【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

回路メグル

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余談

友達(5)

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 その後、数ヶ月は穏やかだった。
 約束通り伊月社長の系列会社の仕事が進んで、広告撮影や新曲のレコーディングを終え、コンサートの告知も出た。
 久しぶりの曲やコンサート。俺たちはもちろん、ファンが喜んでくれているのもよくわかった。
 楽しくやりがいのある仕事をこなして……伊月社長からの連絡は、時々「ドラマの撮影現場へのケータリングってなにが喜ばれるかな?」「深夜の撮影が続くときって体調管理どうしてる?」「ダンス講師の伝手ってないかな?」「若い子に人気のゲームってなに?」なんて相談が来るくらいで、恋人のためにマメな人だなと微笑ましいくらいだった。

 そして、いよいよ……

「探偵助手役の波崎アオです。よろしくお願いします」
「情報屋役のfive×tenのフユキです。よろしくお願いします」

 波崎くんと初共演の映画の撮影が始まった。
 俺も波崎くんも主演ではないけど、出番が多いし、同じシーンに登場することが多い。
 意識しなくても自然と仲良くなれそうだけど……

『フユキくん、アオくんから声をかけてくるまでは、普通の仕事仲間程度でいてくれる?』

 伊月社長には事前にそう頼まれていた。

『アオくんから輪に入ろうと……一歩踏み出そうとした時に、温かく迎えてあげて欲しいんだよね』

 まだ友達のいない小学生の親か?
 よくわからないけど過保護だな。なんて思っていた。
 波崎くん、礼儀正しいし、真面目で人当たりもいいし。
 なにを心配しているんだろう。
 よくわからないけど、数日間は普通に「共演者」として接して、休憩時間にすぐ台本の確認かコンディションを整えに行く波崎くんのことは放っておいて、他の共演者とゲームをしていた。

 

 ……結果、撮影が終わるころにはしっかり波崎くんと「友達」になれた。

 ある日突然、波崎くんがゲームの仲間に入れてくれと声をかけてきた。
 これが伊月社長のいう「一歩踏み出す」タイミングか。
 そして、俺の「仕事」は……

「波崎くんのアバターこれ? 本人と全然雰囲気違う!」

 共演者の女性がそう言った瞬間の波崎くん、一見冷静だったけどその後のあまりに長い言い訳、面白かったな。
 他の人にはバレていないと思うけど、俺には動揺しているのがバレバレ。
 だって、アバターがあまりにも「伊月社長」つまり「恋人の姿」だったから。
 会話が変な方向に行かないようにフォローして、ゲーム初心者らしい波崎くんが気持ちよく遊べるようにもサポートして……一応役割は果たせたかな?
 少なくとも、波崎くんに「仲良く楽しくゲームで遊んだ」とは思ってもらえたはず。
 これですぐに「友達」といえるかはわからないけど……
 その後の撮影期間は、待ち時間には一緒にゲームをして、ゲームのフレンドコードだけでなくSNSやメッセージアプリのIDも交換して、撮影終わりに他の役者やスタッフを含めて三回ほど食事に行って……大親友にはほど遠いけど、おそらく波崎くんの「たくさんいる友達のうちの一人」程度の距離にはなれた。

 波崎くんはイメージ通り真面目で素直で、俳優業のためならどんな努力も惜しまないストイックな子で、人間として「いいやつ」と素直に思えた。絶対に友達多いしモテるよな……役者としても実力があるところは尊敬しているし、伊月社長を抜きにしても「友達」になりたいと感じる子だ。

 そう。
 いい子なんだよな……

 この真面目で純粋な波崎くんを落とすなんて、伊月社長なら簡単だろうな。

 枕営業パーティーの件、セクハラパワハラ告発動画の件、波崎くん、どこまでわかっているんだろう。

 まさか、全部わかっていて付き合っているわけではないよな?
 もしくは、伊月社長に脅されて本当は好きじゃないのに付き合っているとか……あ、こっちは少しありそう。
 だから俺に、波崎くんが伊月社長に本気で惚れるような……もしくは、外堀を埋めて逃げられなくするような協力をさせているとか……?
 
 まさかな……だって、今はまだなにも特別なことはしていない。
 ゲームをして友達になっただけなのに、考えすぎか。


      ◆


 更に数週間後。

 俺の目の前には伊月社長。隣には波崎くんがいた。
 場所は人気アミューズメントパークのレストランで、「CM出演タレントに社長からのお礼のランチ」という仕事と福利厚生の混ざったシチュエーション。
 そして、対外的に「伊月社長と波崎アオくんが初めて会う」という日。

「ほ、ほ、ほ……本物の、波崎……アオくん……っ!」
「え?」

 伊月社長が顔を真っ赤にして両手で顔を覆う。
 波崎くんも驚いた顔で、二人はまるで初対面のようだ。
 波崎くんはまぁいい。実力のある俳優だから。
 問題は伊月社長だ。

「あ、あぁ。あの……えっと……デビューされた時からの……ファンです。お会いできて、光栄です!」

 どう見ても「初めて推しに出会ったファン」だ。
 本当は恋人なんだよな? 相談の感じから言えば体の関係もあるはずだ。
 それなのにこの反応ができるなんて、俺より演技が上手い。

 いつも「本音のわからない人だ」と思っていたけど、ますますわからなくなった。
 怖すぎる。
 見ていられない。
 でも、今日は俺にもいろいろと仕事がある。
 まず一つ目は……
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