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第31話 ランド/推し
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貸切ったレストランの中央に置かれた大きなテーブルに、俺とフユキさんたちが横並びになり、向かいに伊月さんとグループ会社の社長さん四人が並んで食事をした。伊月さんの後ろに秘書さん二人も立っている。
マナーを意識しないといけないコース料理だし、カメラも回っているし、リラックスして味わうことは難しい。
それに、会話も……
「波崎さん、伊月社長はこの通り波崎さんの大ファンで、グループのトップの会議はいつも『今日もアオくんがかっこいい。存在が奇跡』と言うところから始まるんですよ。グループ共通の月一のリモート朝礼では社長の話としてだいたい今期の波崎さん出演ドラマの感想を話されるんです。朝礼にふさわしい内容かは微妙ですが……若い社員にはとても好評で、出席率も上がりました」
「社長室には波崎さんのポスター、アクリルスタンド、ブロマイドなんかが飾ってあって……先日ビジネス誌の取材を受けた時に飾ったまま写真を撮られたので、来月発売の雑誌をぜひ見てみてください。すごいですよ。社長の後ろの祭壇」
「波崎さんがパッケージに起用されているお菓子。あれを箱買いして食べきれないからみんなに配ったり……」
「波崎さんの出演番組をリアタイするために、常人ではありえないスピードで仕事を終わらせることもよくありますね」
「あと、自分が推し活のお陰で人生が豊かになったから、社員の推し活を応援する制度を作られて、これは本当に好評です。私も先日推しの歌舞伎役者の公演のためにチケット代を補助してもらって……」
「へ、へぇ……?」
コメントしづらい会話が続く。
伊月さんはずっと照れているけど、これ、どこまで本当なんだろう。
今回のための仕込み? いや、ガチなのかな……
というか、こんな会話でフユキさんたちは引かない?
心配しながら、食後のお茶を飲みつつみんなの様子をうかがうけど……
「いいなぁ、波崎くん! 俺らもこれくらいガチで推してもらいたい!」
「いやいや、俺たちのファンだってみんなガチで推してくれているだろ!」
「むしろ俺たちのファンの方がレベル高いって。ほら、伝説の50メートルフラスタのFさんとか! 五万通ファンレターの長野県のフユキ推しとか!」
そうか「ファンに推される」ことに慣れているアイドルにとっては普通で、羨ましいことなのか。
フユキさんたちの逸話を聴くと、伊月さんの推し方は全然普通に感じた。
……伊月さんが「へぇ、そんな応援の仕方が! 参考になるな」と言っていたから今後俺にもこの逸話のようなことが起きるのかもしれないけど。
それにしても、人気アイドルグループと一緒で助かった。伊月さんの異常さが目立たない。
そろそろ食事会もお開きだし、このまま平和に、俺と伊月さんの関係がバレることなく過ごせそうだな。
そう油断した時だった。
「……あ! わかった!」
フユキさんが不意に大きな声を上げた。
どちらかと言うとまとめ役、ツッコミ役、みんなのお兄さんのフユキさんにしては珍しい。
「ずっと社長さんが誰かに似ていると思っていたんですけど……」
伊月さんが?
イケメンだから似ている俳優やモデルがいてもおかしくは……ん?
フユキさん、なんで俺の方向くんだろう?
「波崎くんのゲームのアバターに似ているんだ!」
え?
あ!
そうだ。
似ているも何も、伊月さんをモデルに作ったアバターだから……!
「え……? あー……」
変に否定するとおかしいか。
ここは……乗ろう。
「ほ、本当だ! 俺もなんか既視感あるなって思っていたけど、それです! すごーい!」
フユキさんと向き合って、「今気づきました!」って顔で驚いた声を上げる。
「ゲーム?」
伊月さんはしっかり不思議そうに首を傾げる。よし。誤魔化せそう。
「今日は持ってきていないよね? えーっと、あ、これ! ナツコさんがSNSに載せた、俺たちのゲーム画面のスクショ!」
フユキさんがスマートフォンを取り出して、先日のゲーム記念に皆のアバターを並べて撮ったスクショを見せる。
「え~! 俺も見たい……あ! 確かに似てる!」
「ちょっと髪型が違うけど、体型とか顔立ちとか、完璧!」
フユキさんのグループのみんなが身を乗り出して騒ぐ中、伊月さんは少し頬を染めて目を瞬かせる。あぁ、もう。演技上手い。
「え……そうかな?」
謙遜しながらも「えぇ、マジで? 嬉しい!」という気持ちが隠せていない……ように見える伊月さんへ、フユキさんがスマートフォンの画面を向けた。
「似ていますよ! しかも波崎くん、確かこのアバターは、『理想の自分』の姿って言っていたよね?」
「あ、ちょっとフユキさん、バラしちゃうんですか!?」
慌ててみたけど、助かった。よかった。フユキさん、ちゃんと言ってくれた。
これ、「理想の恋人の姿」なんて周囲に勘違いをされたら面倒だから。
「理想の自分?」
「……はい、もう少し背が高くて男らしい外見だったら、役の幅も広がるのかなって思いながら作ったアバターなんです。でも、言われてみたら本当に……社長さん、何センチですか?」
知ってるけど。
「一八一センチ……だったかな?」
「わ! 本当に俺の理想! 外見、取り換えてくれませんか?」
「え!? ア、アオくんになれるなんて光栄すぎ……でも、俺がアオくんになっちゃうと俺がアオくんを観られないのか……それは困る……!」
伊月さんが俺のファンらしい発言をして、みんなで笑ってこの話はおしまい。
この感じなら、俺が伊月さんと恋人関係とは思わないよね?
よかった。
なんとか「ファンと俳優」で誤魔化せた。
マナーを意識しないといけないコース料理だし、カメラも回っているし、リラックスして味わうことは難しい。
それに、会話も……
「波崎さん、伊月社長はこの通り波崎さんの大ファンで、グループのトップの会議はいつも『今日もアオくんがかっこいい。存在が奇跡』と言うところから始まるんですよ。グループ共通の月一のリモート朝礼では社長の話としてだいたい今期の波崎さん出演ドラマの感想を話されるんです。朝礼にふさわしい内容かは微妙ですが……若い社員にはとても好評で、出席率も上がりました」
「社長室には波崎さんのポスター、アクリルスタンド、ブロマイドなんかが飾ってあって……先日ビジネス誌の取材を受けた時に飾ったまま写真を撮られたので、来月発売の雑誌をぜひ見てみてください。すごいですよ。社長の後ろの祭壇」
「波崎さんがパッケージに起用されているお菓子。あれを箱買いして食べきれないからみんなに配ったり……」
「波崎さんの出演番組をリアタイするために、常人ではありえないスピードで仕事を終わらせることもよくありますね」
「あと、自分が推し活のお陰で人生が豊かになったから、社員の推し活を応援する制度を作られて、これは本当に好評です。私も先日推しの歌舞伎役者の公演のためにチケット代を補助してもらって……」
「へ、へぇ……?」
コメントしづらい会話が続く。
伊月さんはずっと照れているけど、これ、どこまで本当なんだろう。
今回のための仕込み? いや、ガチなのかな……
というか、こんな会話でフユキさんたちは引かない?
心配しながら、食後のお茶を飲みつつみんなの様子をうかがうけど……
「いいなぁ、波崎くん! 俺らもこれくらいガチで推してもらいたい!」
「いやいや、俺たちのファンだってみんなガチで推してくれているだろ!」
「むしろ俺たちのファンの方がレベル高いって。ほら、伝説の50メートルフラスタのFさんとか! 五万通ファンレターの長野県のフユキ推しとか!」
そうか「ファンに推される」ことに慣れているアイドルにとっては普通で、羨ましいことなのか。
フユキさんたちの逸話を聴くと、伊月さんの推し方は全然普通に感じた。
……伊月さんが「へぇ、そんな応援の仕方が! 参考になるな」と言っていたから今後俺にもこの逸話のようなことが起きるのかもしれないけど。
それにしても、人気アイドルグループと一緒で助かった。伊月さんの異常さが目立たない。
そろそろ食事会もお開きだし、このまま平和に、俺と伊月さんの関係がバレることなく過ごせそうだな。
そう油断した時だった。
「……あ! わかった!」
フユキさんが不意に大きな声を上げた。
どちらかと言うとまとめ役、ツッコミ役、みんなのお兄さんのフユキさんにしては珍しい。
「ずっと社長さんが誰かに似ていると思っていたんですけど……」
伊月さんが?
イケメンだから似ている俳優やモデルがいてもおかしくは……ん?
フユキさん、なんで俺の方向くんだろう?
「波崎くんのゲームのアバターに似ているんだ!」
え?
あ!
そうだ。
似ているも何も、伊月さんをモデルに作ったアバターだから……!
「え……? あー……」
変に否定するとおかしいか。
ここは……乗ろう。
「ほ、本当だ! 俺もなんか既視感あるなって思っていたけど、それです! すごーい!」
フユキさんと向き合って、「今気づきました!」って顔で驚いた声を上げる。
「ゲーム?」
伊月さんはしっかり不思議そうに首を傾げる。よし。誤魔化せそう。
「今日は持ってきていないよね? えーっと、あ、これ! ナツコさんがSNSに載せた、俺たちのゲーム画面のスクショ!」
フユキさんがスマートフォンを取り出して、先日のゲーム記念に皆のアバターを並べて撮ったスクショを見せる。
「え~! 俺も見たい……あ! 確かに似てる!」
「ちょっと髪型が違うけど、体型とか顔立ちとか、完璧!」
フユキさんのグループのみんなが身を乗り出して騒ぐ中、伊月さんは少し頬を染めて目を瞬かせる。あぁ、もう。演技上手い。
「え……そうかな?」
謙遜しながらも「えぇ、マジで? 嬉しい!」という気持ちが隠せていない……ように見える伊月さんへ、フユキさんがスマートフォンの画面を向けた。
「似ていますよ! しかも波崎くん、確かこのアバターは、『理想の自分』の姿って言っていたよね?」
「あ、ちょっとフユキさん、バラしちゃうんですか!?」
慌ててみたけど、助かった。よかった。フユキさん、ちゃんと言ってくれた。
これ、「理想の恋人の姿」なんて周囲に勘違いをされたら面倒だから。
「理想の自分?」
「……はい、もう少し背が高くて男らしい外見だったら、役の幅も広がるのかなって思いながら作ったアバターなんです。でも、言われてみたら本当に……社長さん、何センチですか?」
知ってるけど。
「一八一センチ……だったかな?」
「わ! 本当に俺の理想! 外見、取り換えてくれませんか?」
「え!? ア、アオくんになれるなんて光栄すぎ……でも、俺がアオくんになっちゃうと俺がアオくんを観られないのか……それは困る……!」
伊月さんが俺のファンらしい発言をして、みんなで笑ってこの話はおしまい。
この感じなら、俺が伊月さんと恋人関係とは思わないよね?
よかった。
なんとか「ファンと俳優」で誤魔化せた。
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