魔王さんのガチペット

メグル

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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話

仕事の進捗(1)

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 ドーラルさんとの打ち合わせも終えて、本格的にパーティーの準備を始めてから数日が経った。

――コンコン

「失礼いたします。ライト様、国際会議後のパーティーに参加される来賓リストができましたのでご確認ください」

 背筋を正してドアを開けた黒いフロックコート姿の男性は、お城に来た日からお世話になっている執事長のローズウェルさんではない。

「ありがとう、イユリちゃん」

 元々は国際商工ギルドのギルドマスターさんのペットで、成人を迎えた一六歳のころから俺の秘書をしてもらっているイユリちゃんだ。
 一八歳になって。身長は俺とほぼ同じまで伸び、癖を生かしてゆるく七三分けにスタイリングされた明るい茶髪はつややかでよく手入れされていて王子様っぽい。
 顔立ちもすっかり大人で、天使のようにかわいかった顔は、俺と系統が近い美形の男の子になった。
 俺と比べてちょっと目が大きくて「かわいい」かな? 幼さが抜けきっていないだけかもしれないけど。
 この国の「かわいい人間」の基準でいうと、かなりかわいい方だと思う。
 魔王さんやローズウェルさんたちお城の魔族さんは「ライト様の方がかわいい」と言ってくれるけど……そこは、性格? 態度? 俺がみんなを大好きだから? その差もありそう。
 まぁ、イユリちゃんは「みんなに好かれるために」ここにいるのではなく、「人間として働くために」ここにいるからいいんだろうけど。

「誰が来るのかなー……去年の北の国の会議とほぼ一緒?」
「はい。森の王様の代替わり以降、各国王や組織代表の交代はありませんし、ペット様も今回は変わりなしです」

 この世界に来て一〇年の間に、国際会議や式典なんかで年に一~二回は顔を合わせるメンバーだから、さすがにもう誰がどこの国のどんな人かは頭に入っている。

「国際情勢も落ち着いていますし、大きな災害もなく特筆すべきことはありませんが……山の国の国王代理である宰相は、今回が最後の出席の可能性があります」
「山の国の国王代理……あれか、まだ黒髪の新しい王様が幼くて、代理で王様の仕事をしている人」
「はい、そうです。先日黒髪の魔族様が成人され、徐々に国王としての仕事を引き継いでいくと……まだ、内密ですが」
「内密? めでたい事っぽいのに?」

 俺が首をかしげると、イユリちゃんは少し声を潜め、誰も聞いていない室内ではあるけど、顔を俺の耳元に近づけた。

「どうやら、新しい山の王様は難ありの方のようです」
「へぇ~……」

 不真面目なのか、能力が低いのか、性格が悪いのか……理由はわからないけど、今後魔王さんとも一緒にお仕事をする機会がある人のはずだから、嫌な人だと困るな。
 それに……

「魔王さんの負担がなかなか減らないのか……」

 魔王さんは数年前から、黒髪が途切れてしまった東の国を支援している。
 もともとは山の国の山の王様が支援していたのに、先代が亡くなって、新しい山の王様がまだ幼くて支援ができなくなったからなんだけど……魔王さんの負担が大きいんだよね。山の王様が成人したら少しくらい助けてもらえると思ったんだけどな。
 
「ライト様のお優しいお気持ちは理解できますが、個人的には東の国との関係を密に保つためにもこのまま支援を続ける方がよいと考えます」

 イユリちゃん、基本的には素直でいい子なんだけど、雇い主が俺だからか、国籍は東の国だからか、魔王さんに対してはちょっとドライなんだよね。意地悪というわけではないんだけど。

「確かに、最近の会議は東の国の王様が全面的に魔王さんの味方だから意見が通りやすいって、魔王さんニコニコしてたもんなぁ……でも、ただでさえ大陸で一番大きなこの国を一人で護っている魔王さんの負担って大きいのに。俺も疲れちゃうし、どっちがいいか悩ましい」

 俺が眉を寄せて考え込むと、イユリちゃんは「しまった」という顔をする。
 ……こういう、とっさに顔に出ちゃうところは一八歳らしくてかわいいな。

「申し訳ございません! 僕はいつも、国益ばかり考えてしまい……!」
「ふふっ。俺は魔王さん個人のことばっかり考えちゃうから、バランスとれていいね」

 俺が笑えば今度は「ほっとした」という顔になって……かわいいけど、もうちょっと表情の筋肉を鍛えるように今度アドバイスしよう。

「……魔王の国や魔王様への影響は必ずあると思いますので、引き続き情報収集につとめます」
「よろしく。俺も気に留めておくね」

 情報収集か……イユリちゃん、どこから集めてくるのかわからないけど、外国の情報を集めるのが上手い。
 新聞に載る何日も前に知っていたり、そもそも新聞に載らないような情報を知っていたり……少し前に気になって聞いてみると、「誰からとは言えませんが、確かな情報筋からお金で買っています。金額は安くありませんが、こちらの情報は渡したくありませんし、無償はもっと怖いので、お金で買える情報にしか手を出していません」と答えてくれた。
 イユリちゃん、礼儀作法が完璧で、外見がよくて、賢くて、気が利いて、勉強する努力を惜しまなくて、ギルドマスターさんのところにいる間に身に着けた商売の知識や築き上げた人脈もあって……完璧すぎる。
 俺一人に仕えてもらうのはもったいない。

「……早く、イユリちゃんがもっと活躍できる場所を作ってあげないとな」
「お気を配っていただきありがとうございます。しかし、急ぎませんので。このお城でライト様の横にいるだけで学ぶことがいくらでもあります。例えば……こちらとか」
「あ! 試作品できたんだ?」
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