【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

回路メグル

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【伊月光一郎の愛】

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「かわいいなぁ……」

 俺の隣で、十五年片想いをして、一年ほど前に付き合い始め、一ヵ月ほど前に養子縁組というかたちで結婚した世界一大事なアオくんが眠っている。
 ここまで長かった。
 自分磨きに会社の業績アップ、人脈作り、そして……

「やっと、アオくんにちゃんと好きになってもらえたな」

 俺は誰よりもアオくんのことを知っているんだから、理解しているんだから、気づかないわけがない。
 強引に付き合い始めた当初は、アオくんは俺のことが好きではなかった。
 好きになってもらうための罠……作戦……いや、努力かな?
 頑張って、頑張って、やっとここまできた。
 最後は「お父さん」なんて言って、焦らして、焦らして、俺も我慢して、我慢して……親なんかよりも「夫」の俺の愛情の方がいいんだってわかってもらうことができた。
 もっと強引に「わからせ」てあげてもよかったけど、アオくんが自分で気づく方が、より俺にハマってくれるだろうから……忍耐力、もってよかった。
 我慢した結果、今日は余裕なく抱いてしまったけど。
 それでも……

「安心しきった幸せそうな寝顔だなぁ」

 ここまで、強引な手も、汚い手もたくさん使ったし、アオくんに怖がられたかもしれないけど、最終的にはアオくんは俺を受け入れてくれたし、アオくんにとってより幸せな環境を作ってあげられたと思う。
 それに、「怖い」といっても、俺はアオくんが本気で好きだから監禁して縛り付けるようなことはしない。
 忙しくて会えない時でも強引に会いに行くのは我慢したし、本当は独り占めしたいけどアオくんが望むから沢山の人にアオくんを観てもらえるお仕事を手配してあげたし、同年代の友達がいないことを気にしていたから感じのいい子と仲良くなれるきっかけを作ったし、弟くんだって俺は正直に言えば嫌いだけど、アオくんが大切にするから護ってあげることにした。
 ……まぁ、それも全部、「アオくんが俺を新しい家族に選んでくれる」ためだし、弟くんは程よい距離に行ってもらったけど。
 何度も何度も「自分の満足よりもアオくんの幸せ」と言い聞かせながら頑張った。
 自分が怖いくらいに執着している自覚はあるから、アオくんをつぶしてしまわないように、でも、俺のそばに来てくれるように……

「あぁ、やっぱりアオくんだったな。正解だ」

 十五年前、アオくんがご両親の愛情を欲しがって、泣いて、必死に努力して、わずかにもらえる愛情に大喜びする姿を見て思ったんだ。

――この子は、どんなにひどい人間でも「家族」なら愛してくれるんだ……って。

 アオくんの愛、いいなぁ。
 愛されるために一生懸命でかわいいなぁ。
 あんな風に愛されたいなぁ。

 俺みたいな性格の悪い、両親に虐げられる出来損ないの不良品でも、アオくんなら、「家族」にさえなれば、愛してくれるかもしれない。
 アオくんは、あんなにひどい両親に対しても、必死で愛情をもらおうと食らいつくんだから……大きくて重い愛を持っているんだから……俺が愛してあげれば、きっともっともっと愛してくれるよね?

「思った通り、こんな俺でも、アオくんは愛してくれるんだ」

 あまりにも情けなくて、アオくんには一部しか話せていないけど……俺の親は俺を溺愛して教育虐待をしていたわけではなかった。「長男のくせに出来損ないじゃ困るのよ! 早くまともになって!」「私たちの子どもと認められるレベルにはまだ足りない。はやく私たちの愛する息子になってくれないと困る」と言われていた。
 両親が求めることをできたときは、溺愛された。
 両親が求めることをできなかったときは、冷たくされた。

 たくさん愛してもらったけど、無条件の愛ではなかったし、俺を本当の意味で愛せない両親のために努力するなんて馬鹿らしいと思うようになっていた。

 そんな時に、アオくんと出会ったんだ。

「アオくんを見習って、本当によかった」

 アオくんがご両親に愛してもらえるように頑張るのと同じで、俺もアオくんに愛してもらうために頑張った。
 アオくんを救いたい。
 アオくんに救ってもらいたい。
 家族にさえなれば、アオくんのことを本気で、真摯に、真剣に愛したら、アオくんもこんな俺のことを誰よりも特別に愛してくれる。
 そう信じて、今日まで頑張ってきてよかった。

「アオくんの特別な『好き』、最高だったな」

 愛してもらえたのは最高で、俺の願いがかなったわけだけど……もちろん、愛してもらえたからといって気を抜かない。
 これからもアオくんを愛して、アオくんを幸せにする。
 そうしたらきっと、アオくんはもっと……ご両親に向けていた愛情よりももっともっと俺を愛してくれる!
 俺と同じくらい執着してくれる!

 楽しみだなぁ。アオくんの重すぎ溺愛!

「あぁ、そうだ」

 ご両親で思い出した。
 
「俺がいるんだからもう不要だよね」

 弟くんみたいに、急に改心されても困るし。
 友達やファンはいくらでもいていいけど、アオくんの「家族」は俺なんだから。

「……もしもし?」

 サイドボードのスマートフォンを手に取って、「友達」の番号に電話をかける。

『あぁ、どうした?』

 声だけでも強面が想像できそうな、いわゆる「組」関係の友達は律義にワンコールで出てくれた。

「この前相談した件なんだけど、進めてもらっていいかな?」
『わかった。お前の親と同じ飛ばし方でいいか?』
「助かるよ」

 一度頼んだことがあるから話が早くていい。

『念のため今回は北の……もっと遠方にするか』
「いいね。手間じゃない? 報酬少し上げようか?」
『結婚祝いだ。同じでいい。お前には幸せでいてくれないと俺たち『友達』も困るからな』

 本当にいい友達だ。
 親に無理やり連れていかれた経営者のパーティーで知り合った「友達」で、境遇がとても似ていたから意気投合したんだけど……彼は親に反発して「組」の方に行ってしまった。
 俺もアオくんがいなかったらそっちに行っていたかもしれないな。
 俺の性格的には、そっちも向いていそうだけど……友達も「この生き方は気に入っているが、どうあがいても全うではないからな。お前は道を踏み外すなよ」と何度も俺にくぎを刺していた。
 それだけ俺もそっちに行きそうに見えたんだろうな……うん。アオくんのお陰で今の「社長」としての立派な俺がいる。
 アオくんにはますます感謝しないといけない。

「あぁ、じゃあそれで。よろしく」
「ん……?」

 電話を切ると同時に、アオくんが目を覚ました。
 ねぇアオくん。アオくんの心配はちゃんと排除したから安心してね?
 ちょっと怖い手段を使ったけど……アオくんならこういう俺も愛してくれるよね?

 アオくん、これからも、どんな手段を使ってでもたくさん愛して幸せにするから、俺を愛してね?










※番外編(全10話)続きます






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