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第43話 祝(2)
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予想外過ぎて、思考が停止しそうになる。
結婚? いいとか嫌とか以前に、できる?
付き合って一年の男女ならあり得るのかもしれないけど、俺、男だよ?
日本はまだ、同性婚の法整備がない。
同棲の話の覚悟はあったけど、結婚?
「アオくんはまだ二十四歳なのに性急かもしれないけど、一日でも早くアオくんと家族になりたい。誰にも渡したくない。だめかな?」
俺が戸惑うことは予想済み? 伊月さんは戸惑う俺にも優しい顔と、声と……でも少し強く迫ってくる。
「えっと……だめ、ではないですけど、ただ、男同士で結婚って……?」
絵にかいたようなプロポーズに水を差すのは申し訳ないけど、伊月さんへの気持ちがどうとか以前に、そこが気になって戸惑ったまま首を傾げると、伊月さんは俺の微妙な反応にも嫌な顔をせずに頷いてくれる。
「うん。日本ではできないね。だから、同性カップルはパートナーシップ制度を利用したり……」
伊月さんは片手でジュエリーケースを持って跪いたまま、もう片手をスーツの内ポケットに入れる。
「養子縁組を利用して家族になるんだよ」
「あ、あぁ……そういえば、聞いたことがあります」
伊月さんが内ポケットから取り出したのは「養子縁組届」と書かれた紙だった。
一見すると婚姻届けにも見えるし、ゲイの間でそれが婚姻届けの代わりになることも知っている。
そうか……口約束的な事実婚ではなく、男女の結婚とは違うけど、きちんと法的な家族関係ということか。
重いといえば、重いけど、一年付き合った男女だったらここで彼氏が跪いて婚姻届けを出すのもあり得るだろうし……俺と伊月さんが男同士なだけで、恋人としては自然か。
「俺ね、アオくんが欲しいものを全部あげたいと思ったんだ。質のいいお仕事、人気、快適な生活、楽しい時間、最高のセックス、愛情……」
もうすでにくれている。
俺が欲しいものを全部くれるから、俺は伊月さんを好きになってしまって、結婚っていうのも……
「親からの愛情」
……!
「それは……」
それは、欲しいけど。
もう両親とは、微かに繋がっていた縁も完全に切れてしまったから、欲しくても手に入らないのに?
「でも、アオくんのご両親にアオくんを愛してもらうのは無理そうだから」
「っ……!」
事実だけど、改めて他人の口から言われると苦しい。
そうだよ、無理。
もう絶対に手に入らない。
諦めるしかない。
そう思っていたのに……
「俺がアオくんの親になって、アオくんを愛してあげればいいかなと思って」
「……え?」
伊月さんが、ジュエリーケースの上に養子縁組届をよく見えるように置く。
養子縁組……養子……
「あ! えぇ!?」
養子縁組って、そうか。養子だから当然、書類上は親子関係か。
「この方法なら、一般的な認識としては俺とアオくんの同性婚。でも書類上は親子。夫としても、お父さんとしてもアオくんのこと最高に愛してあげられる。一石二鳥だよね?」
そう……といえば、そうだけど。
「弟くんと一緒にご実家の籍から抜けたんだよね? 新しい家族、欲しくない?」
この人はいつも、ツッコミどころが多すぎる。
ロマンチックに指輪を差し出してくれるけど、言っていることは理屈が通っているようでおかしい。
夫にもお父さんにもなれて一石二鳥って、おかしい。重い。怖い。
……と、頭の中の冷静な部分では理解できている。
絶対におかしい。
でも……
「お父さん……?」
人生で何度も口にした単語を呟いてみる。
俳優としての台詞をのぞけば、俺がこう呼びかけたとしても、相手が笑顔になってくれることなんて無かったのに……
「うん。アオくんのことが大切で、絶対に嫌いにならない、見返りも求めない、ただただアオくんを護って愛するお父さんだよ」
「……!」
伊月さんが笑顔で頷いてくれたのを見て、俺の心の中でずっと一人で泣いていて自分で慰めてきた、子供の頃の小さなアオが、泣くのを止めてしまった。
「それに、アオくんが好きでたまらない、アオくんのためなら何でもできちゃう、アオくんのことを全力で支えて愛する夫だよ」
「……!」
まずい。俺の中の冷静に「おかしいよ」とツッコミを入れている部分と、大喜びしている部分がどっちも大きい。
これ、もっと落ち着いて考えた方がいい。
わかっている。
人生の大事な選択だ。
これからの人生を伊月さんに捧げることになる。
それでいいのかどうか。
俺、本当に伊月さんのことが結婚したいほど好きなのか。
しっかり考えないといけない。
でも……
「どっちも……欲しい!」
家族から愛されなかった俺にはあまりに魅力的な「欲しかったもの」すぎて、冷静な自分の声をかき消すほど、心の中のずっとずっと寂しかった部分が大喜びしてしまった。
「じゃあ、俺と養子縁組で結婚してくれる?」
「ハイ!」
反射的に頷くと、左手の薬指にダイヤのついた指輪をはめられ、立ち上がった伊月さんに恋人同士らしい甘いキスをしてもらった後、子供をあやすように頭を撫でてもらった。
「アオくん、大好きだよ」
この言葉は恋人らしい言葉なのか、親のような言葉なのかわからなかったけど、とにかく嬉しくてしかたがなかった。
結婚? いいとか嫌とか以前に、できる?
付き合って一年の男女ならあり得るのかもしれないけど、俺、男だよ?
日本はまだ、同性婚の法整備がない。
同棲の話の覚悟はあったけど、結婚?
「アオくんはまだ二十四歳なのに性急かもしれないけど、一日でも早くアオくんと家族になりたい。誰にも渡したくない。だめかな?」
俺が戸惑うことは予想済み? 伊月さんは戸惑う俺にも優しい顔と、声と……でも少し強く迫ってくる。
「えっと……だめ、ではないですけど、ただ、男同士で結婚って……?」
絵にかいたようなプロポーズに水を差すのは申し訳ないけど、伊月さんへの気持ちがどうとか以前に、そこが気になって戸惑ったまま首を傾げると、伊月さんは俺の微妙な反応にも嫌な顔をせずに頷いてくれる。
「うん。日本ではできないね。だから、同性カップルはパートナーシップ制度を利用したり……」
伊月さんは片手でジュエリーケースを持って跪いたまま、もう片手をスーツの内ポケットに入れる。
「養子縁組を利用して家族になるんだよ」
「あ、あぁ……そういえば、聞いたことがあります」
伊月さんが内ポケットから取り出したのは「養子縁組届」と書かれた紙だった。
一見すると婚姻届けにも見えるし、ゲイの間でそれが婚姻届けの代わりになることも知っている。
そうか……口約束的な事実婚ではなく、男女の結婚とは違うけど、きちんと法的な家族関係ということか。
重いといえば、重いけど、一年付き合った男女だったらここで彼氏が跪いて婚姻届けを出すのもあり得るだろうし……俺と伊月さんが男同士なだけで、恋人としては自然か。
「俺ね、アオくんが欲しいものを全部あげたいと思ったんだ。質のいいお仕事、人気、快適な生活、楽しい時間、最高のセックス、愛情……」
もうすでにくれている。
俺が欲しいものを全部くれるから、俺は伊月さんを好きになってしまって、結婚っていうのも……
「親からの愛情」
……!
「それは……」
それは、欲しいけど。
もう両親とは、微かに繋がっていた縁も完全に切れてしまったから、欲しくても手に入らないのに?
「でも、アオくんのご両親にアオくんを愛してもらうのは無理そうだから」
「っ……!」
事実だけど、改めて他人の口から言われると苦しい。
そうだよ、無理。
もう絶対に手に入らない。
諦めるしかない。
そう思っていたのに……
「俺がアオくんの親になって、アオくんを愛してあげればいいかなと思って」
「……え?」
伊月さんが、ジュエリーケースの上に養子縁組届をよく見えるように置く。
養子縁組……養子……
「あ! えぇ!?」
養子縁組って、そうか。養子だから当然、書類上は親子関係か。
「この方法なら、一般的な認識としては俺とアオくんの同性婚。でも書類上は親子。夫としても、お父さんとしてもアオくんのこと最高に愛してあげられる。一石二鳥だよね?」
そう……といえば、そうだけど。
「弟くんと一緒にご実家の籍から抜けたんだよね? 新しい家族、欲しくない?」
この人はいつも、ツッコミどころが多すぎる。
ロマンチックに指輪を差し出してくれるけど、言っていることは理屈が通っているようでおかしい。
夫にもお父さんにもなれて一石二鳥って、おかしい。重い。怖い。
……と、頭の中の冷静な部分では理解できている。
絶対におかしい。
でも……
「お父さん……?」
人生で何度も口にした単語を呟いてみる。
俳優としての台詞をのぞけば、俺がこう呼びかけたとしても、相手が笑顔になってくれることなんて無かったのに……
「うん。アオくんのことが大切で、絶対に嫌いにならない、見返りも求めない、ただただアオくんを護って愛するお父さんだよ」
「……!」
伊月さんが笑顔で頷いてくれたのを見て、俺の心の中でずっと一人で泣いていて自分で慰めてきた、子供の頃の小さなアオが、泣くのを止めてしまった。
「それに、アオくんが好きでたまらない、アオくんのためなら何でもできちゃう、アオくんのことを全力で支えて愛する夫だよ」
「……!」
まずい。俺の中の冷静に「おかしいよ」とツッコミを入れている部分と、大喜びしている部分がどっちも大きい。
これ、もっと落ち着いて考えた方がいい。
わかっている。
人生の大事な選択だ。
これからの人生を伊月さんに捧げることになる。
それでいいのかどうか。
俺、本当に伊月さんのことが結婚したいほど好きなのか。
しっかり考えないといけない。
でも……
「どっちも……欲しい!」
家族から愛されなかった俺にはあまりに魅力的な「欲しかったもの」すぎて、冷静な自分の声をかき消すほど、心の中のずっとずっと寂しかった部分が大喜びしてしまった。
「じゃあ、俺と養子縁組で結婚してくれる?」
「ハイ!」
反射的に頷くと、左手の薬指にダイヤのついた指輪をはめられ、立ち上がった伊月さんに恋人同士らしい甘いキスをしてもらった後、子供をあやすように頭を撫でてもらった。
「アオくん、大好きだよ」
この言葉は恋人らしい言葉なのか、親のような言葉なのかわからなかったけど、とにかく嬉しくてしかたがなかった。
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