【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

回路メグル

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第15話 仕事/結果(2)

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 考えてみて欲しい。
 この動画で一番得をするのが誰か。
 告発したADさんは、罪悪感が減って心が軽くなるかもしれない。
 ノノちゃんは加害者が評判を落としていくさまが見られて少しは胸がすくかもしれない。
 でも、どちらも失業リスクやセクハラシーンを大勢に観られるなどのマイナスが大きい。

「これ、世間の評価……」

 動画のコメントや拡散するSNSには、「嶋北最悪!」「降板させろ! 他の番組もだ!」「芸能界って本当に腐っているんだなw」「ノノちゃんかわいそう」「ノノ推しなので許せません」「このADは勇気ある。罰しないであげて欲しい」なんていうコメントと共に……

「アオくん、あの中で唯一声上げてえらい」
「波崎アオ、いい人そうと思っていたけどガチのいい人じゃん」
「アオくんMC下手とか言ってごめん。こんなことの後によくあれだけちゃんとMCできたね! むしろMC上手いよ!」
「俺の会社もセクハラ上司いるけどいつも見て見ぬふりしてた。これからは波崎アオ見習ってツッコミいれる。男から見てもかっこいい」
「次にやるなら波崎ひとりのMCだな」
「波崎アオ、あそこで土下座して場をおさめるの、えらすぎん? イケメンの中のイケメン。世界一かっこいい土下座。土下座の王子様」

 別に俺、声を出しただけで助けられていないのに。
 結局逆らえなくて土下座してかっこ悪いはずなのに。
 なぜかこの最後のコメントが一番拡散されて「土下座の王子様」がトレンド入りしていた。

 やはり都合がよすぎる。

 この動画だけでいえば、どう見ても俺は「ただの評価を上げた人」なだけだ。
 しかも、評価が上がっただけではなく、嶋北さんはおそらく降板。
 次回別のMCがつくとしてもコンプライアンスに敏感な人が宛がわれる可能性が高い。
 今回よりはやりやすくなるはずだ。
 こんなに都合のいいこと、ある?

 だって、こんなセクハラやパワハラは、芸能の仕事では日常茶飯事なのに?
 今回だけなんでこんなことが……?

 これ、絶対に……絶対に、また……

―――ブブブブブッ

「……!」

 動画サイトを開きっぱなしになっているスマホとは別のスマートフォンが震える。
 伊月さんがくれたスマートフォンに、伊月さんからのメッセージが表示された。

『拡散されているアオくんの番組の動画を観たよ。俺が紹介した仕事でこんなことになっていたなんてごめん。俺からもテレビ局に抗議をして、辛い思いをさせた埋め合わせは絶対にさせるからね』

 ……え? 埋め合わせ? これって……

『後半、アオくんの様子がおかしくて不思議に思っていたけど、こういうことだったんだね。こんなことがあってもきちんとMCをやりとげたアオくんのこと、尊敬する。俺、アオくんのファンでよかった』

 そんなファンらしいコメントが送られてきて……最後に一言だけ付け加えられた。

『動画に出ていたADさんが重い処分にならないようにも進言しておくから、安心してね。それじゃあ、遅い時間にごめんね。おやすみ。明日もお仕事頑張ってね』
「……」

 既読を付けてしまったので、とりあえず「お気遣いありがとうございます!」とメッセージを送り、「がんばります」のスタンプも送っておいた。

 一見すると恋人を心配したメッセージ。
 でも、ツッコミどころが多すぎる。
 これをダシにして、さらに俺にいい仕事を回そうとしてくれているんだよね?
 あと、動画に「AD」って出ていないよね? スタッフとしか言っていなかったから、「AD」とわかるのは……?
 自社がスポンサーとして関りがある番組の評判が落ちるような動画なのに、その心配はしないし……

 伊月さんが手を回したのは間違いない。
 そもそも、やり方が枕営業パーティーの時とほぼ同じ。
 暴露系のチャンネルまで同じ。

「好意的に見れば、手口は怖いけど、俺を助けてくれた……?」

 嶋北さんをMCに決めたのって誰だろう?
 絶対にセクハラ、パワハラをしそうな嶋北さんを呼んでこうなることを予想していたとしたら……?
 
 それは流石に考えすぎかな?
 ねぇ、伊月さん、どこまでが計算?
 いや、計算でここまで上手くいく?

 でも、もしもそうなら……

 伊月さんが怖すぎる。
 嶋北さんは確かによくないことをしたし、セクハラパワハラのまん延する芸能界は変わるべきだとも思う。
 でも……俺だって中途半端なことをしたし、「カットされる前提」の内輪のノリだと思うのに、表に出て、炎上して……もしかして、俺のせいで嶋北さんは仕事を失う?
 嫌な人だけど……え?
 それに、ノノちゃん……あんなに頑張っている子が……芸能界よりも、勉強を選ぶなんて。

「……」

 背筋が冷たくなった。
 俺……俺には、何があってもこの俳優業しかないのに。
 逃げるわけには、いかないのに。
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