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余談
友達(1)
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十七歳の時に五人組アイドルグループ「five×ten」のリーダー「フユキ」としてデビューした。
事務所は最大手ではないけど大手。メンバーは個性的で歌、ダンス、お笑いなど特化型。
俺は学歴と、黒髪クール系の容姿を生かして「インテリアイドル」のポジションについた。
日本一人気のアイドルではないけど、露出もファンも多く、十年近く安定して活動を続けてきた。
続けていたのに……
「は? 倒産?」
ある日、メンバー全員で事務所に呼び出されたと思うと、会議室で社長に頭を下げられた。
「数年前に始めた動画配信関連の事業が赤字で……本業の利益でも賄えなくなった。すまない!」
まだ四十代半ばで先代から事務所を引き継いで五年程の社長が、土下座する勢いだった。
でも、いくら謝られても……
「え、じゃあ俺たちは……」
「お前たちは人気グループだから、いくつか移籍のオファーがきている! きっと、移籍しても上手くやれる! 大丈夫だ! 応援している!」
社長はそう言ってくれたし、他のメンバーも「オファーがあるなら安心かな?」と言っていた。
でも、俺は……嫌な予感がしていた。
◆
新しく所属した事務所は、業界最大手の事務所だった。
俺たちのようなイケメンの五~六人組のアイドルが沢山所属していて、ほとんどのグループが俺たちよりも人気のグループだ。
「えぇ!? ここに所属できるの!? やった!」
「俺たち、ますます人気出ちゃうよ!」
最初こそ、メンバーは喜んだ。
俺だって嬉しかった。
この事務所のバックアップがあれば、今までよりも沢山仕事がもらえて、コンサートも大きな会場でできて、楽曲の売り上げも二位までしかとったことがないけど一位になれるかも!? ……なんてことを考えた。
現実は、違った。
仕事は確かに増えた。
メンバーの個性をきちんと理解してくれていて、個々に合わせた仕事を取ってきてくれた。
俺はちょっと自慢できる大学の出身でインテリ・頭脳派で売っているということもあり、情報番組のコメンテーターや歴史番組の司会、教材のCMといった仕事がもらえた。
演技が上手いメンバーは、映画の主演の仕事がもらえた。
歌が上手いメンバーは、バラエティ番組の歌の企画のメンバーに選ばれて、ゴールデンタイムのバラエティのレギュラーになれた。
お笑いが得意なメンバーとダンスが得意なメンバーは、プロのサポートをうけながら日本最高峰のコンテスト優勝を目指すことになった。
一見するとみんな活躍しているし、輝いている。人気も上がった気がする。
でも……
気づけば、五人一緒のCMもレギュラーも無くなって、新曲の予定もコンサートの予定も無くなった。
俺たちは「アイドルグループ」ではなく「個々の才能を生かしたタレント」になっていた。
この状況はマズイ。
「……俺、みんなと曲出してコンサートしたい」
「俺も。毎日大好きなダンスができて幸せだけど、みんなと踊りたい」
「演技の仕事はやりがいがあるけど、俺、このメンバーと一緒の時間が欲しい」
「俺も」
「俺も」
久しぶりに、なんとか予定を合わせて、仕事終わりのメンバーを家に呼んだ。全員が暗い顔をしていた。
他のメンバーも同じように危機感を覚えていたようだ。
元々養成所の仲良し五人で組んだ俺たちは、ビジネスではなく本気で仲がよくて、みんなでわいわい盛り上がるのが好きで、だから今日まで頑張って来られたのに。
「……俺、ダンスの先生からこっそり聞いちゃったんだけど」
ダンスが得意なツキトが声を震わせながら呟いた。
「今の事務所、俺たちが邪魔だったから、引き抜いてくれたんだって」
「邪魔?」
「そう。自社のアイドルと競合するから、自社のアイドルの曲の方が売れるように、コンサートで大きなハコを取られないように、アイドルグループとしての人気を……維持できないように」
「なっ……」
「飼い殺し、するためだって」
証拠はない。
でも、今の状況はまさにそうだ。
仕事は沢山もらえて、個人であれば露出も人気も上がっているから「あの事務所の所属のアイドルが活躍している」とみられるけど、元々この大手事務所に所属しているアイドルグループたちがしないような仕事ばかりで、アイドルらしいことはしない……競合しない。
「……個人には、大きな仕事がもらえているから」
「……文句言いにくいよね」
「でも……」
「うん……」
「「「「「やっぱりみんなで仕事がしたい!」」」」」
全員で円陣を組むように抱き合った。
よかった。みんな同じ気持ちだ。
でも、状況はよく無いか……
「また事務所変わる?」
「そうするのが話が早いけど、短期間で二回も事務所を変わるのはイメージ悪いか」
「問題児に見えるよね」
「俺たち、なんにも悪いことしていないのに」
「……」
事務所を変わるのは難しい。
事務所を変わらずに、事務所に邪魔されず希望の仕事をとるには……
「……ちょっと業界の人に相談してみる」
「あぁ、フユキは真面目な番組にも出て顔が広いもんね?」
「なにかわかったらすぐに相談してくれよ?」
「フユキ、リーダーだからって抱え込むなよ?」
「あぁ」
メンバーはみんな優しい。
性格がいい。
だからこそ……俺が頑張らないといけないな。
このグループで一番頭が良くて、狡賢くて、効率厨で……仕事のためなら、何でも割り切れるのは、俺しかいないから。
「えっと……確か名刺……」
みんなが帰ったあと、一件電話をかけた。
「あぁ、岡本さんですか? フユキです」
岡本さんはとあるテレビ局の制作部の人だ。
そして……
「以前、お話されていたパーティーって、参加できますか?」
俺に「フユキくんなら、コネが作れる場所を紹介できるから、困ったら言ってね?」と声をかけて来た人だ。
業界では有名。
枕営業の斡旋をする人だ。
事務所は最大手ではないけど大手。メンバーは個性的で歌、ダンス、お笑いなど特化型。
俺は学歴と、黒髪クール系の容姿を生かして「インテリアイドル」のポジションについた。
日本一人気のアイドルではないけど、露出もファンも多く、十年近く安定して活動を続けてきた。
続けていたのに……
「は? 倒産?」
ある日、メンバー全員で事務所に呼び出されたと思うと、会議室で社長に頭を下げられた。
「数年前に始めた動画配信関連の事業が赤字で……本業の利益でも賄えなくなった。すまない!」
まだ四十代半ばで先代から事務所を引き継いで五年程の社長が、土下座する勢いだった。
でも、いくら謝られても……
「え、じゃあ俺たちは……」
「お前たちは人気グループだから、いくつか移籍のオファーがきている! きっと、移籍しても上手くやれる! 大丈夫だ! 応援している!」
社長はそう言ってくれたし、他のメンバーも「オファーがあるなら安心かな?」と言っていた。
でも、俺は……嫌な予感がしていた。
◆
新しく所属した事務所は、業界最大手の事務所だった。
俺たちのようなイケメンの五~六人組のアイドルが沢山所属していて、ほとんどのグループが俺たちよりも人気のグループだ。
「えぇ!? ここに所属できるの!? やった!」
「俺たち、ますます人気出ちゃうよ!」
最初こそ、メンバーは喜んだ。
俺だって嬉しかった。
この事務所のバックアップがあれば、今までよりも沢山仕事がもらえて、コンサートも大きな会場でできて、楽曲の売り上げも二位までしかとったことがないけど一位になれるかも!? ……なんてことを考えた。
現実は、違った。
仕事は確かに増えた。
メンバーの個性をきちんと理解してくれていて、個々に合わせた仕事を取ってきてくれた。
俺はちょっと自慢できる大学の出身でインテリ・頭脳派で売っているということもあり、情報番組のコメンテーターや歴史番組の司会、教材のCMといった仕事がもらえた。
演技が上手いメンバーは、映画の主演の仕事がもらえた。
歌が上手いメンバーは、バラエティ番組の歌の企画のメンバーに選ばれて、ゴールデンタイムのバラエティのレギュラーになれた。
お笑いが得意なメンバーとダンスが得意なメンバーは、プロのサポートをうけながら日本最高峰のコンテスト優勝を目指すことになった。
一見するとみんな活躍しているし、輝いている。人気も上がった気がする。
でも……
気づけば、五人一緒のCMもレギュラーも無くなって、新曲の予定もコンサートの予定も無くなった。
俺たちは「アイドルグループ」ではなく「個々の才能を生かしたタレント」になっていた。
この状況はマズイ。
「……俺、みんなと曲出してコンサートしたい」
「俺も。毎日大好きなダンスができて幸せだけど、みんなと踊りたい」
「演技の仕事はやりがいがあるけど、俺、このメンバーと一緒の時間が欲しい」
「俺も」
「俺も」
久しぶりに、なんとか予定を合わせて、仕事終わりのメンバーを家に呼んだ。全員が暗い顔をしていた。
他のメンバーも同じように危機感を覚えていたようだ。
元々養成所の仲良し五人で組んだ俺たちは、ビジネスではなく本気で仲がよくて、みんなでわいわい盛り上がるのが好きで、だから今日まで頑張って来られたのに。
「……俺、ダンスの先生からこっそり聞いちゃったんだけど」
ダンスが得意なツキトが声を震わせながら呟いた。
「今の事務所、俺たちが邪魔だったから、引き抜いてくれたんだって」
「邪魔?」
「そう。自社のアイドルと競合するから、自社のアイドルの曲の方が売れるように、コンサートで大きなハコを取られないように、アイドルグループとしての人気を……維持できないように」
「なっ……」
「飼い殺し、するためだって」
証拠はない。
でも、今の状況はまさにそうだ。
仕事は沢山もらえて、個人であれば露出も人気も上がっているから「あの事務所の所属のアイドルが活躍している」とみられるけど、元々この大手事務所に所属しているアイドルグループたちがしないような仕事ばかりで、アイドルらしいことはしない……競合しない。
「……個人には、大きな仕事がもらえているから」
「……文句言いにくいよね」
「でも……」
「うん……」
「「「「「やっぱりみんなで仕事がしたい!」」」」」
全員で円陣を組むように抱き合った。
よかった。みんな同じ気持ちだ。
でも、状況はよく無いか……
「また事務所変わる?」
「そうするのが話が早いけど、短期間で二回も事務所を変わるのはイメージ悪いか」
「問題児に見えるよね」
「俺たち、なんにも悪いことしていないのに」
「……」
事務所を変わるのは難しい。
事務所を変わらずに、事務所に邪魔されず希望の仕事をとるには……
「……ちょっと業界の人に相談してみる」
「あぁ、フユキは真面目な番組にも出て顔が広いもんね?」
「なにかわかったらすぐに相談してくれよ?」
「フユキ、リーダーだからって抱え込むなよ?」
「あぁ」
メンバーはみんな優しい。
性格がいい。
だからこそ……俺が頑張らないといけないな。
このグループで一番頭が良くて、狡賢くて、効率厨で……仕事のためなら、何でも割り切れるのは、俺しかいないから。
「えっと……確か名刺……」
みんなが帰ったあと、一件電話をかけた。
「あぁ、岡本さんですか? フユキです」
岡本さんはとあるテレビ局の制作部の人だ。
そして……
「以前、お話されていたパーティーって、参加できますか?」
俺に「フユキくんなら、コネが作れる場所を紹介できるから、困ったら言ってね?」と声をかけて来た人だ。
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