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余談
友達(10)
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「そうなんだ? 新婚さんらしくていいね! 重い愛し方ってどんなことしてるの?」
「えぇ……恥ずかしいんですけど……」
どうせ波崎くんは伊月社長のレベルに達してはいない。
そう思って軽く聞いてしまった。
「朝起きた瞬間に、どっちが先にキスをするか毎朝競争したり」
「はは、新婚さんだなぁ」
「俺が少しダボっとした服を着るとかわいいと言ってくれるので、服をたくさん買っちゃったり」
「いいねいいね」
ほら、微笑ましい。かわいい。
普通は、好きな人のためにすることってこんな感じだよな。
「芸能のお仕事は不規則なので難しい日も多いんですけど、ご飯はなるべく一緒に食べるようにしています。好きな人と同じ食べ物で体を作れるって最高なので」
「いい……ね」
……言い方が少し引っかかるけど、まぁ、一緒に食事は夫婦らしいよな?
「一緒に食べられない時も、なるべく光一郎さんが食べたものを教えてもらうか、俺が食べたものを光一郎さんに伝えて、同じものを食べるようにしています。離れていても内臓で光一郎さんのことを感じられるので」
「へ、へぇ……」
内臓……?
言い方がいちいち独特というか……なんか……
「位置情報共有アプリを入れているので、いつでも相手の居場所がわかって……」
これは、まぁ……俺だったら嫌だけど、共有しているカップルもいるらしいからなぁ。
若いカップルは特に多いらしいし、普通か。
「自宅にいるなってときは設置しているカメラで見守ったり」
んー……?
カメラ?
ペットカメラとか、ベビーカメラとか、見守り系のカメラは……普通……か?
どうしよう。
ちょっと俺の常識がついていかない。
一回、話題変えるか。
「わ~、すごーい、ラブラブだね! じゃあ、逆に、不満とか困っていることないの?」
ドラマにも出るような芸能人とは思えない棒読みになってしまったけど、波崎くんは気にせず笑顔で答えてくれた。
「そうですね……俺がお金を使うときってクレカもコード決済も交通系ICも全部光一郎さんが払ってくれるから、光一郎さんに即時履歴を見られるので……」
うわ。それは束縛すぎる!
いくら好きな相手でも嫌だよなぁ。不満に思って当然だ。
「サプライズで光一郎さんの好きなお酒を買って帰るとか、プレゼントを買うって時にバレちゃうんですよね……驚かせたいときに困ります」
「あ、へぇ……困るねぇ……」
そこ?
もっと……根本的な部分で困らないの?
「あと、光一郎さんは俺の外見をいつも褒めてくれるんですけど、外見が好みだから俺を好きになってくれたわけではないので」
「そうなんだ?」
こんなイケメン、最初は「見た目が気に入って」だと思うのに。
性格もいい子ではあるけど……やはり波崎くんを好きな気持ちに関しては真剣というか、ただのミーハーファン心理ではないんだな。
「はい。だから、もっと光一郎さんの好みになることってできそうな気がして」
「ふんふん」
仕事に対してもそうだけど、真面目で努力家でえらいなぁ波崎くんは。
「髪型を変えるとか、整形するとかしようと思うのに、光一郎さんは『今のままで十分。その気持ちだけで嬉しいよ』って言ってくれるんですよね……俺も光一郎さんのためにもっと努力したいのに」
ん?
「っ……あ、へ、へぇ……困ったねぇ……」
なんとか引きつりながらも笑顔を保ったけど……え?
サラっと整形って言った? 髪型変えるのと同じノリで?
芸能人が?
いや、整形は別に、悪いことではないけど……そんな理由で?
「光一郎さんがしてくれるのと同じだけ愛情を返したいのに、光一郎さんの愛が大きすぎてなかなか追いつけなくて大変です」
あれ?
波崎くん、思ったより……重い?
もしかして……
「波崎くんの愛も十分大きいと思うけど……波崎くんはさ、もし、伊月社長に『他の人に大好きな子を見せたくないから俳優やめて』とか言われたら……辞めちゃうの?」
俺の歯切れの悪い言葉に、波崎くんは笑顔のまま即答する。
「辞めますね。でも、光一郎さんは俺が頑張ってきたことをないがしろにする人ではないので、そんなことは言わないと思います」
「あ、あぁ、そうだよね。ごめん。そんな人じゃないよね」
そうか。伊月社長、怖いけど波崎くんのことを尊重はするか。
それを理解していることも、理解しながら「辞めます」と言えるところも……二人の間にきちんと信頼関係ができているんだな。
俺、心配しすぎたか?
俺がごまかすように笑っていると、波崎くんは手元のワイングラスを眺めながら少し考え込んで……ゆっくりと口を開いた。
「でも……俺、光一郎さんに出会う前は『人気俳優でいたい』という気持ちが強かったんですけど、今は『人気よりも自分が納得できる仕事をしたい』と思えるようになりました。光一郎さんが愛してくれるから……いい意味で力が抜けたというか……人気に固執しなくていいというか……」
「あぁ、支えてくれる人がいると、余裕をもって仕事に挑めるよね」
承認欲求といえばいいのか、アイドルでも「とにかく一人でも多くのファンに愛されたい!」と思っていた人が、引退して結婚したら「自分を必ず愛してくれる存在がそばにいるから落ち着いた」なんていうもんな。
「そうですね。光一郎さんと出会う前の俺って、本当に余裕がなくて……人間関係も上手くいっていないというか、関係を築けるところまでいけなくて、仕事のやり方も汚くて、自分のことを全然大切にしていなくて……今は、自分のことも周囲の人のことも大切にしながら仕事ができるようになったので、光一郎さんには本当、感謝しかないです」
へー……?
波崎くん、デビューからずっと順調そうで、真面目で堅実な俳優さんだと思っていたのに?
そういえば、伊月社長もなにか言っていたな……波崎くんの周りにヤバイ人がいるとか?
どんな理由があっても、伊月社長のやり方は許されないと思っていたけど、波崎くんのこの穏やかで幸せそうな顔を見ると……結局、俺の中途半端な正義感は間違っていたのかもしれない。
汚い手を使ってでも、波崎くんを救った伊月社長は、本当の意味で波崎くんのことを考えていたのか……
「伊月社長と出会えて、よかったね」
「はい!」
波崎くんが幸せそうな笑顔で頷いたところで、店を出る時間になった。
◆
「お礼だったのに、ごちそうになってしまってすみません」
「結婚祝いできていなかったから……簡単でごめんね。またご飯行こう。ゲームも」
「はい! ぜひ!」
店の出口で、それぞれタクシーに乗り込んで今日は解散となった。
「……報告しておくか」
一応、伊月社長に頼まれていたし、来期の仕事も決まっているし……今日の波崎くんの惚気話、伊月社長に報告したら喜ばれそうだし。
そう思ってメッセージアプリのアイコンをタップした瞬間……伊月社長からメッセージが届いた。
『今日はありがとう。アオくんが楽しかったみたいで嬉しいよ』
位置情報共有アプリで解散したのを知ったとしても、様子まではわからないよな……
『普段聞けないアオくんの惚気も聞けたから、上手く引き出してくれたフユキくんに感謝しているよ。明日は家でもスーツでいようかな』
あ、ですよね。
盗聴なのかなんなのか知らないけど、こっちの会話は筒抜けですよね。
やっぱり怖すぎるな、伊月社長。
でも……
ずっと「伊月社長の愛、重すぎ、怖っ!」と思っていたけど、波崎くんも好きになった相手には激重な子だな。
伊月社長の激重溺愛を喜んで受け入れて、同じだけ愛せる波崎くん……伊月社長とどっちがヤバイかわからない。
まぁ、重いと重いでお似合いだな。
「えっと……『俺はただ友達と楽しく話しただけです。どうぞお二人ともお幸せに』」
重くて怖いけど……二人がきちんと幸せそうなので、俺の心は軽くなった。
HAPPY END
「えぇ……恥ずかしいんですけど……」
どうせ波崎くんは伊月社長のレベルに達してはいない。
そう思って軽く聞いてしまった。
「朝起きた瞬間に、どっちが先にキスをするか毎朝競争したり」
「はは、新婚さんだなぁ」
「俺が少しダボっとした服を着るとかわいいと言ってくれるので、服をたくさん買っちゃったり」
「いいねいいね」
ほら、微笑ましい。かわいい。
普通は、好きな人のためにすることってこんな感じだよな。
「芸能のお仕事は不規則なので難しい日も多いんですけど、ご飯はなるべく一緒に食べるようにしています。好きな人と同じ食べ物で体を作れるって最高なので」
「いい……ね」
……言い方が少し引っかかるけど、まぁ、一緒に食事は夫婦らしいよな?
「一緒に食べられない時も、なるべく光一郎さんが食べたものを教えてもらうか、俺が食べたものを光一郎さんに伝えて、同じものを食べるようにしています。離れていても内臓で光一郎さんのことを感じられるので」
「へ、へぇ……」
内臓……?
言い方がいちいち独特というか……なんか……
「位置情報共有アプリを入れているので、いつでも相手の居場所がわかって……」
これは、まぁ……俺だったら嫌だけど、共有しているカップルもいるらしいからなぁ。
若いカップルは特に多いらしいし、普通か。
「自宅にいるなってときは設置しているカメラで見守ったり」
んー……?
カメラ?
ペットカメラとか、ベビーカメラとか、見守り系のカメラは……普通……か?
どうしよう。
ちょっと俺の常識がついていかない。
一回、話題変えるか。
「わ~、すごーい、ラブラブだね! じゃあ、逆に、不満とか困っていることないの?」
ドラマにも出るような芸能人とは思えない棒読みになってしまったけど、波崎くんは気にせず笑顔で答えてくれた。
「そうですね……俺がお金を使うときってクレカもコード決済も交通系ICも全部光一郎さんが払ってくれるから、光一郎さんに即時履歴を見られるので……」
うわ。それは束縛すぎる!
いくら好きな相手でも嫌だよなぁ。不満に思って当然だ。
「サプライズで光一郎さんの好きなお酒を買って帰るとか、プレゼントを買うって時にバレちゃうんですよね……驚かせたいときに困ります」
「あ、へぇ……困るねぇ……」
そこ?
もっと……根本的な部分で困らないの?
「あと、光一郎さんは俺の外見をいつも褒めてくれるんですけど、外見が好みだから俺を好きになってくれたわけではないので」
「そうなんだ?」
こんなイケメン、最初は「見た目が気に入って」だと思うのに。
性格もいい子ではあるけど……やはり波崎くんを好きな気持ちに関しては真剣というか、ただのミーハーファン心理ではないんだな。
「はい。だから、もっと光一郎さんの好みになることってできそうな気がして」
「ふんふん」
仕事に対してもそうだけど、真面目で努力家でえらいなぁ波崎くんは。
「髪型を変えるとか、整形するとかしようと思うのに、光一郎さんは『今のままで十分。その気持ちだけで嬉しいよ』って言ってくれるんですよね……俺も光一郎さんのためにもっと努力したいのに」
ん?
「っ……あ、へ、へぇ……困ったねぇ……」
なんとか引きつりながらも笑顔を保ったけど……え?
サラっと整形って言った? 髪型変えるのと同じノリで?
芸能人が?
いや、整形は別に、悪いことではないけど……そんな理由で?
「光一郎さんがしてくれるのと同じだけ愛情を返したいのに、光一郎さんの愛が大きすぎてなかなか追いつけなくて大変です」
あれ?
波崎くん、思ったより……重い?
もしかして……
「波崎くんの愛も十分大きいと思うけど……波崎くんはさ、もし、伊月社長に『他の人に大好きな子を見せたくないから俳優やめて』とか言われたら……辞めちゃうの?」
俺の歯切れの悪い言葉に、波崎くんは笑顔のまま即答する。
「辞めますね。でも、光一郎さんは俺が頑張ってきたことをないがしろにする人ではないので、そんなことは言わないと思います」
「あ、あぁ、そうだよね。ごめん。そんな人じゃないよね」
そうか。伊月社長、怖いけど波崎くんのことを尊重はするか。
それを理解していることも、理解しながら「辞めます」と言えるところも……二人の間にきちんと信頼関係ができているんだな。
俺、心配しすぎたか?
俺がごまかすように笑っていると、波崎くんは手元のワイングラスを眺めながら少し考え込んで……ゆっくりと口を開いた。
「でも……俺、光一郎さんに出会う前は『人気俳優でいたい』という気持ちが強かったんですけど、今は『人気よりも自分が納得できる仕事をしたい』と思えるようになりました。光一郎さんが愛してくれるから……いい意味で力が抜けたというか……人気に固執しなくていいというか……」
「あぁ、支えてくれる人がいると、余裕をもって仕事に挑めるよね」
承認欲求といえばいいのか、アイドルでも「とにかく一人でも多くのファンに愛されたい!」と思っていた人が、引退して結婚したら「自分を必ず愛してくれる存在がそばにいるから落ち着いた」なんていうもんな。
「そうですね。光一郎さんと出会う前の俺って、本当に余裕がなくて……人間関係も上手くいっていないというか、関係を築けるところまでいけなくて、仕事のやり方も汚くて、自分のことを全然大切にしていなくて……今は、自分のことも周囲の人のことも大切にしながら仕事ができるようになったので、光一郎さんには本当、感謝しかないです」
へー……?
波崎くん、デビューからずっと順調そうで、真面目で堅実な俳優さんだと思っていたのに?
そういえば、伊月社長もなにか言っていたな……波崎くんの周りにヤバイ人がいるとか?
どんな理由があっても、伊月社長のやり方は許されないと思っていたけど、波崎くんのこの穏やかで幸せそうな顔を見ると……結局、俺の中途半端な正義感は間違っていたのかもしれない。
汚い手を使ってでも、波崎くんを救った伊月社長は、本当の意味で波崎くんのことを考えていたのか……
「伊月社長と出会えて、よかったね」
「はい!」
波崎くんが幸せそうな笑顔で頷いたところで、店を出る時間になった。
◆
「お礼だったのに、ごちそうになってしまってすみません」
「結婚祝いできていなかったから……簡単でごめんね。またご飯行こう。ゲームも」
「はい! ぜひ!」
店の出口で、それぞれタクシーに乗り込んで今日は解散となった。
「……報告しておくか」
一応、伊月社長に頼まれていたし、来期の仕事も決まっているし……今日の波崎くんの惚気話、伊月社長に報告したら喜ばれそうだし。
そう思ってメッセージアプリのアイコンをタップした瞬間……伊月社長からメッセージが届いた。
『今日はありがとう。アオくんが楽しかったみたいで嬉しいよ』
位置情報共有アプリで解散したのを知ったとしても、様子まではわからないよな……
『普段聞けないアオくんの惚気も聞けたから、上手く引き出してくれたフユキくんに感謝しているよ。明日は家でもスーツでいようかな』
あ、ですよね。
盗聴なのかなんなのか知らないけど、こっちの会話は筒抜けですよね。
やっぱり怖すぎるな、伊月社長。
でも……
ずっと「伊月社長の愛、重すぎ、怖っ!」と思っていたけど、波崎くんも好きになった相手には激重な子だな。
伊月社長の激重溺愛を喜んで受け入れて、同じだけ愛せる波崎くん……伊月社長とどっちがヤバイかわからない。
まぁ、重いと重いでお似合いだな。
「えっと……『俺はただ友達と楽しく話しただけです。どうぞお二人ともお幸せに』」
重くて怖いけど……二人がきちんと幸せそうなので、俺の心は軽くなった。
HAPPY END
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