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第28話 プレゼント(2)
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「あの、俺もいいですか?」
「もちろん! 波崎さんもこのゲームやっているんですか!?」
「あー! それ、コラボデザインの本体! 私も欲しかったけどすぐ完売しちゃって……いいなぁ」
先日手に入れたばかりのゲーム機を片手にベンチに向かうと、三人は笑顔で受け入れてくれた。
「始めたてでまだ装備は最低限だし、操作も慣れてないから足を引っ張るかもしれないんですけど……」
「初心者? 本当? お姉さんが手取り足取り教えてあげる!」
「ナツコさん、初心者に教えるのが大好きですもんね~」
「そうそう。俺も鍛えられましたね」
ナツコさんが楽しそうに俺の画面をのぞき込んで、シュウトくんとフユキさんも笑ってくれた。
「だって、自分の好きな物をプレゼンしまくりたいし、どんどん強くなるところが見られるのって楽しいし! あ、波崎くん、ウザかったら言ってね? 自分で開拓したい派なんだったら我慢するから!」
「大丈夫ですよ。俺、すぐにいい方法が無いか攻略法とかチート技を検索しちゃうタイプです。効率重視」
俺の言葉に、フユキさんがフレンドコードを表示させながら声を弾ませる。
「効率厨? 俺も! プレイスタイル似ていると助かるなー……あ、余っている素材あげるよ。で、武器レベル上げて高難易度クエストにサクっと行こう!」
「わ、こんなに? なんかお礼……」
「いいよいいよ、それよりも四人いれば大型クエストいけるから。波崎くんが入ってくれると助かる」
早速フレンドになったフユキさんからギフトが届き、他の二人のアバターもゲーム画面に表示される。
このゲームはアバターのカスタムの自由度が高いことでも有名で、ナツコさんのアバターはレベルの高い派手な武器や防具に包まれてはいるけど、ほぼ完ぺきに本人を再現している。
「波崎くんのアバターこれ? 本人と全然雰囲気違う!」
「まだゲームが下手なので、自分に寄せすぎて俺だとバレたら恥ずかしいなって。あと……身長がもう十センチ欲しかったなとか男らしい顔ならもっと渋いドラマにも出られるのになって思っていたら、こんなアバターになりました」
「理想系か~。わかります。僕もそう!」
シュウトくんが大きく頷くけど、シュウトくんのアバターは……
「え? この巨乳のセクシーお姉さんが?」
「理想の彼女。本当はもっと胸を大きくしたかったけど、これが限界なんですよ~」
この前仕事で一緒になったHカップのグラビアアイドルさんよりも大きいのに……まぁ、そういう楽しみ方もあるか。
「俺は効率厨だから見た目より機能重視。胸のデカい女性アバターは無駄に凝った乳揺れグラフィックのせいで動きが遅いから却下。スピード重視で当たり判定小さい小柄なアバターにしてる」
「ゲームとしてはそれが正解ですよね」
「でも、ゲームなんて楽しいのが重要なんだから、理想の姿、私はいいと思う!」
アバターで盛り上がっている間にクエストに出る準備も整って、討伐ゲームらしい画面になっていく。
遠くにモンスターが見えて、そこに向かっていく俺のアバターは身長一八一センチで引き締まった筋肉のついた男性アバター。男らしいイケメンで整った黒髪。
これ、理想の姿というのは嘘だ。
このゲーム機、実は伊月さんが誕生日プレゼントに買ってくれて……伊月さんは自分の分も買ったから、先週のデートから二人で遊ぶようになったもので、伊月さんが「アオくんそっくりのアバターにしよう」と言うし、その時の視線というか圧というか……俺も「じゃあ俺も、伊月さんっぽいアバターにします」と言ってしまった結果だ。
伊月さんは芸能人ではないし、これで恋人関係がバレるようなことはないだろうけど、少し気恥ずかしい。
「よし、波崎くんは後ろでサポートに徹して。私とフユキくんで前に出るから」
「はい」
モンスターとの戦闘が始まった。
みんな上手いな。
俺もこの二週間は一日一時間くらいしていたけど、全然追いつけない。
伊月さんも言っていたな。「このゲームは何百時間ってやり込む人が多いんだよ」って。
たった数時間の俺が、装備も技術も追いつけるわけがない。
それに、「このゲーム以外」のゲームの経験値も……俺には無い。
弟が勉強のためにゲーム禁止だったから、俺も買ってもらえなかった。両親は「ゲームなんて人生の無駄」とよく言っていたし。
友達の家でさせてもらうとか、借りるとかも、友達がいないのにできるわけがなかった。
本当はこのゲームも乗り気ではなかったんだけど、伊月さんがくれたのに遊ばないわけにもいかないから少しやってみて……
「ごめん波崎くん、そっちいった! 石投げて!」
「え? これ、狙う場所……」
「額! 目のすぐ上!」
「足止め使いまーす」
「えっと……あ、当たった!」
「お、やったじゃん! 上手い上手い!」
「波崎くん投擲向いてるよ」
自分一人でプレイする時には絶対に倒せない、大型モンスターの討伐に成功した。
俺は後ろでバタバタして指示通りにしただけだけど。
「急所も覚えてないし、動かれると無理ですよ。指示と足止めのお陰です」
「でも初心者でこれはすごいよ! ちょっとアバターでそこ並んで、スクショ撮る。で、SNS載せたい! IDは消すからタグ付けしていい?」
「いいですよ~! 僕にもデータください」
「俺もいいですよ」
「俺も大丈夫です」
「ついでにアカウントフォローしちゃうね」
……ゲームって、すごい。
距離のあった人たちと一瞬で仲良くなれた気がする。
最高のコミュニケーションツールだ。
それに……
「あの、今の感触を忘れないうちにもうひと狩り……いいですか?」
「もちろん!」
「投擲使うならこっちのクエスト行こうよ」
「いや、それ時間かかるから……こっちは?」
楽しい。
ゲームって楽しい。
友達とわいわい遊ぶって楽しい!
「すみません! 機材が結局新しいのに変更で……更に三十分かかります、すみません!」
「はーい」
「狩りしながら待つから大丈夫でーす!」
いつもなら撮影がおせばイライラするだけなのに、今日はあと一時間くらいおしてもいいのになんて考えてしまった。
プロ失格だ。
でも、それくらい楽しかったんだ。
ゲームが。
友達と遊ぶことが。
「もちろん! 波崎さんもこのゲームやっているんですか!?」
「あー! それ、コラボデザインの本体! 私も欲しかったけどすぐ完売しちゃって……いいなぁ」
先日手に入れたばかりのゲーム機を片手にベンチに向かうと、三人は笑顔で受け入れてくれた。
「始めたてでまだ装備は最低限だし、操作も慣れてないから足を引っ張るかもしれないんですけど……」
「初心者? 本当? お姉さんが手取り足取り教えてあげる!」
「ナツコさん、初心者に教えるのが大好きですもんね~」
「そうそう。俺も鍛えられましたね」
ナツコさんが楽しそうに俺の画面をのぞき込んで、シュウトくんとフユキさんも笑ってくれた。
「だって、自分の好きな物をプレゼンしまくりたいし、どんどん強くなるところが見られるのって楽しいし! あ、波崎くん、ウザかったら言ってね? 自分で開拓したい派なんだったら我慢するから!」
「大丈夫ですよ。俺、すぐにいい方法が無いか攻略法とかチート技を検索しちゃうタイプです。効率重視」
俺の言葉に、フユキさんがフレンドコードを表示させながら声を弾ませる。
「効率厨? 俺も! プレイスタイル似ていると助かるなー……あ、余っている素材あげるよ。で、武器レベル上げて高難易度クエストにサクっと行こう!」
「わ、こんなに? なんかお礼……」
「いいよいいよ、それよりも四人いれば大型クエストいけるから。波崎くんが入ってくれると助かる」
早速フレンドになったフユキさんからギフトが届き、他の二人のアバターもゲーム画面に表示される。
このゲームはアバターのカスタムの自由度が高いことでも有名で、ナツコさんのアバターはレベルの高い派手な武器や防具に包まれてはいるけど、ほぼ完ぺきに本人を再現している。
「波崎くんのアバターこれ? 本人と全然雰囲気違う!」
「まだゲームが下手なので、自分に寄せすぎて俺だとバレたら恥ずかしいなって。あと……身長がもう十センチ欲しかったなとか男らしい顔ならもっと渋いドラマにも出られるのになって思っていたら、こんなアバターになりました」
「理想系か~。わかります。僕もそう!」
シュウトくんが大きく頷くけど、シュウトくんのアバターは……
「え? この巨乳のセクシーお姉さんが?」
「理想の彼女。本当はもっと胸を大きくしたかったけど、これが限界なんですよ~」
この前仕事で一緒になったHカップのグラビアアイドルさんよりも大きいのに……まぁ、そういう楽しみ方もあるか。
「俺は効率厨だから見た目より機能重視。胸のデカい女性アバターは無駄に凝った乳揺れグラフィックのせいで動きが遅いから却下。スピード重視で当たり判定小さい小柄なアバターにしてる」
「ゲームとしてはそれが正解ですよね」
「でも、ゲームなんて楽しいのが重要なんだから、理想の姿、私はいいと思う!」
アバターで盛り上がっている間にクエストに出る準備も整って、討伐ゲームらしい画面になっていく。
遠くにモンスターが見えて、そこに向かっていく俺のアバターは身長一八一センチで引き締まった筋肉のついた男性アバター。男らしいイケメンで整った黒髪。
これ、理想の姿というのは嘘だ。
このゲーム機、実は伊月さんが誕生日プレゼントに買ってくれて……伊月さんは自分の分も買ったから、先週のデートから二人で遊ぶようになったもので、伊月さんが「アオくんそっくりのアバターにしよう」と言うし、その時の視線というか圧というか……俺も「じゃあ俺も、伊月さんっぽいアバターにします」と言ってしまった結果だ。
伊月さんは芸能人ではないし、これで恋人関係がバレるようなことはないだろうけど、少し気恥ずかしい。
「よし、波崎くんは後ろでサポートに徹して。私とフユキくんで前に出るから」
「はい」
モンスターとの戦闘が始まった。
みんな上手いな。
俺もこの二週間は一日一時間くらいしていたけど、全然追いつけない。
伊月さんも言っていたな。「このゲームは何百時間ってやり込む人が多いんだよ」って。
たった数時間の俺が、装備も技術も追いつけるわけがない。
それに、「このゲーム以外」のゲームの経験値も……俺には無い。
弟が勉強のためにゲーム禁止だったから、俺も買ってもらえなかった。両親は「ゲームなんて人生の無駄」とよく言っていたし。
友達の家でさせてもらうとか、借りるとかも、友達がいないのにできるわけがなかった。
本当はこのゲームも乗り気ではなかったんだけど、伊月さんがくれたのに遊ばないわけにもいかないから少しやってみて……
「ごめん波崎くん、そっちいった! 石投げて!」
「え? これ、狙う場所……」
「額! 目のすぐ上!」
「足止め使いまーす」
「えっと……あ、当たった!」
「お、やったじゃん! 上手い上手い!」
「波崎くん投擲向いてるよ」
自分一人でプレイする時には絶対に倒せない、大型モンスターの討伐に成功した。
俺は後ろでバタバタして指示通りにしただけだけど。
「急所も覚えてないし、動かれると無理ですよ。指示と足止めのお陰です」
「でも初心者でこれはすごいよ! ちょっとアバターでそこ並んで、スクショ撮る。で、SNS載せたい! IDは消すからタグ付けしていい?」
「いいですよ~! 僕にもデータください」
「俺もいいですよ」
「俺も大丈夫です」
「ついでにアカウントフォローしちゃうね」
……ゲームって、すごい。
距離のあった人たちと一瞬で仲良くなれた気がする。
最高のコミュニケーションツールだ。
それに……
「あの、今の感触を忘れないうちにもうひと狩り……いいですか?」
「もちろん!」
「投擲使うならこっちのクエスト行こうよ」
「いや、それ時間かかるから……こっちは?」
楽しい。
ゲームって楽しい。
友達とわいわい遊ぶって楽しい!
「すみません! 機材が結局新しいのに変更で……更に三十分かかります、すみません!」
「はーい」
「狩りしながら待つから大丈夫でーす!」
いつもなら撮影がおせばイライラするだけなのに、今日はあと一時間くらいおしてもいいのになんて考えてしまった。
プロ失格だ。
でも、それくらい楽しかったんだ。
ゲームが。
友達と遊ぶことが。
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