【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

回路メグル

文字の大きさ
上 下
12 / 60

第12話 仕事/収録

しおりを挟む

「いくらスケジュールが前倒しだと言っても、セットしょぼくない?」

 特番の正式決定から撮影まで、通常よりもかなり早かった。
 どうやら、本当は別の特番を予定していた枠が空いたからで……それは例の枕営業パーティーの出席者がメインの番組だったかららしい。
 あのパーティーの話、意外と各所に広がっていて、テレビや広告の業界では取りやめ、自粛、変更が次々に起こって混乱が続いている。
 そのお陰で俺もドラマの撮り直しがあったけど……俺の出番が増えて助かることの方が多い。
 伊月さん、どこまで計算していたんだろう。
 怖い。

「まぁ、セットがしょぼい分、ゲストは豪華。アオくんやアイドルの兄ちゃんたちは存分にイケメンして、モデルや女優の姉ちゃんたちはかわいくセクシーに頼むよ! セットの分、華やかにね! あと、芸人は上手く引き立て役になるようにブサイク強調しろよ!」

 セットはちゃんと豪華だと思うけどね。
 でも、まぁ……

「なるべくキメ顔でがんばります」
「じゃあ、メイクもう少し派手にしてもらおうかな~」
「元々イケメンなんで安心してください」
「元々ブサイクなんで安心してください」

 俺も、他の若いゲストたちも、大御所の機嫌を損ねるのはよくないと理解しているので、笑顔で返事をして収録が始まった。




「そうそう、だからね、次は絶対に正解しないとマズイよ? じゃあ次の問題、VTRスタート!」

 手元の進行表と台本には俺がVTRへのフリをすると書かれていたのに、嶋北さんがトークの流れからそのままVフリまで持っていってしまった。
 プロデューサーさんも誰も止めないので、ここはもうこれでいくらしい。
 
「……」

 俺は笑顔でVフリのポーズをするだけ。
 わざわざ「俺の台詞とらないでくださいよ」とは言わないけど……これでもう、俺が言うべき台詞、するべき進行は七割近く嶋北さんに取られてしまった。
 俺がバラエティのMCに慣れていないから、上手く流れに乗れない……だけじゃないと思う。
 嶋北さんが好き勝手、口を挟む間も無くしゃべり続け、場を支配しているからだ。
 悔しいけど番組としては面白いので誰も止めない。
 そして……

「この問題は正解者全員ブサイクだな! ブサイク向けの問題だったな!」

 大御所の嶋北さんには逆らえない。やはりマズイ発言も多いけど、みんな笑顔で乗るだけだ。

「そりゃあブサイクに生まれたんですから、これくらい美形に勝てる所が無いとねぇ!?」

 中堅の芸人さんはノリノリで、芸歴の長いアイドルや女優さんは「仕方ない」という顔。
 十代の若いモデルや歌手の子たちはちょっと嫌そうというか引いているというか……
 みんなプロだから解りやすくカメラに映るような場所で嫌な顔はしないけど、カットの声がかかった瞬間、スタジオの空気が重くなる気がした。
 そんな収録が続き、二時間番組の半分くらいは撮影が進んだころにはもう、嶋北さんの独壇場だった。

「中間成績は……お! ノノちゃんがトップか! おっぱいが大きくても頭いいんだな!」

 十七歳のモデルの女の子に向けて嶋北さんが下品な笑顔を浮かべながら近づく。
 セクハラすぎる。

「これでも弁護士目指して、毎日塾のオンライン授業を受けているんですよ」

 セクハラにも笑顔で受け答えしてえらい。
 ティーン誌の人気モデルで、明るくノリがいいから最近バラエティでもよく顔をみる子なだけある。
 そして、本人が言う通り、有名私立高校の制服を着たまま局内の食堂で勉強しているのを何度も見たことがあって感心していた。
 俺は、学校の勉強は最低限で、俳優業への努力に全振りしてしまったから……芸能活動も勉強も両方頑張る姿が眩しかった。

「へー! このおっぱいで!? 頑張ってえらいなぁ。頭撫で撫でしてやろうな!」
「ひっ!」
「……!」

 スタジオにいる全員が体を震わせた。
 でも、誰も止められないし、そもそも間に合うようなタイミングではなかった。

「おーっと、でっかくて丸いから間違った! 悪い悪い、頭はこっちだな」

 嶋北さんは、頭ではなくノノちゃんの胸を思い切り撫でてから、わざとらしく頭を撫でなおす。
 ノノちゃんは笑顔でも怒りでも悲しみでもない驚いた表情でただただ固まってしまっていた。
 十七歳の、未成年の女の子にこれは……

「嶋北さん、さすがに……っ!」

 あ……

 やばい。
 つい、反射的に、大きな声を出してしまった。
 嶋北さんがいやらしい笑顔から一瞬で不機嫌になり、視線を細めながら俺の方を振り向く。

「あ?」

 しまった。
 こんなセクハラくらい日常茶飯事。いつもはスルー出来るのに……
 やってしまった……

「おいおい、ガチでとるなよ。ボケだよ、ボケ。お笑いの。わかる?」

 俺が自分で「しまった」と自覚しているのに気づいたんだろう。嶋北さんは、目は笑っていないけど笑顔にはなってくれた。
 いや、笑顔だけどまずい。本当にまずい。ここはただ笑ってスルーしなければいけなかった
 でも、声を出してしまったのは仕方がない。
 ボケというなら何か乗らないと。

「あ、いや、な、なんやボケなんかーい!セクハラと思ってしまいますやん!」

 お笑い芸人の役なんてやったことが無くて関西弁も見様見真似だけど、なんとかボケに対しての「ツッコミ」のような手のジェスチャーも付けて返すと、嶋北さんは目までちゃんと笑ってくれた。

「おいおいおいおい~! そうやってセクハラってツッコミ入れる奴がいるから笑いがつぶれてセクハラになんの。おれとノノちゃんは信頼関係ができているからOKなのにね、ノノちゃん!」
「あ、は、はは……」

 嶋北さんが今度はノノちゃんと無理やり肩を組んで、頬同士をくっつける。
 ノノちゃんが引き攣る笑顔で頷いて……ごめん。これは、俺のせいだ。
 俺が余計な口出しをしたせいでセクハラが悪化した。
 自分の首を絞めて、ノノちゃんに更に嫌な思いをさせた。
 さらに……

「ほらー! アオくんのセクハラ警察のせいでスタジオが盛り下がりました~アオくん土下座ね!」
「え?」

 怖いくらいに満面の笑顔で、嶋北さんが床を指差す。
 土下座?

「……!」

 スタッフの方を見るけど、スタッフみんなが目を反らして、マネージャーは悔しそうな顔をした。
 スポンサーのコネだから守ってもらえるなんて、甘いことはなかった。

「ほら、土下座! 土下座!」

 嶋北さんが手拍子をすると、芸人さんたちも遠慮がちではあるものの手拍子に乗った。
 他の出演者も手拍子をしないといけないのか戸惑っていて……しかたがない。
 自分のミスだ。けじめをつけよう。

「くっ! お笑いの勉強が足りず、ご迷惑をおかけしました! 大変申し訳ございませんでした!」

 なるべく大げさに、わざとらしく、ギリギリネタで済むように、スライディング土下座をきめる。
 一応、ゲストやスタッフからはフォローなのか笑い声が起きて、嶋北さんも笑った。

「おぉ! イケメンは土下座もイケメンだねぇ!」
「でしょう? 俺、この前のイケメン俳優ランキング三位だったんですよ」

 できるだけ格好をつけて立ち上がり、カメラに笑顔を向けて……嶋北さんは満足したのか次のVフリへと進行してくれた。
 なんとか場がおさまった。
 収録はきちんと、続く。
 でも、ノノちゃんを助けられたわけではないし、自分の立場も……少なくとも嶋北さんには嫌われた。
 中途半端な正義感は何も解決しないのに。
 俺は、正義の味方なんて目指していないし……なれないくせに。

「……」

 この後も、嶋北さんが俺の台詞を八割くらい横取りして、俺のことを「ほら、また笑いのノリがわかっていないよ!」なんてイジリ倒しながら、マシンガンのようにトークを続けて収録は終わった。
 俺への当たりがキツくなった分、ノノちゃんへの絡みがなくなったことだけは救いか……
 
 でも……だめだ、失敗だ。
 苦い初MCだった。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...