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第45話 気づく
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伊月さんと養子縁組をして一ヵ月。二人で水族館へ遊びに来た。
帽子やメガネで変装はしているけど、もう関係を公表しているからいつバレてもいいやと堂々と施設内を回ってカフェで食事をして、出口近くのお土産物売り場までやって来ていた。
「ぬいぐるみってかわいいし欲しい気もするんですけど、これを家でどう扱えばいいのかわからないんですよね」
「でも欲しいんだよね? 俺もぬいぐるみってどう扱えばいいのかよくわからないから、買って帰って二人で研究しよう」
両親なら絶対に「ぬいぐるみなんて無駄」と言うのに、伊月さんは俺が手に取った大きめのサメのぬいぐるみを笑顔でレジに持って行ってくれる。
自分のお金でも余裕で買えるものではあるのに、水族館に連れてきてもらって、欲しいと言ったら買ってもらえた……この事実が特別嬉しかった。
「お待たせ。行こうか?」
出口近くで待っていると、大きくて手提げ袋に入りきらないサメのぬいぐるみを脇に抱えた伊月さんが駆け寄ってくる。似合っていなくて、なぜかドキッとする。
「あ、俺持ちます」
「だめ。大きいから蒼太くんだと両手で抱えることになるから……迷子防止に手を繋げないのは危ないからだめ」
伊月さんが空いている手で俺の手を握る。
水族館を回っている間も手を握ってくれていて、「親に手を引いてもらって展示を回る」なんて経験が無かった俺は、それだけですごく嬉しかった。
「車まで我慢、ね?」
「はい」
こういうちょっとした子供扱いも楽しいなと思いながら水族館を出て、少し離れた駐車場に戻るために、併設された広い海浜公園の遊歩道を歩いている時だった。
「あ、あれ、波崎アオじゃない?」
「え? あ、本当だ! 横にいるの、噂の社長だし絶対そう!」
近くのベンチに座っている中高生くらいの女の子たちの声が微かに聞こえる。
広い公園だし、他の人は遠いから……まぁ、バレても大きな混乱にはならないか。
中途半端に反応してもきっと面倒だし、聞こえていないフリをしよう……と伊月さんの顔を見上げると、伊月さんは俺の考えをくみ取ってくれたのか笑顔で小さく頷いてくれて、俺も同じように頷いた。
「えぇ~めちゃラブラブ」
「恋人宣言も結婚宣言も文書だけだったからよくわかんなかったけど、並ぶとお似合いじゃん」
「ね~。新婚夫婦って感じ」
「距離感が夫婦だよね。波崎アオ、この前のドラマの恋人溺愛彼氏役よりもデレデレした顔してるよね」
「わかる。ガチの恋人にはあんな顔するんだ~」
……ん?
デレデレ?
「っていうか、あの体格差……波崎アオって受かな?」
「えぇ~そういうのやめなよ~……受っぽいけど」
それは……!? 事実だけど、男同士だとどっちか解らなくて気になるのかもしれないけど……!
そんなプライベートなこと……しかも俺、受っぽい? バレてる?
居た堪れなくて思わず歩く速度を速めてしまい、女の子たちのちょっと品の無い笑い声が聞こえてすぐ、もう二人の声は聴きとれなくなっていった。
「……」
俺、今は伊月さんの子供なのに。
新婚とか、デレデレとか、受とか、そんな……
「……大丈夫?」
思わず俯いてしまっていると、伊月さんが手を引いて心配そうに顔を覗き込んでくれる。
俺好みの男らしい顔が近い。
「あ……は、はい!」
慌てて返事をするけど、妙に……ドキっとした。
距離感的に、角度的に、キスされるかと思って。
このタイミングで、この場所で、そんなことするはずがないのに。
「もうすぐ駐車場だからね」
当然、伊月さんの顔はすぐに離れていってしまった。
「はい……」
あれ?
俺……今、ドキっとして……その後、どう思った?
寂しいと、思った?
俺、今までもらえなかった愛情を取り戻すように「親子ごっこ」を楽しんでいるつもりだったけど、周りから見れば俺達って恋人で、新婚夫婦で……恋人で夫婦なのも間違っていなくて、でも、俺たち……
「はい、蒼太くん」
駐車場について、車の助手席のドアを開け、ぬいぐるみを渡しながら中へ促してくれる伊月さんは優しいお父さんではあるんだけど……求めていた愛情を感じるんだけど……急に気づいてしまった。
お父さんにはドキっとしないよね?
俺、「お父さん」っていう言葉に浮かれていたけど、俺が本当に欲しいのって……
俺にとっての伊月さんって……
帽子やメガネで変装はしているけど、もう関係を公表しているからいつバレてもいいやと堂々と施設内を回ってカフェで食事をして、出口近くのお土産物売り場までやって来ていた。
「ぬいぐるみってかわいいし欲しい気もするんですけど、これを家でどう扱えばいいのかわからないんですよね」
「でも欲しいんだよね? 俺もぬいぐるみってどう扱えばいいのかよくわからないから、買って帰って二人で研究しよう」
両親なら絶対に「ぬいぐるみなんて無駄」と言うのに、伊月さんは俺が手に取った大きめのサメのぬいぐるみを笑顔でレジに持って行ってくれる。
自分のお金でも余裕で買えるものではあるのに、水族館に連れてきてもらって、欲しいと言ったら買ってもらえた……この事実が特別嬉しかった。
「お待たせ。行こうか?」
出口近くで待っていると、大きくて手提げ袋に入りきらないサメのぬいぐるみを脇に抱えた伊月さんが駆け寄ってくる。似合っていなくて、なぜかドキッとする。
「あ、俺持ちます」
「だめ。大きいから蒼太くんだと両手で抱えることになるから……迷子防止に手を繋げないのは危ないからだめ」
伊月さんが空いている手で俺の手を握る。
水族館を回っている間も手を握ってくれていて、「親に手を引いてもらって展示を回る」なんて経験が無かった俺は、それだけですごく嬉しかった。
「車まで我慢、ね?」
「はい」
こういうちょっとした子供扱いも楽しいなと思いながら水族館を出て、少し離れた駐車場に戻るために、併設された広い海浜公園の遊歩道を歩いている時だった。
「あ、あれ、波崎アオじゃない?」
「え? あ、本当だ! 横にいるの、噂の社長だし絶対そう!」
近くのベンチに座っている中高生くらいの女の子たちの声が微かに聞こえる。
広い公園だし、他の人は遠いから……まぁ、バレても大きな混乱にはならないか。
中途半端に反応してもきっと面倒だし、聞こえていないフリをしよう……と伊月さんの顔を見上げると、伊月さんは俺の考えをくみ取ってくれたのか笑顔で小さく頷いてくれて、俺も同じように頷いた。
「えぇ~めちゃラブラブ」
「恋人宣言も結婚宣言も文書だけだったからよくわかんなかったけど、並ぶとお似合いじゃん」
「ね~。新婚夫婦って感じ」
「距離感が夫婦だよね。波崎アオ、この前のドラマの恋人溺愛彼氏役よりもデレデレした顔してるよね」
「わかる。ガチの恋人にはあんな顔するんだ~」
……ん?
デレデレ?
「っていうか、あの体格差……波崎アオって受かな?」
「えぇ~そういうのやめなよ~……受っぽいけど」
それは……!? 事実だけど、男同士だとどっちか解らなくて気になるのかもしれないけど……!
そんなプライベートなこと……しかも俺、受っぽい? バレてる?
居た堪れなくて思わず歩く速度を速めてしまい、女の子たちのちょっと品の無い笑い声が聞こえてすぐ、もう二人の声は聴きとれなくなっていった。
「……」
俺、今は伊月さんの子供なのに。
新婚とか、デレデレとか、受とか、そんな……
「……大丈夫?」
思わず俯いてしまっていると、伊月さんが手を引いて心配そうに顔を覗き込んでくれる。
俺好みの男らしい顔が近い。
「あ……は、はい!」
慌てて返事をするけど、妙に……ドキっとした。
距離感的に、角度的に、キスされるかと思って。
このタイミングで、この場所で、そんなことするはずがないのに。
「もうすぐ駐車場だからね」
当然、伊月さんの顔はすぐに離れていってしまった。
「はい……」
あれ?
俺……今、ドキっとして……その後、どう思った?
寂しいと、思った?
俺、今までもらえなかった愛情を取り戻すように「親子ごっこ」を楽しんでいるつもりだったけど、周りから見れば俺達って恋人で、新婚夫婦で……恋人で夫婦なのも間違っていなくて、でも、俺たち……
「はい、蒼太くん」
駐車場について、車の助手席のドアを開け、ぬいぐるみを渡しながら中へ促してくれる伊月さんは優しいお父さんではあるんだけど……求めていた愛情を感じるんだけど……急に気づいてしまった。
お父さんにはドキっとしないよね?
俺、「お父さん」っていう言葉に浮かれていたけど、俺が本当に欲しいのって……
俺にとっての伊月さんって……
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