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第7話 外堀(1)
しおりを挟む伊月さんに事務所のビルまで送ってもらって、なんとか笑顔で手を振って……すぐに中に駆け込んだ。
「遠野さん!やばい! どうしよう!?」
「アオ?」
事務所の、あまり所属芸能人が入ってはいけないマネージャーたちのデスクが並ぶ部屋に駆け込んで、俺の担当マネージャーである遠野さんに泣きついた。
デビュー当時から俺のマネージャーをしてくれている、三十代後半で真面目で堅物な遠野さんは、ズレそうになる眼鏡を抑えながら俺の体を受け止めてくれた。
「アオ、落ち着け。大丈夫だ」
ん?
あれ?
なんで、笑顔……?
「伊月さんから夜中に電話があって、全部聞いているから」
「え?」
聞いている?
それで、なんで笑顔?
「事務所でも確認した。大丈夫だ」
真面目で硬い表情が多い遠野さんが笑顔で、周りの事務所スタッフもみんな、俺を安心させるような笑顔で……なんで?
「お前は写っていなかった」
「写って……ない?」
何が?
訳が分からず何も言えなくなった俺に、遠野さんはパソコンを操作して、動画サイトを見せてくれる。
「ほら、伊月さんとアオが座っていた席はここだろう? もうお前たちが席を立った後だ」
「……!?」
画面には、昨日のパーティー会場の様子が写っていた。
投稿された動画のタイトルは「【潜入】金持ち×芸能人の枕営業パーティーは実在した!【アイドルMのキスシーンあり】」って……これ!
暴露系でよく話題になる動画チャンネルで、全体公開……再生数がもう百万回を超えている。
アイドルM……あの中では俺の次に知名度のある、イケメン七人組の中堅アイドルグループのセンターだ。バラエティのレギュラーとCMも一本あるはず。
これ……もしも俺がいる時だったら、この見出しは【爽やかイケメン俳優のゲイ接待】とか……?
あぁ、しかも、このアイドルだけじゃない。他の参加者の顔も、八割くらいはハッキリ写っている。
動画の雰囲気的に、どこかの社長と偽って潜入し、隠し持ったカメラで撮影しているようだ。
「うちの社長と旧知の仲の、岡本さんが主催のパーティーだからと安心して送り込んだんだが……一歩間違えば危なかった。身元の確認を徹底していると聞いていたのに、油断した。すまない、アオ」
「あ、そんな……」
事務所は悪くない。こういうリスクがあることは解っていた。
それでも、主催の「岡本さん」は社長と大学の同期で、この業界が長く顔の広い信用できるテレビ関係者なのに、まさか……
「それに、伊月さんにも頭が上がらない。伊月さんのお陰だな」
「え? あ、まぁ……」
開始早々に、あの中で一番早くパーティー会場を抜け出せたのは、確かに伊月さんのお陰だけど……
「伊月さん言っていたぞ、財界に詳しい自分が知らない顔だから怪しいと思って早めに席を立ったと。アオに万が一のことがあってはいけないからと」
「……?」
聞いていない。
そんなの……昨日一言も言われていない。
偶然を手柄にしたのか……いや、本当に偶然か?
こんなにも、タイミングのいいことある?
だって、今こんなことがあれば……
「普段はスポンサーや事務所への忖度で黙っていてくれるテレビ局も……ここまでハッキリ映像が出ては報道しないわけにはいかないな」
「あ、あぁ……そう、ですよね……」
普段はパーティーにテレビ関係者が来ることもあるから、噂レベルならスルーしてくれる。でも、昨日は主催の岡本さん以外たまたまテレビ関係者がいなかったけど……いや、それもなんか……あれ?
「すでにネットではこの話題で持ち切りだ。様々な企業や芸能人、芸能事務所へのバッシングが始まっている。テレビも報道が始まった。当分は、パーティーを開けないな」
「あ……」
つまり……当分は、枕営業の機会がない。
伊月さんを蹴って他に……ということができない。
嘘だろう?
ここまで、伊月さん……まさか……?
「でも、ちょうどよかったな、アオ」
「……ちょうどいい?」
もう驚きすぎて頭も付いてこないけど……今度はなんだ?
「もう二年先まで大きなスケジュールが埋まって」
「に……ねん?」
伊月さん、スペシャルドラマの仕事はくれる感じだったけど……あれは二時間一回だけだ。撮影期間を考えても、二年もスケジュールは埋まらない。
「もちろん間に細かい仕事は入れるが、スペシャルドラマにシリーズものの映画、バラエティのメインMC、国際イベントのアンバサダー、CM、企業のイメージキャラクター……どれもアオがしたかった仕事ばかりだな! これだけの仕事をくれるなんて、伊月さんは本当にアオを気にかけてくれていたんだな」
仕事は嬉しい。
本当にそれだけの仕事がもらえるなら、向こう二年枕営業は不要かもしれない。
でも……え? 一企業の社長が、そんなに用意できる……?
「公私ともに支えてくれる、素敵な恋人だな!」
「は!?」
それももう言ってるの!?
だったら、早く誤解を解かないと!
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