7 / 360
第一章~婚約破棄~
六話
しおりを挟む
「あら、成己くん。健診に来てたん?」
ルンルン気分のぼくは、センターを出る間際に呼び止められた。ポニーテールを背で弾ませ、快活な足取りでこっちに近づいてくる女性に、ぼくは笑顔になる。
「涼子せんせい! こんにちはっ」
ぺこりと頭を下げると、涼子先生が「元気そうやねぇ」と笑う。
先生は、センターに勤めてはる保育士さんで、ぼくの教育係やった人。怒ったら怖いけど、それ以上にあったかくて――ぼくにとっては、お姉ちゃんみたいな存在だ。
先生は、丸いほっぺに笑窪をうかべ、言う。
「せや、成己くん。こないだは卓司にプレゼント、ありがとうなあ。めっちゃ喜んでたわ」
「ほんまですか? よかったあ」
先日、涼子先生の二番目のお子さんの卓司くんの、三歳の誕生日で。「はらぺこあおむし」のぬいぐるみをプレゼントしたんやけど、外してないか不安やったんよ。
先生は、にこにこしながらスマホで写真を見せてくれた。
「ほらぁ、見て! ずーっと離さへんねんで」
「うわあ、めっちゃ可愛い~!」
ふくふくほっぺに笑顔をのせた卓司くんが、小さな両腕でぬいぐるみを抱いている。胸がきゅうんとなるほど、幼気で可愛らしい。
「たっくん、ちょっと見んうちに、また大きくなったねぇ」
「せやろ! まあ、渦中におると、慌ただしくて浸る暇もないけどな。成己くんも、子供の写真はようけとっときや」
「うんっ、そうする!」
と、先生はふいに目を細める。
「むふふ。ちっさかった成己くんと、こんな話をするとは。誕生日、楽しみやね」
「涼子先生……ありがとう」
にやりと笑った涼子先生に、どんと脇腹を小突かれて、ぼくは照れ笑いする。
先生は、ぼくが小さいころから「家族、家族」と大騒ぎしていたのを知ってるから。婚約を伝えたときも、一番喜んでくれたのは涼子先生やった。
「あ。ところで、成己くん。今日はこれから、いつものとこ行くん?」
「うん。そのつもりやで」
しばらく談笑した後、涼子先生は思い出したように言う。
ぼくが頷くと、先生はパン、と両手を合わせた。
「ほな、宏章くんに「予約」頼んどいてもろてええ? うちの旦那、あこのサンドイッチやないと嫌や言うねんか」
「あはは、わかった。いつもの?」
「そうそう! 仕事終わったら、取りに行くさかい。ありがとうね、成ちゃん」
子供のときみたいな呼ばれ方が、くすぐったい。
「また後でね」と、手を振って別れると、先生は急ぎ足で仕事に戻って行った。
「お疲れさまですっ」
「どうぞお気をつけて」
警備員さんに頭を下げて、センターの建物を出ると――ちょうど、太陽が真上にきていた。
検査って、わりかし時間かかるよね。
「おなか減ったなあ」
てくてく歩きながら、お腹をおさえる。
――検査あるから、朝からお茶だけやったもんなぁ。”お店”についたら、なんか食べさせてもらお!
センターは広い敷地があって、建物を出てから外に出るまでに、二つも門がある。
外の門までは、徒歩でニ十分くらい。でも、庭園みたいな道には、季節のお花が色とりどりに咲いていて。見ながら歩いてたら、あっという間に感じてしまう。
「――成!」
二つ目の門を出たところで、低くつやのある声に呼び止められる。振り返ると、予想通りの人が車に凭れて手を振っていた。
ぼくは、ぱっと笑顔になる。
「宏兄っ!」
ルンルン気分のぼくは、センターを出る間際に呼び止められた。ポニーテールを背で弾ませ、快活な足取りでこっちに近づいてくる女性に、ぼくは笑顔になる。
「涼子せんせい! こんにちはっ」
ぺこりと頭を下げると、涼子先生が「元気そうやねぇ」と笑う。
先生は、センターに勤めてはる保育士さんで、ぼくの教育係やった人。怒ったら怖いけど、それ以上にあったかくて――ぼくにとっては、お姉ちゃんみたいな存在だ。
先生は、丸いほっぺに笑窪をうかべ、言う。
「せや、成己くん。こないだは卓司にプレゼント、ありがとうなあ。めっちゃ喜んでたわ」
「ほんまですか? よかったあ」
先日、涼子先生の二番目のお子さんの卓司くんの、三歳の誕生日で。「はらぺこあおむし」のぬいぐるみをプレゼントしたんやけど、外してないか不安やったんよ。
先生は、にこにこしながらスマホで写真を見せてくれた。
「ほらぁ、見て! ずーっと離さへんねんで」
「うわあ、めっちゃ可愛い~!」
ふくふくほっぺに笑顔をのせた卓司くんが、小さな両腕でぬいぐるみを抱いている。胸がきゅうんとなるほど、幼気で可愛らしい。
「たっくん、ちょっと見んうちに、また大きくなったねぇ」
「せやろ! まあ、渦中におると、慌ただしくて浸る暇もないけどな。成己くんも、子供の写真はようけとっときや」
「うんっ、そうする!」
と、先生はふいに目を細める。
「むふふ。ちっさかった成己くんと、こんな話をするとは。誕生日、楽しみやね」
「涼子先生……ありがとう」
にやりと笑った涼子先生に、どんと脇腹を小突かれて、ぼくは照れ笑いする。
先生は、ぼくが小さいころから「家族、家族」と大騒ぎしていたのを知ってるから。婚約を伝えたときも、一番喜んでくれたのは涼子先生やった。
「あ。ところで、成己くん。今日はこれから、いつものとこ行くん?」
「うん。そのつもりやで」
しばらく談笑した後、涼子先生は思い出したように言う。
ぼくが頷くと、先生はパン、と両手を合わせた。
「ほな、宏章くんに「予約」頼んどいてもろてええ? うちの旦那、あこのサンドイッチやないと嫌や言うねんか」
「あはは、わかった。いつもの?」
「そうそう! 仕事終わったら、取りに行くさかい。ありがとうね、成ちゃん」
子供のときみたいな呼ばれ方が、くすぐったい。
「また後でね」と、手を振って別れると、先生は急ぎ足で仕事に戻って行った。
「お疲れさまですっ」
「どうぞお気をつけて」
警備員さんに頭を下げて、センターの建物を出ると――ちょうど、太陽が真上にきていた。
検査って、わりかし時間かかるよね。
「おなか減ったなあ」
てくてく歩きながら、お腹をおさえる。
――検査あるから、朝からお茶だけやったもんなぁ。”お店”についたら、なんか食べさせてもらお!
センターは広い敷地があって、建物を出てから外に出るまでに、二つも門がある。
外の門までは、徒歩でニ十分くらい。でも、庭園みたいな道には、季節のお花が色とりどりに咲いていて。見ながら歩いてたら、あっという間に感じてしまう。
「――成!」
二つ目の門を出たところで、低くつやのある声に呼び止められる。振り返ると、予想通りの人が車に凭れて手を振っていた。
ぼくは、ぱっと笑顔になる。
「宏兄っ!」
131
お気に入りに追加
1,428
あなたにおすすめの小説
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います
ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。
フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。
「よし。お前が俺に嫁げ」
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる