6 / 406
第一章~婚約破棄~
五話
しおりを挟む
お昼前に、ぼくはセンターで健診を受けていた。
オメガは特殊な体のつくりをしているから、定期検診が義務付けられてるんだ。特に、卵巣や子宮の健康状態は大切やから、入念な検査が行われる。
「……うん。成己くん、今月も何の問題もない。健康な子宮だね」
「わあ……よかったです」
お腹に当てていたエコーを外し、主治医の中谷先生が微笑む。
ぼくは、ほっとして胸を撫でおろした。先生も、カルテを書きこみながら、少し砕けた口調になる。
「そうだ。成己くんは、来月に結婚するんだよね。本当におめでとう」
「はい! ありがとうございますっ」
ぺこ、と頭を下げると、先生はにこにこと言葉を継ぐ。
「赤ちゃんの頃から診てきた、成己くんが結婚か……私も、年をとるはずだなあ」
「えへへ……これからも、よろしくお願いします」
「そうだね。――子どものことは、彼とは話し合ってるかい?」
その質問には、ぎくりとする。
陽平はこの頃、子どもの計画を話したがらず、すぐに話をそらしてしまう。以前はそうじゃなかったのに、蓑崎さんと会ってから――
「成己くん、どうしたの?」
「あ、いえ! ええと、城山のご両親には、今年中にでもって言われてるんですけど。……ぼく、ちゃんとできますか?」
怪訝そうに尋ねられ、慌てて笑顔を作った。大事な話の最中やのに、すぐにウジウジしちゃって、良くない。
先生は「ふうむ」と唸りつつ、カルテを捲った。
「成己くんは、ファーストヒートは十四歳の七月だったよね」
「はい」
十四歳の誕生日の夜、ぼくは初めての発情――ヒートを経験した。
それは、なんの前触れも兆候もなかった。
センターの先生たちが、誕生会をしてくれて……ケーキを食べて、楽しい気持ちでベッドに入ったのに。――深夜ごろ、急に体が熱くなったんだ。
『……おなか、苦しいっ……たすけて……!』
ヒートは「素敵なもの」って聞いてたのに、全然違った。
おなかが爆発するかと思うほど、苦しくて――その上、まだ精通さえなかったぼくは、どうしたらいいのかもわからんかったから。
『だれか……!』
ただ、この苦しいのから逃れたくて、助けて欲しくて、泣き叫び続けた。
それで――気づいたら、色んな管に繋がれて、ベッドに眠ってたんや。
そのとき、中谷先生が説明してくれたことには、ぼくは恐らくヒートが重い体質なんだそう。でも、子宮が未熟なせいで、心身に負担がかかりすぎたんやって。
やから、子宮が成熟して安定するまで、ヒートが来ないように、抑制剤でコントロールしてきた。
――ぼくのからだ……ちゃんと、ヒートに耐えられるのかな。
胸の奥が、不安でぎゅって締め付けられる。手を握り合わせて、中谷先生をじっと窺い見た。
すると、先生の笑い皺が深くなる。
「今まで、よく頑張ったね。もう、成己くんの子宮はきちんと成熟してるし、十分に妊娠が可能だよ。ヒートだって正常に来るだろう……今年中に子供が欲しいなら、今月から抑制剤を止めてみてもいいと思う」
「ほ、ほんまですか……!?」
ぱあっ、と目の前が明るくなる。
中谷先生は、「また、パートナーと一緒に来てね」と言ってくれた。
「はいっ。先生、本当にありがとうございます……!」
こみ上げる涙をこらえて、ぼくは何度も頷いた。
オメガは特殊な体のつくりをしているから、定期検診が義務付けられてるんだ。特に、卵巣や子宮の健康状態は大切やから、入念な検査が行われる。
「……うん。成己くん、今月も何の問題もない。健康な子宮だね」
「わあ……よかったです」
お腹に当てていたエコーを外し、主治医の中谷先生が微笑む。
ぼくは、ほっとして胸を撫でおろした。先生も、カルテを書きこみながら、少し砕けた口調になる。
「そうだ。成己くんは、来月に結婚するんだよね。本当におめでとう」
「はい! ありがとうございますっ」
ぺこ、と頭を下げると、先生はにこにこと言葉を継ぐ。
「赤ちゃんの頃から診てきた、成己くんが結婚か……私も、年をとるはずだなあ」
「えへへ……これからも、よろしくお願いします」
「そうだね。――子どものことは、彼とは話し合ってるかい?」
その質問には、ぎくりとする。
陽平はこの頃、子どもの計画を話したがらず、すぐに話をそらしてしまう。以前はそうじゃなかったのに、蓑崎さんと会ってから――
「成己くん、どうしたの?」
「あ、いえ! ええと、城山のご両親には、今年中にでもって言われてるんですけど。……ぼく、ちゃんとできますか?」
怪訝そうに尋ねられ、慌てて笑顔を作った。大事な話の最中やのに、すぐにウジウジしちゃって、良くない。
先生は「ふうむ」と唸りつつ、カルテを捲った。
「成己くんは、ファーストヒートは十四歳の七月だったよね」
「はい」
十四歳の誕生日の夜、ぼくは初めての発情――ヒートを経験した。
それは、なんの前触れも兆候もなかった。
センターの先生たちが、誕生会をしてくれて……ケーキを食べて、楽しい気持ちでベッドに入ったのに。――深夜ごろ、急に体が熱くなったんだ。
『……おなか、苦しいっ……たすけて……!』
ヒートは「素敵なもの」って聞いてたのに、全然違った。
おなかが爆発するかと思うほど、苦しくて――その上、まだ精通さえなかったぼくは、どうしたらいいのかもわからんかったから。
『だれか……!』
ただ、この苦しいのから逃れたくて、助けて欲しくて、泣き叫び続けた。
それで――気づいたら、色んな管に繋がれて、ベッドに眠ってたんや。
そのとき、中谷先生が説明してくれたことには、ぼくは恐らくヒートが重い体質なんだそう。でも、子宮が未熟なせいで、心身に負担がかかりすぎたんやって。
やから、子宮が成熟して安定するまで、ヒートが来ないように、抑制剤でコントロールしてきた。
――ぼくのからだ……ちゃんと、ヒートに耐えられるのかな。
胸の奥が、不安でぎゅって締め付けられる。手を握り合わせて、中谷先生をじっと窺い見た。
すると、先生の笑い皺が深くなる。
「今まで、よく頑張ったね。もう、成己くんの子宮はきちんと成熟してるし、十分に妊娠が可能だよ。ヒートだって正常に来るだろう……今年中に子供が欲しいなら、今月から抑制剤を止めてみてもいいと思う」
「ほ、ほんまですか……!?」
ぱあっ、と目の前が明るくなる。
中谷先生は、「また、パートナーと一緒に来てね」と言ってくれた。
「はいっ。先生、本当にありがとうございます……!」
こみ上げる涙をこらえて、ぼくは何度も頷いた。
144
お気に入りに追加
1,506
あなたにおすすめの小説


【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

運命の番なのに別れちゃったんですか?
雷尾
BL
いくら運命の番でも、相手に恋人やパートナーがいる人を奪うのは違うんじゃないですかね。と言う話。
途中美形の方がそうじゃなくなりますが、また美形に戻りますのでご容赦ください。
最後まで頑張って読んでもらえたら、それなりに救いはある話だと思います。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる