【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

回路メグル

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第3話 枕営業/本番(1)

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「すごい。さっきのパーティールームよりも夜景がキレイですね」

 伊月さんの部屋に入ってすぐ通されたのはベッドルーム。
 これから何をするのかバレバレな、キングサイズのベッドしかない部屋だけど、奥の壁には大きな窓があってタワマンの高層階らしい夜景がよく見えた。

「あぁ、もう少し広い部屋と迷ったんだけど、この部屋は向きがいいからね。アオくん、夜景とか高いところからの景色が好きだよね? 楽しんでもらえてよかった」
「伊月さん……本当に俺のファンなんですね?」

 公式プロフィールに書いているし、テレビやラジオでも何度か言っているので「夜景や高いところが好き」はファンには周知の事実。でも、ドラマや映画を見ているだけではわからない情報だ。
 伊月さん、思ったよりもちゃんと「波崎アオのファン」だな。
 ……ということは、俺らしい爽やかな正統派イケメンでいる方がいいか……でも、遊び慣れているみたいだし、甘ったるい駆け引きが好きそうな感じもするな。
 伊月さんの出方次第で少し色気の……っ!?

「ファンだよ」

 窓に近づいて夜景を眺めていると、いきなり後ろから抱きしめられる。
 細く見えたけど、俺より一回り体格が良いな。背も十センチ近く高そうで、俺の体がすっぽり腕の中に納まった。

「だから今、ここにアオくんがいることが夢みたいだ」

 浮かれた言葉だけど、口調は落ち着いていて、口説き慣れているのがわかる。

「でも、ファンだからこそ、アオくんが嫌がることはしたくない」
「え?」

 一見、優良ファンだけど……

「俺はアオくんのことが大好きだから。ここで止めて、ただの一ファンでいてもかまわないよ」

 これは遠回しに……ここで止めると枕営業は中止。ただのファンとして支援はしないということか。

「どうする?」

 口調は優しいけど、意地が悪い。
 ハッキリ俺に選ばせたいんだな。
 大好きな爽やか俳優が、自分のために汚れる所がみたい、ってところ?
 俺のプライドを折りたい?
 自分の立場を利用して質が悪いな……とは思うけど、これくらい、なんてことない。
 リップサービスくらいいくらでもするし、プライドなんて大事じゃない。

 汚れてもいい。仕事が欲しい。

 でも、ただただ従順なのも面白くないか。
 少し驚かせながら伊月さんの自尊心も満たしておこう。
 よし。
 演技の方針が決まったので、俺を抱きしめる腕をぎゅっと握った。

「伊月さん……なんでそんなこと言うんですか?」
「え?」

 困ったような、泣きそうな声で、顔で、背後の伊月さんへと振り向く。

「俺、パーティールームで伊月さんを見て……お話して……ファンだって言ってもらえて、すごく嬉しかったのに」
「アオくん……?」
「伊月さんのこと、素敵だなと思っている俺の気持ち……伝わっていませんか?」

 身体ごと向きを変えて、伊月さんに抱き着いた。
 胸元に顔を埋めていれば、表情の演技は適当でいいな。

「嫌なんかじゃないです。むしろ、伊月さんみたいな素敵な人、俺も大好きです。ファンなんかじゃ我慢できない。もっと、親密になりたいです」

 ぎゅっと抱きしめる腕に力を込めて、眉を寄せて懇願するような顔を作ってから伊月さんを見上げた。
 これでどうですか?
 こんな風に枕営業を求められれば、あなたの自尊心も十分に喜ぶんじゃないですか?

「参ったな」

 見上げた先の伊月さんが困ったように、でも、すごく嬉しそうに笑った。

「もともと大好きだったのに、もっと好きになっちゃったよ」
「本当ですか? 嬉しい!」

 これは本心。
 自分の演技が上手くいくと、相手をもっと自分のファンにさせると、嬉しいと思ってしまうのは職業柄仕方がない。

「アオくん……煽りすぎ。我慢できなくなるよ」

 そんなことを言いながらまだ余裕そうだな。

「しなくていいですよ。伊月さんのしたいことしてください」

 ダメ押しに胸元へ頬を摺り寄せて煽ると、伊月さんは小さく息を漏らして楽しそうに笑ってから俺の頭を撫でた。

「……シャワー、あびてくる」

 よしよし。ちょっと面倒くさかったけど、これで、体の関係を持ってしまえばもう逃げられないよね。
 後はセックスを楽しむだけだ。


      ◆


 伊月さんのセックスは予想に反して丁寧……いや、しつこかった。
 
「アオくん、こんな場所まで全身ケアしているんだ?」

 全裸でベッドに横たわった俺を隅々まで眺めて、触れて、指と舌が全身に触れた。
 丁寧な愛撫と言うよりは……ねちっこくてしつこい、年配のおじさんがするような愛撫。
 伊月さんがイケメンだからギリギリ気持ち悪くはないけど、気持ちがいいわけでもないし暇だし、楽しくはない。

「ここの腰の際どい所のホクロ、たまに見えるとセクシーだなって思っていたんだ……あ、ここにもホクロがあるのは知らなかったな。全身で十六個か」

 時々こんなことを言うのも……まぁ、今までにもっと気持ちの悪い相手もいたか。
 それにしても、シャワーを浴びた後、折角キレイにセットされていた髪が下りて、目元が見えにくいのがなぁ……表情が見えにくいから少しやりにくい。
 セックス前のシャワーで頭まで洗わなくていいのに。ファンだから、体臭を気にしているとか?……っと、いけない。愛撫されるのが暇すぎて集中力切れそう。
 対価を伴うお仕事なんだからしっかりしないと。

「あと、触れていないのはここか……」

 ちょうど伊月さんの手が俺の太ももに触れて、左右に大きく開かせる。
 恥ずかしいけど、いよいよセックスの本番だ。
 この時点でもう部屋に入って二時間は経つ。正直、早く終わって欲しい。

「ここ、こんな色なんだ? 爽やかなアオくんにこんなエッチな色のアナルがついているの、興奮するな」
「ん、もう……恥ずかしいです」

 アナルも、指と舌でほぐす……というよりはめちゃくちゃに味わわれて……うぅ、本当しつこい。これ、わざと? 俺からの誘われ待ち?
 さっきからそうだよな……仕方ない。

「あっ……!」
「ん!?」

 伊月さんの舌が埋まっているアナルに力を入れて、キュンと締め付ける。

「あ、ごめんなさい……伊月さんの舌……気持ち良くて、もっと、欲しくなっちゃって……はしたないですよね? ごめんなさい」
「そんなことないよ。かわいい。俺も早く入れたくなった」

 すぐに舌を抜いて顔を上げた伊月さんは……嬉しそうな顔だな。やっぱりこれが正解か。

「入れていい?」

 上半身を起こした伊月さんが、俺の両膝を立てる。
 適度に筋肉の筋が浮いた、引き締まった上半身が眩しい。
 そして、その上半身の下……股間についたものはもうバキバキに大きく、硬くなっていた。
 触れてないのにこれ? 性欲強いんだ?
 うん。ここからは楽しそう。

「はい、来て……伊月さん」

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