【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

回路メグル

文字の大きさ
上 下
43 / 60

第43話 祝(2)

しおりを挟む
 予想外過ぎて、思考が停止しそうになる。
 結婚? いいとか嫌とか以前に、できる?
 付き合って一年の男女ならあり得るのかもしれないけど、俺、男だよ?
 日本はまだ、同性婚の法整備がない。
 同棲の話の覚悟はあったけど、結婚?

「アオくんはまだ二十四歳なのに性急かもしれないけど、一日でも早くアオくんと家族になりたい。誰にも渡したくない。だめかな?」

 俺が戸惑うことは予想済み? 伊月さんは戸惑う俺にも優しい顔と、声と……でも少し強く迫ってくる。

「えっと……だめ、ではないですけど、ただ、男同士で結婚って……?」

 絵にかいたようなプロポーズに水を差すのは申し訳ないけど、伊月さんへの気持ちがどうとか以前に、そこが気になって戸惑ったまま首を傾げると、伊月さんは俺の微妙な反応にも嫌な顔をせずに頷いてくれる。

「うん。日本ではできないね。だから、同性カップルはパートナーシップ制度を利用したり……」

 伊月さんは片手でジュエリーケースを持って跪いたまま、もう片手をスーツの内ポケットに入れる。

「養子縁組を利用して家族になるんだよ」
「あ、あぁ……そういえば、聞いたことがあります」

 伊月さんが内ポケットから取り出したのは「養子縁組届」と書かれた紙だった。
 一見すると婚姻届けにも見えるし、ゲイの間でそれが婚姻届けの代わりになることも知っている。
 そうか……口約束的な事実婚ではなく、男女の結婚とは違うけど、きちんと法的な家族関係ということか。
 重いといえば、重いけど、一年付き合った男女だったらここで彼氏が跪いて婚姻届けを出すのもあり得るだろうし……俺と伊月さんが男同士なだけで、恋人としては自然か。

「俺ね、アオくんが欲しいものを全部あげたいと思ったんだ。質のいいお仕事、人気、快適な生活、楽しい時間、最高のセックス、愛情……」

 もうすでにくれている。
 俺が欲しいものを全部くれるから、俺は伊月さんを好きになってしまって、結婚っていうのも……

「親からの愛情」

 ……!

「それは……」

 それは、欲しいけど。
 もう両親とは、微かに繋がっていた縁も完全に切れてしまったから、欲しくても手に入らないのに?

「でも、アオくんのご両親にアオくんを愛してもらうのは無理そうだから」
「っ……!」

 事実だけど、改めて他人の口から言われると苦しい。
 そうだよ、無理。
 もう絶対に手に入らない。
 諦めるしかない。
 そう思っていたのに……

「俺がアオくんの親になって、アオくんを愛してあげればいいかなと思って」
「……え?」

 伊月さんが、ジュエリーケースの上に養子縁組届をよく見えるように置く。
 養子縁組……養子……

「あ! えぇ!?」

 養子縁組って、そうか。養子だから当然、書類上は親子関係か。

「この方法なら、一般的な認識としては俺とアオくんの同性婚。でも書類上は親子。夫としても、お父さんとしてもアオくんのこと最高に愛してあげられる。一石二鳥だよね?」

 そう……といえば、そうだけど。

「弟くんと一緒にご実家の籍から抜けたんだよね? 新しい家族、欲しくない?」

 この人はいつも、ツッコミどころが多すぎる。
 ロマンチックに指輪を差し出してくれるけど、言っていることは理屈が通っているようでおかしい。
 夫にもお父さんにもなれて一石二鳥って、おかしい。重い。怖い。
 ……と、頭の中の冷静な部分では理解できている。
 絶対におかしい。

 でも……

「お父さん……?」

 人生で何度も口にした単語を呟いてみる。
 俳優としての台詞をのぞけば、俺がこう呼びかけたとしても、相手が笑顔になってくれることなんて無かったのに……

「うん。アオくんのことが大切で、絶対に嫌いにならない、見返りも求めない、ただただアオくんを護って愛するお父さんだよ」
「……!」

 伊月さんが笑顔で頷いてくれたのを見て、俺の心の中でずっと一人で泣いていて自分で慰めてきた、子供の頃の小さなアオが、泣くのを止めてしまった。

「それに、アオくんが好きでたまらない、アオくんのためなら何でもできちゃう、アオくんのことを全力で支えて愛する夫だよ」
「……!」

 まずい。俺の中の冷静に「おかしいよ」とツッコミを入れている部分と、大喜びしている部分がどっちも大きい。
 これ、もっと落ち着いて考えた方がいい。
 わかっている。
 人生の大事な選択だ。
 これからの人生を伊月さんに捧げることになる。
 それでいいのかどうか。
 俺、本当に伊月さんのことが結婚したいほど好きなのか。
 しっかり考えないといけない。
 でも……

「どっちも……欲しい!」

 家族から愛されなかった俺にはあまりに魅力的な「欲しかったもの」すぎて、冷静な自分の声をかき消すほど、心の中のずっとずっと寂しかった部分が大喜びしてしまった。

「じゃあ、俺と養子縁組で結婚してくれる?」
「ハイ!」

 反射的に頷くと、左手の薬指にダイヤのついた指輪をはめられ、立ち上がった伊月さんに恋人同士らしい甘いキスをしてもらった後、子供をあやすように頭を撫でてもらった。
 
「アオくん、大好きだよ」

 この言葉は恋人らしい言葉なのか、親のような言葉なのかわからなかったけど、とにかく嬉しくてしかたがなかった。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...