支えてあげなくちゃいけないわ。ねっ?」
笑ってるけど、目が笑ってへん。迫力があって、ぼくはじっとりと冷や汗をかく。
――えーっ……なんか、ぼくが悪いみたいな感じに思われてる……?
これは、割に合わんよっ、て思う。
でも――お義母さんは陽平のことを宝物のように思ってはるから、仕方ないのかな。「ずっと、大切に守ってきたの」って、いつかお話してくれた。お嫁さんになる、ぼくが頼りないと心配で困る、とも――
「……はい。わかりました」
ぼくは一先ず、複雑な思いをわきにやって、頷く。
また、日を改めてくるように言われたけど……なかなか手強い状況に、ちょっと不安になった。
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