【完結】社畜が満員電車で「溺愛」されて救われる話

回路メグル

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【後日談】

俺だって溺愛したい【2】

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 玄関に入ればすぐにキスをしてくれるし、玄関からリビングまでの短い距離でも手を繋いでくれる。
 料理や片付けで一緒にキッチンに立てば、時々頬や耳元、首筋にキスをしてくれるし、肩や頭に浅野さんの頭が乗ることも多いし、後ろから抱きしめてくれることもある。
 夕食後にソファに並んで座れば、浅野さんの手は俺の肩か腰か太ももに置かれる。手を握ってくることもある。
 そこからセックスになだれ込むイチャイチャのこともあれば、お互い体を近づけるだけの癒しの時間で終わることもある。
 それ以外も、とにかく一緒の時は沢山俺に触れてくれる。
 俺も握り返したり抱きしめ返したりするけど、最初に触れてくれるのは必ず浅野さんだ。
 どんなに短い時間でも触れられるチャンスを絶対に逃さないし、触れ合えるチャンスにはものすごい瞬発力ですぐに触れてくれる。
 それはとても嬉しいことで、求められている安心感も、触れ合える安心感も最高だ。

 だけど……

 どうしても一瞬「今いいか?」「俺からは恥ずかしいな」と思ってしまう俺には勝ち目がなくて、俺から触れることができない。
 素直に「俺からも触れたい」と言えばいいのかもしれないけど、わざわざ言って上手くできなかったら恥ずかしいし、なんか、わざわざ宣言するのも……。

「……ん? どうしました?」

 今も、夕食後のソファでまったりタイムで、俺が座ってすぐに肩を抱き寄せてきた浅野さんの横顔を眺めつつ「また先を越された」と考えていた。

「いえ……あの、見ていただけです」
「どうぞ、好きなだけ見てくださいね」

 俺の視線に気づくと、楽しそうにテレビを見ていた顔が、もっと楽しそうな笑顔になる。
 ……俺が見るだけでこれなんだぞ? 俺から恋人らしいスキンシップをしたら絶対に喜んでくれる。
 なんとかうまくできないものか……。

「そうだ、桜田さん。明日の仕事の後に映画へ行きませんか?」
「あぁ、今日チケットをもらった?」
「はい」

 浅野さんの言う「映画」は、とある出版社からチケットをもらった上映中の恋愛映画のことだ。
 人気少女漫画原作で、映画自体は数週間前に封切して……評価は「良くも悪くもない」らしい。
 営業用のチケットも余っているらしく「少しでも動員数を増やしたいのでよろしければ」とのことだ。
 仕事でお世話になっている出版社だし、大ヒットではないもののレビューは悪くなさそうだし、映画に行くのはいい。わかる。
 でも……

「仕事の後に?」

 仕事の後なんて、映画やっているのか?
 ……いや、そうだった。
 もう映画がやっている時間に帰れるんだった。

「はい! 事務所を五時半に出て、車で向かえば六時の回に間に合いそうですよ。金曜だし、映画観て、ご飯食べて帰りませんか?」
「映画……ご飯……」

 普通にデートだな。
 平日に、こんなデートらしいデートができるのか。

「いいですね。平日にそんな楽しいことができるなんて……」
「じゃあ決まりですね。桜田さん……」

 俺が頷くと、浅野さんの顔が近づいてきた。

「え? 浅野さん?」
「平日も休日も、楽しく過ごしましょう」
「ん……」

 唇にキスをされ、肩を抱き寄せる手とは反対の手も俺の背中に回って、しっかりと抱きしめられる。

「少しだけ」

 浅野さんに耳元で囁かれて、そのまま耳たぶにキスをされて……今日はセックスになるのか、イチャイチャで終わるのか……緊張しながらも抱きしめられる腕の安心感、背中や後頭部を撫でられる心地よさに身をゆだねた。

 今日は、イチャイチャだけだった。

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