【完結】社畜が満員電車で「溺愛」されて救われる話

回路メグル

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第14話 風呂

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 彼に後ろから抱きしめられながら湯船につかった。
 電車の中でも後ろから抱きしめられているからか、妙にこの体勢がしっくりくる。
 俺の家のユニットバスより広い……いや、長い? こんな体勢でも膝はあまり曲がっていない。
 ゆったり入れるデカい風呂。しかも、ずっとシャワーですませていたから久しぶりの湯船。
 入浴剤も入っているな……ヒノキっぽい匂いがする。
 そして……

「んっ……きもちいい……」
「ここ?」
「……そこ……んー……」

 大きな手が俺の素肌に触れて……普通に、全くエロくない手つきで凝った肩や腰、掌なんかをマッサージしてくれる。

「ん……」

 気持ちよくて寝そうになっても、大きな体がしっかり抱きしめてくれる。
 人肌に……他人の素肌に密着するのも久しぶりで、なんとなく安心する。
 なんでこんな状況になっているのか、ここまでしてくれるのか解らないけど、とにかく気持ちいい。最高だ。

「はぁ……」

 疲れがじんわりと溶けていく気がした。
 風呂っていいな……。
 
 腰に硬い物が当たっているのだけは気になったけど……気づいた時には一瞬気持ちよさも吹っ飛びそうになったけど……なにもされなかったので気にしないことにした。


      ◆


 風呂から出た後も、ふかふかのバスタオルで体を拭いてもらって、少しサイズは大きいけど、真新しい下着とスウェットを着せてくれて、手を引いてリビングのソファに座らせてくれた。

「はい、どうぞ」
「……ココア?」
「パッケージにはホットチョコレートって書いていました」

 渡されたマグカップの中には、甘い香りの茶色の液体。
 いつもポケットに入れられる、パッケージされたチョコレートとは違い、こんなカップでは何が混入されているか解らない。
 でも……

「疲れている時には、甘い物かなと思って」

 優しい笑顔でそんなことを言われると……素直にマグカップに口を付けた。
 ……うん。
 美味い。
 チョコレート好きだから美味しく感じるのは当然だけど、朝食を食べる余裕も元気も無くて、昨日の夜から何も食べていないし……。

「美味い……」

 昨日の夜、泣きながら食べた高級チョコレートを思い出した。
 あれは味がしなかったのに。
 今、俺の手の中にあるマグカップの中身はすごく美味いと思えた。
 ちゃんと、味わえた。

「美味い……っ」

 だめだ。
 体が緩んで、気が緩んでしまうと……涙腺も緩んでしまう。

「……よかったです」

 情けなく泣きながらカップの中身を減らしていく俺を、太陽みたいな青年は相変わらず優しい笑顔で見守りながら、そっと背中を撫でてくれた。


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