34 / 346
第一章~婚約破棄~
三十三話
しおりを挟む
それから――二人がかりで一心不乱に、飲み会の準備をして。すべての料理が出来上がった頃、陽平たちが帰ってきた。
ドアの開く音の後、にぎやかな声が聞こえてくる。
「――お、帰ってきた!」
「あっ」
顔を明るくした蓑崎さんが、先んじて廊下へ飛び出していった。ぼくも、泡だらけのスポンジを置いて、慌てて出迎えに向かう。
「おかえりー! もう準備できてるよー」
「あれー、蓑崎! なんでエプロンつけてンの?」
「あ。今日は、晶が準備してくれて……」
楽しそうな先輩たちの声に、陽平が答えている。そこで漸く追いついたぼくは、蓑崎さんの後ろから、ぺこりと頭を下げた。
「皆さん、いらっしゃいませっ。どうぞごゆっくりしてってくださいね」
「あ、成己さん。どうもー」
「お世話んなりまーす」
口々に、賑やかなあいさつが返ってきた。――ほとんどがお馴染みの顔ぶれで、はじめましての人は二人くらい。ぼくは、大急ぎでスリッパを追加して、上がってもらった。
「さ、どうぞ中へ。散らかってますが」
「お前の家じゃねーだろ」
「あはは」
おどけて先輩方を案内する蓑崎さんに、陽平が半眼で突っ込んだ。そのやりとりに、どっと笑い声が上がる。
「言われちゃったね、成己さん」
「まあ、新米のお嫁さんだもんなあ」
「あはは……お恥ずかしいですー」
茶化してくる先輩方を、笑顔でかわしつつ――ぼくは内心、闘志が高まるのを感じてた。
一番最後に靴を脱いだ陽平に、ニッコリ笑って手を差し出す。
「陽平、おかえり」
「……」
むっと唇を尖らせた陽平が、リュックをぐいと押し付けてくる。ぼくは、行き過ぎて行こうとした陽平に、さっと耳打ちした。
「いい? あとで、話しあいやからねっ」
「……ちっ」
陽平は不機嫌な顔を背け、どかどかと歩き去った。ぼくはムッとして、頬を膨らませる。
――もう、陽平め……! ぼくだって怒るんやからね!
背中にしゅっしゅっとパンチを振ってから、ぱたぱたと追いかけた。
そして、さっそく宴会がはじまったんやけど。
「うおっ、すげえ!」
「めっちゃお洒落じゃん!」
テーブルに所狭しと並んだ料理に、先輩方の歓声が上がる。
蓑崎さんの指揮の元、作られた本日のメニューは――皮つき枝豆のガーリック炒め、色とりどりのピンチョス、ズッキーニのパスタ風サラダ、ローストビーフ、蛸とエビのアヒージョ。
お洒落で美味しそうな品々に、みんな乾杯もそこそこに手を伸ばす。
「うまっ! これ、蓑崎が作ったん? やるなあ、お前」
「は? 馬鹿にしないで下さいよ。これくらい、出来て当然」
驚きの声に、蓑崎さんはくすりと笑う。
「いやいやすげーよ。意外と良妻?」
「うわ、セクハラ!」
「わはは。まあ、飲めよ」
みんな料理に舌鼓を打ち、くちぐちに賛辞を送っている。真ん中に迎え入れられた蓑崎さんは、ビールを一気に飲みほして席を盛り上げていた。
ぼくは……追加の取り皿を持って、その光景に肩を落とす。
――うう。ぼく、いっぺんも褒められたことないのに。なんか、悔しいっ……
……でも。
こればっかりは、羨んでも仕方ないよね。
だって蓑崎さん、お料理上手すぎるもん……!
ぼくじゃ思いつきもせんくらい、盛り付けも洗練されてるし。手際も良くて、あれだけの料理がどんどん出来てって……意気軒高に乗り込んだぼくやったけど、蓑崎さんの指示のまま、右往左往してただけやったし。
「ありがとな、晶」
「いーよ、大したことじゃないし」
嬉しそうな先輩たちに、陽平も満足そう。ぼくがおもてなしするときには、いつも困ってるのに。
そっか。陽平は、こういう料理を作って欲しかったんや――自分の至らなさをつきつけられた気がして、ズーンと落ち込む。
――でも……それは、ぼくのおもてなしレベルが足りてなかったってことやから! 頑張れば、いずれ……!
ぼくは、ぱんと頬を叩いて気合を入れなおす。
「お酒も、いっぱいありますから。どんどん言うてくださいね!」
ぼくは笑顔で走り回り、おつまみをよそったり、お酒を追加して回った。
ドアの開く音の後、にぎやかな声が聞こえてくる。
「――お、帰ってきた!」
「あっ」
顔を明るくした蓑崎さんが、先んじて廊下へ飛び出していった。ぼくも、泡だらけのスポンジを置いて、慌てて出迎えに向かう。
「おかえりー! もう準備できてるよー」
「あれー、蓑崎! なんでエプロンつけてンの?」
「あ。今日は、晶が準備してくれて……」
楽しそうな先輩たちの声に、陽平が答えている。そこで漸く追いついたぼくは、蓑崎さんの後ろから、ぺこりと頭を下げた。
「皆さん、いらっしゃいませっ。どうぞごゆっくりしてってくださいね」
「あ、成己さん。どうもー」
「お世話んなりまーす」
口々に、賑やかなあいさつが返ってきた。――ほとんどがお馴染みの顔ぶれで、はじめましての人は二人くらい。ぼくは、大急ぎでスリッパを追加して、上がってもらった。
「さ、どうぞ中へ。散らかってますが」
「お前の家じゃねーだろ」
「あはは」
おどけて先輩方を案内する蓑崎さんに、陽平が半眼で突っ込んだ。そのやりとりに、どっと笑い声が上がる。
「言われちゃったね、成己さん」
「まあ、新米のお嫁さんだもんなあ」
「あはは……お恥ずかしいですー」
茶化してくる先輩方を、笑顔でかわしつつ――ぼくは内心、闘志が高まるのを感じてた。
一番最後に靴を脱いだ陽平に、ニッコリ笑って手を差し出す。
「陽平、おかえり」
「……」
むっと唇を尖らせた陽平が、リュックをぐいと押し付けてくる。ぼくは、行き過ぎて行こうとした陽平に、さっと耳打ちした。
「いい? あとで、話しあいやからねっ」
「……ちっ」
陽平は不機嫌な顔を背け、どかどかと歩き去った。ぼくはムッとして、頬を膨らませる。
――もう、陽平め……! ぼくだって怒るんやからね!
背中にしゅっしゅっとパンチを振ってから、ぱたぱたと追いかけた。
そして、さっそく宴会がはじまったんやけど。
「うおっ、すげえ!」
「めっちゃお洒落じゃん!」
テーブルに所狭しと並んだ料理に、先輩方の歓声が上がる。
蓑崎さんの指揮の元、作られた本日のメニューは――皮つき枝豆のガーリック炒め、色とりどりのピンチョス、ズッキーニのパスタ風サラダ、ローストビーフ、蛸とエビのアヒージョ。
お洒落で美味しそうな品々に、みんな乾杯もそこそこに手を伸ばす。
「うまっ! これ、蓑崎が作ったん? やるなあ、お前」
「は? 馬鹿にしないで下さいよ。これくらい、出来て当然」
驚きの声に、蓑崎さんはくすりと笑う。
「いやいやすげーよ。意外と良妻?」
「うわ、セクハラ!」
「わはは。まあ、飲めよ」
みんな料理に舌鼓を打ち、くちぐちに賛辞を送っている。真ん中に迎え入れられた蓑崎さんは、ビールを一気に飲みほして席を盛り上げていた。
ぼくは……追加の取り皿を持って、その光景に肩を落とす。
――うう。ぼく、いっぺんも褒められたことないのに。なんか、悔しいっ……
……でも。
こればっかりは、羨んでも仕方ないよね。
だって蓑崎さん、お料理上手すぎるもん……!
ぼくじゃ思いつきもせんくらい、盛り付けも洗練されてるし。手際も良くて、あれだけの料理がどんどん出来てって……意気軒高に乗り込んだぼくやったけど、蓑崎さんの指示のまま、右往左往してただけやったし。
「ありがとな、晶」
「いーよ、大したことじゃないし」
嬉しそうな先輩たちに、陽平も満足そう。ぼくがおもてなしするときには、いつも困ってるのに。
そっか。陽平は、こういう料理を作って欲しかったんや――自分の至らなさをつきつけられた気がして、ズーンと落ち込む。
――でも……それは、ぼくのおもてなしレベルが足りてなかったってことやから! 頑張れば、いずれ……!
ぼくは、ぱんと頬を叩いて気合を入れなおす。
「お酒も、いっぱいありますから。どんどん言うてくださいね!」
ぼくは笑顔で走り回り、おつまみをよそったり、お酒を追加して回った。
87
お気に入りに追加
1,401
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐
当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。
でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。
その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。
ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。
馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。
途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。
Tally marks
あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。
カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。
「関心が無くなりました。別れます。さよなら」
✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。
✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。
✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。
✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。
✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません)
🔺ATTENTION🔺
このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。
そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。
そこだけ本当、ご留意ください。
また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい)
➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。
➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。
個人サイトでの連載開始は2016年7月です。
これを加筆修正しながら更新していきます。
ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
いっそあなたに憎まれたい
石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。
貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。
愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。
三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。
そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。
誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。
これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。
この作品は小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる