【完結】社畜が満員電車で「溺愛」されて救われる話

回路メグル

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第9話 仲間

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「すみませんでした! 課長、桜田さん!」

 クライアントのビルを出てすぐ、吉野が俺たちに向かって深々と頭を下げた。
 本当に、真面目で素直な良い後輩だ。

「こんなの全然。今までにもっとヤバイこといっぱいあったから」
「確かに、桜田はヤバかったな」

 俺のフォローの言葉に、課長がうんうんと大きく頷くけど……頷きすぎじゃないか?

「桜田さん、大きなミスは無いイメージですけど」
「今はね。でも、俺が吉野くらいのころはミスばっかりだったよ。発注書の金額で0が一個抜けたり、コンペに出す資料を最終じゃなくて途中のやつ出しちゃったり……」
「大人気のイラストレーターさんに〆切を間違って伝えた時も大変だったなぁ」
「え? 桜田さんが? 信じられないです……」

 吉野は驚いてくれるけど、課長は懐かしそうに笑っている。
 ……忘れて欲しいけど、してしまったミスは消せないか。

「ミスしまくったからタスク管理とかスケジュール管理が上手くなったんだよ。あと、ミスをミスに見せないリカバーとか。だから、ちょっとくらいのミスは今後の糧だって」
「そう……ですね。このミスの分、別のことで会社に貢献できるように頑張ります!」
「そうそう。桜田だってそれだけミスしてまだ営業部のエースなんだから。吉野もその調子で、な?」
「はい!」

 課長、それはフォローか……?
 まぁ、気持ちはちょっと複雑だけど、課長も吉野も一緒に仕事をするには信頼がおけるし、助け合おうと思える。
 他の後輩や先輩もそうだ。
 部署の雰囲気は良い。
 同僚には、恵まれているんだよな……。
 
「このメンバーじゃなかったら、会社辞めていたかもなぁ……」
「おい桜田、正直に言い過ぎだ……気持ちは解るけどな」
「確かに、気持ちは解ります」

 ミス対応は大変だった。
 会社に戻れば仕事は山積み。
 でも……なんだかんだ、良い仲間とやりがいのある仕事のお陰で、まだまだこの会社で頑張れるな。
 二人の笑顔を見て、俺も笑顔になっていたと思う。


      ◆


 吉野のミスをカバーしてから一週間ほどたったころ。
 広告は昨日掲出されて、反応は上々のようだ。
 吉野は報告書を書くことになったが、この件はこれでカタがついた。
 そう思っていたのに……

「桜田、吉野、社長が呼んでる」
「はい」

 昼過ぎに得意先回りから帰ってくると、部長が神妙な顔で俺と吉野に告げた。
 ……嫌な予感がする。
 ワンマンで思いつきで物を言う社長に呼ばれるときは、だいたい嫌なことしか起きない。
 
――コンコンコン

「失礼します」

 吉野と並んで入った社長室は、無駄に広くて無駄に絵画や観葉植物や壺が置かれた成金趣味。俺たち社員は狭い部屋に二部署が押し込まれているし、飾りなんて何もないのにな。
 そして、趣味の悪い社長室には、奥のデスクに社長、その前に課長が立っていた。
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