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余談
友達(3)
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「一つ目は、秘書を喜ばせる協力をしてほしい。誕生日や社内表彰のサプライズなんかで、一曲歌うとか、秘書と握手してチェキとか。そんな感じ」
「え? えぇ、それは全然」
あれ? 社長らしいというか……まともなお願いだな。
「二つ目は、友達になって欲しい」
「あ、えぇ。伊月社長のような素敵な方なら喜んで」
友達? 奴隷や愛人ではなく対等な関係でいいのか。
「あぁ、違うんだ。俺とも友達になって欲しいけど……俺の好きな子と友達になって欲しいんだ」
伊月社長が笑顔のまま首を振る。
なんだ?
話の方向が……?
「好きな……子?」
「うん。それで、三つ目なんだけど……俺とその子が上手くいくように協力して欲しいんだよね」
「あ! あぁ……!」
なるほど。俺にこう頼むってことは……
「好きな方というのは、芸能人ですか?」
「そう。話が早くて助かるな。秘書から聞いている通りだ」
そうか。
そうきたか。
好きな人との出会いをセッティングするとか、外堀を埋めるとか、そういう手配をしろということか。
これは、それなりに重い対価だな。枕営業よりは俺の負担は少ないように思うけど、他人を無理やり差し出すような真似は精神にくる。
それに、俺に頼むということは俺と接点がある人……まさかメンバー!?
「俺の好きな子、波崎アオくんなんだけど、知っているよね?」
「波崎くん……はい。少しだけ共演したことがありますが……」
共演というか……大型歌番組で、俺たちはアイドル歌手として、波崎くんはドラマの主題歌を歌う別の歌手の応援としてすれ違うとか、大型バラエティの何十人もいる参加者の一人とか、朝の情報番組のゲストとコメンテーターとして顔を合わせるとか、そんな程度だ。
共演が多いわけでも、プライベートで仲がいいわけでもない。連絡先も知らない。事務所も別。
なんとなく「真面目ないい人」「ストイックな役者」という印象だけはある。
「接点があまりないので、どこまでご協力できるかわかりませんが」
「大丈夫。これからたくさん接点ができるよ」
「え?」
「フユキくん、たまには映画に出ない? 探偵ものならイメージにもあうよね?」
「え、えぇ、それはもう」
演技は特に力を入れているわけではないけど、時々もらう映画やドラマの仕事は嫌いではない。
探偵ものは観るのも好きだから願っても無い。
でも、もうそこまで用意されているのか?
その映画で波崎くんと共演して、仲良くなって、伊月社長との仲を取り持てってことだよな?
計画的すぎるし、それならもっと直接、波崎くんを落としにいけばいいのに。
「……」
大丈夫か?
この人、最初は品がよさそうとか、社長らしいとか思ったけど、あまりにもすべてが「計算」すぎる。
俺……というか、波崎くん、どうなるんだ?
「フユキくんなにか勘違いしていない?」
「あ、え?」
俺が考え込んでしまっていると、伊月社長は穏やかな笑みで、ちょうど食べごろに焼けた分厚いロース肉を俺の皿に置いた。
「俺がアオくんと付き合えるようにしろって言うんじゃないよ」
「え? え、ですが……」
好きな子と上手くいくようにって……
「絶対にみんなには内緒なんだけどね、俺とアオくんはもう付き合っているんだ」
「は?」
付き合っている?
だったら、え?
「でも、アオくんは人気俳優だから……彼氏がいるなんてバレたら大変だよね?」
「え、えぇ……そうですね」
「だから、上手くいくように、ね?」
「あ、あー……あぁ!」
カモフラージュか!
やっと俺の仕事がわかった!
「俺たちが上手く会えるように手伝ってくれたり、バレそうになった時にフォローしてくれたり……ゆくゆくは、恋人だって発表したいからその時に味方になってくれると助かるな」
「それは、はい! お手伝いも応援もします!」
なんだ。そういうことか。
それは確かに協力者がいた方がスムーズだろうし、二人の幸せのためなんだから俺も気が楽で、手伝いのしがいがある。
枕営業とか愛人とか手配とか疑って悪かったな。
「ありがとう。心強いよ。ついでに、芸能人相手のお付き合いの場合、気をつけた方がいいこととかされて嬉しいこととかのアドバイスも欲しいな……困ったときにメッセージできいていい?」
「はい、俺も恋愛に慣れているわけではないですけど」
「恋愛っていうよりも芸能人の意見がききたいから大丈夫。アオくんの邪魔は絶対にしたくないんだよね」
伊月社長……ずっと穏やかな笑顔ではあったけど、波崎くんのことを語るとデレデレの笑顔になっちゃうんだな。
なんかかわいく見えてきた。
「波崎くん、愛されていますね! そのラブラブな感じ、まだ付き合いたてですか?」
「バレバレかな? そう。一週間くらい前に付き合い始めたばかりなんだ」
「やっぱり。一番のろけたい時期ですよね……」
……ん?
一週間前?
それって……
「そう。のろけたいんだけど、俺とアオくんだけの思い出にもしたいし……」
俺の前で少し恥じらう様な笑顔を浮かべているけど、この人……
一週間前ってあの枕営業未遂のころ?
なんか、タイミングが……恋人ができたのにあのパーティーに行くのはおかしいからその直後?
波崎くんも俺と同じで助けられたとか?
そもそも、暴露チャンネルの潜入があることをどこで知って……?
あれ? やっぱりこの人、ヤバイ人なのか?
……いや、俺の考えすぎだ。
いくらなんでもそんなわけ……ない……よな?
「え? えぇ、それは全然」
あれ? 社長らしいというか……まともなお願いだな。
「二つ目は、友達になって欲しい」
「あ、えぇ。伊月社長のような素敵な方なら喜んで」
友達? 奴隷や愛人ではなく対等な関係でいいのか。
「あぁ、違うんだ。俺とも友達になって欲しいけど……俺の好きな子と友達になって欲しいんだ」
伊月社長が笑顔のまま首を振る。
なんだ?
話の方向が……?
「好きな……子?」
「うん。それで、三つ目なんだけど……俺とその子が上手くいくように協力して欲しいんだよね」
「あ! あぁ……!」
なるほど。俺にこう頼むってことは……
「好きな方というのは、芸能人ですか?」
「そう。話が早くて助かるな。秘書から聞いている通りだ」
そうか。
そうきたか。
好きな人との出会いをセッティングするとか、外堀を埋めるとか、そういう手配をしろということか。
これは、それなりに重い対価だな。枕営業よりは俺の負担は少ないように思うけど、他人を無理やり差し出すような真似は精神にくる。
それに、俺に頼むということは俺と接点がある人……まさかメンバー!?
「俺の好きな子、波崎アオくんなんだけど、知っているよね?」
「波崎くん……はい。少しだけ共演したことがありますが……」
共演というか……大型歌番組で、俺たちはアイドル歌手として、波崎くんはドラマの主題歌を歌う別の歌手の応援としてすれ違うとか、大型バラエティの何十人もいる参加者の一人とか、朝の情報番組のゲストとコメンテーターとして顔を合わせるとか、そんな程度だ。
共演が多いわけでも、プライベートで仲がいいわけでもない。連絡先も知らない。事務所も別。
なんとなく「真面目ないい人」「ストイックな役者」という印象だけはある。
「接点があまりないので、どこまでご協力できるかわかりませんが」
「大丈夫。これからたくさん接点ができるよ」
「え?」
「フユキくん、たまには映画に出ない? 探偵ものならイメージにもあうよね?」
「え、えぇ、それはもう」
演技は特に力を入れているわけではないけど、時々もらう映画やドラマの仕事は嫌いではない。
探偵ものは観るのも好きだから願っても無い。
でも、もうそこまで用意されているのか?
その映画で波崎くんと共演して、仲良くなって、伊月社長との仲を取り持てってことだよな?
計画的すぎるし、それならもっと直接、波崎くんを落としにいけばいいのに。
「……」
大丈夫か?
この人、最初は品がよさそうとか、社長らしいとか思ったけど、あまりにもすべてが「計算」すぎる。
俺……というか、波崎くん、どうなるんだ?
「フユキくんなにか勘違いしていない?」
「あ、え?」
俺が考え込んでしまっていると、伊月社長は穏やかな笑みで、ちょうど食べごろに焼けた分厚いロース肉を俺の皿に置いた。
「俺がアオくんと付き合えるようにしろって言うんじゃないよ」
「え? え、ですが……」
好きな子と上手くいくようにって……
「絶対にみんなには内緒なんだけどね、俺とアオくんはもう付き合っているんだ」
「は?」
付き合っている?
だったら、え?
「でも、アオくんは人気俳優だから……彼氏がいるなんてバレたら大変だよね?」
「え、えぇ……そうですね」
「だから、上手くいくように、ね?」
「あ、あー……あぁ!」
カモフラージュか!
やっと俺の仕事がわかった!
「俺たちが上手く会えるように手伝ってくれたり、バレそうになった時にフォローしてくれたり……ゆくゆくは、恋人だって発表したいからその時に味方になってくれると助かるな」
「それは、はい! お手伝いも応援もします!」
なんだ。そういうことか。
それは確かに協力者がいた方がスムーズだろうし、二人の幸せのためなんだから俺も気が楽で、手伝いのしがいがある。
枕営業とか愛人とか手配とか疑って悪かったな。
「ありがとう。心強いよ。ついでに、芸能人相手のお付き合いの場合、気をつけた方がいいこととかされて嬉しいこととかのアドバイスも欲しいな……困ったときにメッセージできいていい?」
「はい、俺も恋愛に慣れているわけではないですけど」
「恋愛っていうよりも芸能人の意見がききたいから大丈夫。アオくんの邪魔は絶対にしたくないんだよね」
伊月社長……ずっと穏やかな笑顔ではあったけど、波崎くんのことを語るとデレデレの笑顔になっちゃうんだな。
なんかかわいく見えてきた。
「波崎くん、愛されていますね! そのラブラブな感じ、まだ付き合いたてですか?」
「バレバレかな? そう。一週間くらい前に付き合い始めたばかりなんだ」
「やっぱり。一番のろけたい時期ですよね……」
……ん?
一週間前?
それって……
「そう。のろけたいんだけど、俺とアオくんだけの思い出にもしたいし……」
俺の前で少し恥じらう様な笑顔を浮かべているけど、この人……
一週間前ってあの枕営業未遂のころ?
なんか、タイミングが……恋人ができたのにあのパーティーに行くのはおかしいからその直後?
波崎くんも俺と同じで助けられたとか?
そもそも、暴露チャンネルの潜入があることをどこで知って……?
あれ? やっぱりこの人、ヤバイ人なのか?
……いや、俺の考えすぎだ。
いくらなんでもそんなわけ……ない……よな?
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