魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
409 / 409
第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話

リハーサル三日目(4)

しおりを挟む
「俺、魔王さんに『していい?』とはきかないよ。するからね」
「……!」
「俺の責任で、俺がする。なるべく迷惑はかけないようにするけど、忙しくなっちゃったら……それはごめん」
「……!」

 俺の立場でこれを言うのは生意気? でも、魔王さんが俺の大切な飼い主で家族だからこそ、言っておきたい。
 世界中の誰よりも、魔王さんに、俺を尊重してもらいたい。

「……」

 じっと魔王さんの返事を待っていると、
 魔王さんは一瞬驚いて……

「ふっ……ははっ!」

 すごく楽しそうに、声を出しながら笑ってくれた。

「そうだな! 俺が悩むのも考えるのも筋違いだ!」
「ふふっ、俺のことを大事に思ってくれているのは嬉しいけどね?」

 俺もつられて笑っちゃう。
 好きな人に理解してもらえるっていいよね。

「もちろん大事だ! だが……あぁ、俺は一〇年一緒にいて、まだまだライトの素晴らしさの一端しか知らないのだな」

 魔王さんがそっと俺の体を抱きしめる。

「こんなにも小さい体に、なんて強い芯の通った心があるのか。自分の力で前に進むライトのことが、ますます好きになった」
「本当? 自分のやりたいことをやるだけで魔王さんに好きになってもらえるなんてラッキー」
「ははっ! あぁ、もう、かわいいなぁ。本当にかわいい。大好きだ」
「ん、俺もだよ。大好き」

 俺からも魔王さんの広い背中に手をまわすと、魔王さんの腕の力が強くなった。

「俺がしてやれることは手伝う。飼い主だからではない。一人の魔族として、ライトの挑戦を応援したいからだ」
「ありがとう。建物の契約とかは人間だと難しいこともあるかもしれないから、頼るかも」
「そうだな。他にも、困ったことがあれば相談してくれ」
「うん。ありがとう」

 感謝の気持ちを伝えたくて耳の付け根あたりにキスをすると、魔王さんも俺の首筋にキスをしてくれる。

「ん……ふふっ」
「はぁ、ライト……」

 俺が喜んだ声を出すと、魔王さんのスイッチが入りそうになるけど……

「魔王さん、続きは夜にね? イユリちゃんにも俺のこれ以上かわいい顔を見せるつもり?」

 魔王さんの頬をつつくと、慌てて体が離れていった。

「あ……だ、だめだ!」
「でしょ? 早くご飯食べて、お仕事の続き頑張って。それで、夜にちょっとだけイチャイチャしよう?」

 もともと魔力補給のために今日は部屋に来てもらう約束だったけどね。
 俺が顔を覗き込めば魔王さんは深く頷いてテーブルに向き直った。

「わかった! すぐに食べて仕事にかかる!」
「ステーキを切るのは俺が手伝ってあげるから」
「ん! ライトが切ってくれたステーキはいつもの倍は美味い!」
「そう? じゃあパンもちぎって、バターを塗ってあげよう」
「んんっ! うまい!」

 一瞬で甘い空気が消えてしまったのはもったいないけど、その後も、魔王さんをおもてなしして……これはホストの仕事というよりは「弟が小さいときに食事を手伝った経験」が生きているなと思いながらテーブルの上を空にした。

「それじゃあ魔王さん、お仕事頑張ってね」
「あぁ!」

 イユリちゃんと一緒に空の食器を乗せたワゴンを押して執務室を出る。
 おしゃべりで少し長くはなったけど、普段よりもたくさん魔王さんに食事をとってもらって、仕事のやる気も出して、食事の時間を終えることができた。
 成功と言っていいよね?
 ……俺のことも応援してもらえたし。

「ライト様、『ホストクラブ』上手くいきそうですね!」
「そうだね。思ったより早くイユリちゃんに活躍の場をつくってあげられそう」
「ライト様のご期待に添えるように、頑張ります! 今日でホストクラブの雰囲気はつかめましたが、僕があれをするにはまだまだ勉強が必要だと思いますし……」

 イユリちゃんが、少し表情を曇らせて、ワゴンの上の汚れた食器へと視線を落とす。

「すべての魔族が、魔王様やハレアザート様のように、人間を尊重してくれるわけではありませんし」
「……」

 それはね……そう。

「そんな魔族相手に媚びられるか、わかりませんし……」

 イユリちゃんの不安は最も。
 簡単なことではないと思う。
 だけど……

「んー……? 媚びちゃだめだよ?」
「え?」
「しかも、そういう魔族さんこそ、客として店に来て欲しいけどね」
「えぇ!?」

 イユリちゃんが足まで止めて驚いてしまう。
 聡い子ではあるけど、まだまだ共有不足だったね?

「イユリちゃん、人間を下に見ている魔族さんに、対等に扱ってもらえる人間になるためにホストクラブをつくるんだから……ね?」
「あ!」
「それとも、そういう魔族さんの意識を覆す自信がない?」
「あ、そっか、いえ……そうですね! 頑張ります! 絶対に意識を変えて、対等に……いえ、僕が魔族よりも上になります!」

 言えばちゃんと伝わるか。
 よしよし。ちょっと野心的過ぎるけど。

「ふふっ。鍛えがいがあるなぁ」

 イユリちゃんはまだまだ教えることが多いけど、多分、上手くできる。
 あとは……

「スカウトも頑張らないとね。例の、声をかけた人たちはどうだった?」
「はい、返事待ちが二人ですが、今のところ全員が『参加』のお返事です」
「よかった。イユリちゃん、当日は品定めになりすぎないようにね?」
「それは心得ています」
「でも、観察はしてね? イユリちゃんの同僚になるかもしれない人たちなんだから」
「はい」

 イユリちゃんがきちんと美しい笑顔で頷く。この笑顔がいつでも、誰にでも向けられるならイユリちゃんは大丈夫。
 他の目星をつけている人たちも、全員は無理かもしれないけど、何人かは来てくれる勝算がある。

「楽しみだな」

 元の世界にいた時でも、こんなに積極的に自分から何かを始めるってなかったな。
 仕事も趣味も、始めれば一生懸命するけど、自分の意志でしっかり選んだというよりは、何となく自分にできそうとか楽そうとか、周囲に誘われてとかで……

 すごいなぁ、そんな俺が、「ホストクラブつくりたい」なんて言っちゃうんだよ?
 この世界で、もっと自分が愛されるために。
 魔王さんと愛し合えるために。
 しかもそれを、魔王さんは褒めてくれるんだよ?

「あぁ、やっぱり俺、魔王さんが大好きだな」

 この世界に来て、魔王さんという俺を絶対的に愛してくれて、支えてくれる存在がいるから、こうして自分のやりたいことを作って実行に移せるんだと思う。
 俺、この世界に来て……魔王さんに出会えてよかった。

「ふふっ、ライト様、急に惚気ですか?」
「うん。魔王さんが好きって気持ちがあふれちゃった」

 もちろん、魔王さん以外の周囲の人にも恵まれている。

 まずはパーティーを絶対に成功させよう。

 魔王さんのため、この国のため。

 俺のためにも。



※続きも不定期更新です。
次回はBL感の強い「幕間の小話」(短編)または、
ライトが無双する「パーティー編」(少し長め)を年明けくらいに更新できればと思っています。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(116件)

ラテ
2024.10.23 ラテ
ネタバレ含む
メグル
2024.10.23 メグル

感想ありがとうございます!

誤字脱字のご指摘ありがとうございます!なるべく早く反映します!
表現に関してはちょっと悩ましいのですぐに修正できないかもしれませんが、確認して伝わりやすくできればと思います。

また、「導王さん」の部分は元データで直したのにWEB掲載分が直っていないようで……1度ご指摘いただいたのにすみません~!

引き続き、確認しつつ続きも執筆していけたらと思います。
ありがとうございます!

解除
ラテ
2024.10.13 ラテ
ネタバレ含む
メグル
2024.10.13 メグル

感想ありがとうございます。
書籍でもWEBの更新でも、ライトと魔王さんをしっかり書いていくので、
引き続き楽しんでいただけると嬉しいです!

誤字報告もありがとうございます。
更新と合わせて確認して随時修正していければと思っています。

いつも丁寧に読んでいただきありがとうございます!

解除
いか
2024.09.28 いか

うわあああすき!!!かわいすぎます!!!!
最高ですー!!!
とてもおもしろくて毎日少しずつ読んでます…!
素敵な作品ありがとうございます!!!!

メグル
2024.09.28 メグル

感想ありがとうございます!
ちょうど続きを書いているところなので、とてもやる気がでます。
長いお話ですが引き続き最後まで楽しんで頂けると嬉しいです!

解除

あなたにおすすめの小説

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」  ワタクシ、フラれてしまいました。  でも、これで良かったのです。  どのみち、結婚は無理でしたもの。  だってー。  実はワタクシ…男なんだわ。  だからオレは逃げ出した。  貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。  なのにー。 「ずっと、君の事が好きだったんだ」  数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?  この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。  幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。

兄弟がイケメンな件について。

どらやき
BL
平凡な俺とは違い、周りからの視線を集めまくる兄弟達。 「関わりたくないな」なんて、俺が一方的に思っても"一緒に居る"という選択肢しかない。 イケメン兄弟達に俺は今日も翻弄されます。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。