【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

回路メグル

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第36話 予告

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 実家に行った日……いや、伊月さんの誕生日を祝った日から一ヶ月ほど。
 今までは週に一回会えれば多い方だったのに、この一ヶ月は週に二回は伊月さんに会っている。
 今週はとうとう……

「伊月さん、今、会社だ……」

 事務所で少し空き時間ができたので、小さめの会議室にこもって次のドラマの台本の確認をしつつ……スマートフォンの位置情報アプリを開くと、伊月さんは同じビルにいるようだった。
 昼の一時だから仕事中だよね?
 迷惑かな? でも……
 少し悩んでいる間に、スマートフォンの画面にメッセージアプリの通知が浮かんだ。

「あ! 伊月さん!」
『今から、少し遅めの昼食なんだけどアオくんも一緒にどう?』

 ……!
 伊月さん、超能力とかある?
 俺と伊月さんが同じビルにいることなんて、珍しくないのに。
 俺に時間があって会いたいと思ったの、なんでわかるの?
 それに……今まではこういうこと、少し怖かったのに。

「嬉しい……ぜひ!」

 最近、ただただ嬉しくて、怖くない。
 重くない。
 嬉しい。

 今まで、俺の中では「ビジネスとして恋人」でいたけど、最近は……「本当に恋人」でもいいかもしれないと思うようになった。
 伊月さんの計算なのか俺がチョロいのかよくわからないけど……俺の幸せには変わりないかなって。
 ただ、問題があるとすれば……俺の仕事と両親か。
 仕事柄、公表することは難しいし、両親はおそらく同性愛に偏見がある。

 両親の顔、ファンの顔を思い浮かべると……どうしても気持ちにブレーキがかかる。
 
――コンコン

「アオくん?」
「伊月さん!」

 マネージャーの遠野さんと並んで、スーツ姿の伊月さんが会議室に入って来た。
 仕事用のスーツ姿、本当かっこいい。似合うなぁ。

「うちの社員食堂でテイクアウトしてきた。勝手に選んだけどどうかな?」
「わ……完璧に俺の食べたかったものです! ありがとうございます!」

 俺の大好きなエビがごろっと入ったトムヤムクンに生春巻き!

「アオ、次の撮影が少しおしているらしいから二時間くらいはここにいていいからな」
「はい! あ、でも、伊月さんは……お仕事ですよね?」

 遠野さんが笑顔で言ってくれた言葉は嬉しいけど、仕事中の伊月さんに我儘は言えない。

「秘書には一時間で戻るって言っていて……」

 そうだよね。昼休憩だろうから、一時間くらいだよね……
 仕方ない。俺が寂しいとか我儘言っちゃいけない。
 笑顔で頷かないと……

「ちょっと待ってね? ……もしもし? あぁ。戻るの、三時でいい? あぁ、大丈夫。それは夜にするから。じゃあ」

 俺の目の前で、すぐに伊月さんは電話をかけてスケジュールを調整してくれているようだった。
 仕事中なのに?
 仕事より……俺?

「アオくん。大丈夫。二時間一緒にいられるよ」
「伊月さん、アオを甘やかしすぎですよ。でも……」

 伊月さんの素早い対応に俺が感激していると、遠野さんは隣で呆れたようなため息をつく。
 そうか。一般的にはそうだよね。
 立場のある人なのに、仕事より恋人を優先するのはよくないよね。
 でも……あれ? 遠野さん、その嬉しそうな顔なに?

「アオがこんなにわかりやすく、素の表情を出すなんてなぁ」

 遠野さんがしみじみと呟く。
 素? 俺、表情、作れていなかった?

「アオ、お前も我儘言ってばかりじゃなく、伊月さんの我儘をちゃんと聞くんだぞ? 恋人や夫婦を長続きさせる秘訣は、お互いに相手の我儘をきくことだからな」

 そういえば遠野さん、十年以上つきあっている恋人がいるんだっけ? 俺のマネージャーでいつでも一緒だしいつでも事務所にいるイメージなのに、よく続くな……これは信ぴょう性のあるアドバイスだ。
 しかも、確かに俺ってされてばかりで、伊月さんは「アオくんがいてくれるだけでいい」とは言ってくれるけど……うん。俺も、ちょっと我儘を聞いてあげたいかも。

「はい! そうですね! 伊月さん、聞きますね!」
「ふふっ、その言葉だけでもう嬉しいよ。でも、そんなこと言ってくれるなら……今度、一つ我儘言っちゃおうかな」

 伊月さんが俺と遠野さんのやり取りを、にこにこと少し怖いくらい深い笑顔で見つめる。
 ……俺、もしかして迂闊なこと言っちゃったかな?

「仕事に支障のない範囲でお願いしますよ。それではごゆっくり」

 会議室を笑顔で出て行く遠野さんを見送ってドアが閉まると、伊月さんはすぐに俺の体を抱きしめてくれた。

「アオくんは、こうして一緒にいてくれるだけで……なんなら一緒じゃなくても存在してくれているだけでいいんだけどね。あまりにも一緒の時間が長いから、少しだけ欲が出てきた」
「伊月さん?」
「……合鍵が用意出来たら、正式に我儘言わせて」

 合鍵……?
 それ、もう言っているようなものだよね?
 同棲? 半同棲?
 あのマンションのセキュリティなら一緒の部屋に住んでいるとはバレにくいだろうしアリか……フェイクで今の部屋を残しておいてもいいし。

「どんな我儘なのか、楽しみにしていますね?」

 かなり重い我儘だなと思うけど、受け入れられるなと思った時点で、俺の気持ちはかなり伊月さんに傾いている気がした。
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