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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話
リハーサル三日目(3)
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「これはパーティーと無関係だよ」
「あ、あぁ! そうか!」
「忙しい魔王さんに喜んでほしかったから」
「そうかそうか!」
魔王さんが一瞬で子供みたいな満面の笑みになって俺の頭を「よちよちいいこでちゅね~」ってテンションで撫でまくる。あぁ、セットしたのにぐちゃぐちゃ……まぁいいか。崩れていても俺はかわいく見えるはず。
「俺のために、仕事のようなことをしてくれたんだな」
「うん。でも、仕事の時のおもてなしではあるけど、魔王さんに喜んでほしい気持ちは仕事とかじゃないからね? そこは勘違いしちゃだめだよ?」
「あぁ! もちろん心得ている。俺を喜ばせたいから仕事の技術を使ってくれただけだろう?」
「うん。そういうこと」
魔王さん、俺への理解が早い。
もう一〇年一緒なんだから当たり前か。
でも……多分これはわかっていないよね。
「ねぇ魔王さん。俺が……人間がこういう『おもてなし』をするのってすごく素敵じゃない?」
「あぁ! 人間の村へ視察に行くと、人間カフェやレンタルペットなどのサービスもあるが、人間からこのように積極的なコミュニケーションをとってくれることはほぼない。このような高度なもてなしは楽園のようだ!」
「そっか。魔王さんのおかげで自信がついた」
「……ん?」
不思議そうにする魔王さんの前で、ジャケットの襟を正して、少し落ちてきた髪をかき上げる。
ホストっぽく。
「俺、こういうおもてなしをするお店……『ホストクラブ』をこの世界に作りたいんだよね」
「……店?」
「そう、お店」
魔王さんがしばらく考え込んで……俺の顔色を窺うように眉をひそめながらつぶやいた。
「人間の村に、か?」
「魔族の街に」
「魔族の街に……人間の、店?」
「そう、人間がしっかり仕事として魔族をおもてなしする、魔族の中で人間が働くお店を作りたい」
「人間が……魔族の中で、働く?」
やっぱり魔王さんというか、魔族にとっては驚くことなんだな。
エルフの国や国際商工ギルドを見ても、イユリちゃんのこのお城での働きを見ても、まだまだ人間はかわいく愛されるだけと思っちゃうんだ?
「俺ね、魔族の中で人間の地位を向上させたい」
「あ、あぁ……ライトのその考えは理解している。人間やペットという立場の意識を変えて、対等になることで俺とより近く、深く愛し合いたいと考えてくれていることも、嬉しいと思っている」
魔王さんは魔族の中でもこうやって人間や俺のことをよく理解してくれているほうだけどね。
「きっと他にいいやり方があるんだろうけど……俺は、俺が得意なやり方しか知らないから、まずは俺が作れそうで、魔族にとっても価値のある人間が働く場所を作って、人間に対する考え方を変えていきたい」
「……そう、か……ライトの考えは理解できるし、魔族が喜ぶ店であることは間違いない。応援したいが……」
魔王さんはやっぱり何かに引っかかっている顔で……これは、たぶんさっきの繰り返しだな。
「ライトが……他の魔族に、こんなもてなしをするのは……ライトが立派な志を持って挑戦したいと言っているときに心が狭くて申し訳ないが……その……い……いっ……」
魔王さんが俯いて唇を噛んでしまったので、魔王さんの太ももに手を添えて、できるだけ優しく声をかける。
「あ、もしかして俺が接客すると思ってる?」
「ちがうのか?」
顔を上げた魔王さんが、目を瞬かせる。
「うん。俺はもう、魔王さんを喜ばせるのが楽しすぎて……他の人を喜ばせるのも楽しいけど、パーティーとか時々でいいから。接客はしない。オーナー? 経営者? そんな感じ」
「あ、あぁ……そうか」
魔王さんがあからさまにほっとした顔をするけど、すぐに不思議そうに首をひねる。
「では、誰が接客をするんだ? ライトのようにかわいく、賢く、愛される人間はこの世にいないだろう?」
魔王さん、俺のことが好きすぎる。
嬉しいけどね。
めっちゃくちゃ嬉しいけど、ちゃんと適役がいるの、気づかないかな?
「俺と同じ人間はいないけど……」
チラっと、部屋の扉の方へ視線を向ける。
そこには、俺と似たスーツを着て、自分の魅力を最大限に引き出す微笑みを浮かべたイユリちゃんが立っていた。
「ライト様から常々お話を聞いていましたが、今日の実践はとても勉強になりました。共感して褒めて……なるほど」
「あ……」
「まだ勉強中だけど、イユリちゃんにお願いしようと思ってる」
「なるほど……そうだな。イユリなら、喜ぶ魔族は多いだろう。それに、城での働きぶりからいって、貴族や大きな商家の話題にもついていける」
「気が利くしね。絶対にいいホストになると思う」
「そうだな」
魔王さんはやっと納得したのか、少し真剣な顔になった。
「しかし、イユリ一人では商売としては成り立たないだろう?」
「もちろん他にも何人か雇うつもり」
「……イユリのように適任の者がそろうのなら、よい店になるかもしれないが……容姿がよく、気遣いができて賢くて、そもそも魔族を怖がらず慣れているような人間は……いるか?」
魔王さんが複雑な顔をする。応援したい気持ちと、難しいだろうという気持ちが混ざって……心配も多そう。
「そうだね。人材が重要な商売だから、スタッフが集まらないようなら諦めようとは思ってる。でも……ちょっと目星をつけている人たちがいるんだよね」
「目星……?」
「その人たちに聞いてみて、いけそうだったら本格的に事業を始めるつもり」
「そうか」
魔王さんは真面目な顔で頷いてくれるけど……そうだな、言っておくか。
「あ、あぁ! そうか!」
「忙しい魔王さんに喜んでほしかったから」
「そうかそうか!」
魔王さんが一瞬で子供みたいな満面の笑みになって俺の頭を「よちよちいいこでちゅね~」ってテンションで撫でまくる。あぁ、セットしたのにぐちゃぐちゃ……まぁいいか。崩れていても俺はかわいく見えるはず。
「俺のために、仕事のようなことをしてくれたんだな」
「うん。でも、仕事の時のおもてなしではあるけど、魔王さんに喜んでほしい気持ちは仕事とかじゃないからね? そこは勘違いしちゃだめだよ?」
「あぁ! もちろん心得ている。俺を喜ばせたいから仕事の技術を使ってくれただけだろう?」
「うん。そういうこと」
魔王さん、俺への理解が早い。
もう一〇年一緒なんだから当たり前か。
でも……多分これはわかっていないよね。
「ねぇ魔王さん。俺が……人間がこういう『おもてなし』をするのってすごく素敵じゃない?」
「あぁ! 人間の村へ視察に行くと、人間カフェやレンタルペットなどのサービスもあるが、人間からこのように積極的なコミュニケーションをとってくれることはほぼない。このような高度なもてなしは楽園のようだ!」
「そっか。魔王さんのおかげで自信がついた」
「……ん?」
不思議そうにする魔王さんの前で、ジャケットの襟を正して、少し落ちてきた髪をかき上げる。
ホストっぽく。
「俺、こういうおもてなしをするお店……『ホストクラブ』をこの世界に作りたいんだよね」
「……店?」
「そう、お店」
魔王さんがしばらく考え込んで……俺の顔色を窺うように眉をひそめながらつぶやいた。
「人間の村に、か?」
「魔族の街に」
「魔族の街に……人間の、店?」
「そう、人間がしっかり仕事として魔族をおもてなしする、魔族の中で人間が働くお店を作りたい」
「人間が……魔族の中で、働く?」
やっぱり魔王さんというか、魔族にとっては驚くことなんだな。
エルフの国や国際商工ギルドを見ても、イユリちゃんのこのお城での働きを見ても、まだまだ人間はかわいく愛されるだけと思っちゃうんだ?
「俺ね、魔族の中で人間の地位を向上させたい」
「あ、あぁ……ライトのその考えは理解している。人間やペットという立場の意識を変えて、対等になることで俺とより近く、深く愛し合いたいと考えてくれていることも、嬉しいと思っている」
魔王さんは魔族の中でもこうやって人間や俺のことをよく理解してくれているほうだけどね。
「きっと他にいいやり方があるんだろうけど……俺は、俺が得意なやり方しか知らないから、まずは俺が作れそうで、魔族にとっても価値のある人間が働く場所を作って、人間に対する考え方を変えていきたい」
「……そう、か……ライトの考えは理解できるし、魔族が喜ぶ店であることは間違いない。応援したいが……」
魔王さんはやっぱり何かに引っかかっている顔で……これは、たぶんさっきの繰り返しだな。
「ライトが……他の魔族に、こんなもてなしをするのは……ライトが立派な志を持って挑戦したいと言っているときに心が狭くて申し訳ないが……その……い……いっ……」
魔王さんが俯いて唇を噛んでしまったので、魔王さんの太ももに手を添えて、できるだけ優しく声をかける。
「あ、もしかして俺が接客すると思ってる?」
「ちがうのか?」
顔を上げた魔王さんが、目を瞬かせる。
「うん。俺はもう、魔王さんを喜ばせるのが楽しすぎて……他の人を喜ばせるのも楽しいけど、パーティーとか時々でいいから。接客はしない。オーナー? 経営者? そんな感じ」
「あ、あぁ……そうか」
魔王さんがあからさまにほっとした顔をするけど、すぐに不思議そうに首をひねる。
「では、誰が接客をするんだ? ライトのようにかわいく、賢く、愛される人間はこの世にいないだろう?」
魔王さん、俺のことが好きすぎる。
嬉しいけどね。
めっちゃくちゃ嬉しいけど、ちゃんと適役がいるの、気づかないかな?
「俺と同じ人間はいないけど……」
チラっと、部屋の扉の方へ視線を向ける。
そこには、俺と似たスーツを着て、自分の魅力を最大限に引き出す微笑みを浮かべたイユリちゃんが立っていた。
「ライト様から常々お話を聞いていましたが、今日の実践はとても勉強になりました。共感して褒めて……なるほど」
「あ……」
「まだ勉強中だけど、イユリちゃんにお願いしようと思ってる」
「なるほど……そうだな。イユリなら、喜ぶ魔族は多いだろう。それに、城での働きぶりからいって、貴族や大きな商家の話題にもついていける」
「気が利くしね。絶対にいいホストになると思う」
「そうだな」
魔王さんはやっと納得したのか、少し真剣な顔になった。
「しかし、イユリ一人では商売としては成り立たないだろう?」
「もちろん他にも何人か雇うつもり」
「……イユリのように適任の者がそろうのなら、よい店になるかもしれないが……容姿がよく、気遣いができて賢くて、そもそも魔族を怖がらず慣れているような人間は……いるか?」
魔王さんが複雑な顔をする。応援したい気持ちと、難しいだろうという気持ちが混ざって……心配も多そう。
「そうだね。人材が重要な商売だから、スタッフが集まらないようなら諦めようとは思ってる。でも……ちょっと目星をつけている人たちがいるんだよね」
「目星……?」
「その人たちに聞いてみて、いけそうだったら本格的に事業を始めるつもり」
「そうか」
魔王さんは真面目な顔で頷いてくれるけど……そうだな、言っておくか。
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