魔王さんのガチペット

メグル

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第9章 その後の世界 / 新しい仲間と遊びの話

遊ぶ?

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 デートの翌日、楽しかった半日のことを思い出しては顔をニヤけさせながら身支度を整えた。

――コンコン

「おはようございます。ライト様、お加減いかがですか?」
 
 ソファで新聞を読みながら待っていると、心配そうな顔をしたローズウェルさんが朝食の乗ったワゴンを押しながら部屋に入ってきた。

「おはよう。心配かけてごめんね? もう全快だよ。昨日の夜だってご飯残さなかったでしょ?」

 昨日の夜は、魔王さんとイチャイチャしてから夕食をとったけど……激しいセックスじゃなかったからいつもの量の夕食をきちんと食べきった。
 それを見てローズウェルさんも安心してくれていたと思ったけど、まだ心配してくれちゃうんだ?
 優しいな。
 あと、ちょっと、申し訳ない。

「そうですが……もっと消化のよいものにすべきだったと後で反省していました」
「消化?」

 ローズウェルさんはいつも通りのスムージーとふわとろオムレツ、やわらかいパンというシンプルな朝食をソファの前のテーブルに置いてくれる。

「……昨日、お服もシーツも軽く洗ってから洗濯に出されていましたし」

 あぁ……精液でべたべただったからね。証拠隠滅。

「馬車も、魔王様が空気を動かされていたようなので」

 そういえばなんかしてたな。アレってにおいをごまかす換気ってことか。

「……馬車酔いで、食事を戻されてしまったのではないですか?」
「……」

 そういうふうにとるか。
 魔王さんが嘘をついているなんて微塵も疑わないんだ。
 ローズウェルさんでも気づかないってことは、魔王さんの意外と真面目じゃないところ、俺しか知らないんじゃない? ちょっと優越感。
 でも……

「えっと……本当に大丈夫。これからは心配かけないように気をつけるね」

 俺のことも信頼してくれているんだよね?
 その信頼を裏切って、心配かけて、申し訳ない。
 今後、絶対に、絶っ対にこういう嘘はつかないようにしよう。

「いえ、私たちこそ気をつけるべきでした。ですから、ライト様……」
「ん?」

 ローズウェルさんがソファの横に跪いた。

「どうか、今回のことで懲りずに、また魔王様を遊びに誘ってくださいませんか?」
「……遊びに? うん。俺も魔王さんとのデートは何回だってしたいよ」

 俺が笑顔で頷くと、ローズウェルさんは大げさなほどほっとして胸をなでおろした。
 そんなに?

「デートはしたいけど、お仕事の邪魔じゃない?」
「いえ、むしろ、邪魔をしていただきたいです」

 邪魔を?
 元の世界だったら、猫ちゃんが飼い主のノートパソコンに乗るとか、インコがマウスを持った手にとまるとか、ペットが飼い主の仕事の邪魔をするのは定番の微笑ましい光景だけど……多分、そういうことではないよね?

「ライト様ももうお気づきだとは思いますが、魔王様は仕事の手を抜くのも、遊ぶことも苦手な方です」

 仕事に対しては真面目すぎだよね。尊敬しているけど。
 遊びに関しては……好きなんだろうけど、自分から進んで遊ばないか。

「ただでさえご多忙なのに、近年は東の国への支援も行われて業務過多です。私共も精一杯サポートはさせていただいていますが……」

 忙しいのに邪魔しろって? 逆じゃない?

「魔王様はどうしてもお一人で抱え込みがちで……」
「魔王さんしかできないお仕事なら、仕方がないよね?」

 いつも「俺にしかできない」「俺がすべき」なんて言っているけど……?

「黒髪にしかできないお仕事に関してはその通りです。しかし……王としてのお仕事は、他国のように大臣を多くおくなど、もっと楽をしていただける体制にできるはずです」
「あぁ……他の国は黒髪と王様が別のところもあるか」
「はい。ずっと魔王様の『王という立場をもらったのだから、俺が国民のためにして当然……いや、させてもらいたい』という立派な志のお言葉に甘えて……頼り切っておりました」

 あの性格だからなぁ。すっごく立派だけど、王様として素敵だけど、抱え込みすぎか……

「ちなみに、ライト様が来られてから、残業時間は半分ほどに減ったのですが、これは業務が減ったのではなく作業スピードが上がったためです」
「え? 魔王さん、俺とイチャイチャしたいから仕事の処理能力が上がったってこと? すごいけど……」

 確かに、お城に来た頃よりも一緒の時間が増えたけど……そういうこと?
 無理しないように仕事を減らしたんじゃなく?

「はい。魔王様の能力の高さは素晴らしいのですが……短時間で尋常ではない速度で業務をこなされるご負担を考えると、もっと周囲に頼っていただければと思います」

 それは俺も同意。一緒の時間が欲しいし、魔王さんが魔力を使いすぎて疲れると俺も疲れちゃうし。専属化してからも、「ライトに苦しい思いをさせないように、なるべく俺も健康には気をつける」って言ってくれているのに、年に数回、仕事のし過ぎで俺までしんどくなることあるからね。
 もちろん、魔王さんには元気でいてほしいし。

「もしかして、俺ともっと遊ぶことになれば、さすがに魔王さんも自分だけでは時間を作れなくなって、みんなに頼ってくれる……ってこと?」
「はい。昔は……一番様がいらっしゃったころは、一番様が適度に遊びに誘ってくださって、上手く手抜きや息抜きをされていました。褒められたことではありませんが、ズル休みもあり……心身のお疲れは少なかったのではないかと思います。何度も出し抜かれてしまって悔しいながらも、お二人の楽しそうな様子を嬉しく思っておりました」

 魔王さんも昨日、そんな感じのことを話していたな。

「昨日、ライト様とのデートで子供のように笑う魔王様を見て……このお顔を、何年も見られていなかったなと……ライト様が来られてから楽しそうで幸せそうな『癒しの時間』は持っていただけていましたが、もっと『遊び』が必要だったなと後悔しました」

 そっか。
 なんだ。いいんだ。
 申し訳なく思っていたけど、昨日みたいなことも……普段はしっかり真面目に頑張っていればちょっとくらいアリ?
 もっと魔王さんに手抜き、息抜き、ズル休み、してもらっていい?
 一番様がどれほどだったかはわからないけど、俺も多分そういうの得意だよ?

「魔王様の真面目で国民のことを一番に考えてくださることには感謝と尊敬しかありませんが……今のこの国は魔王様という貴重な黒髪の魔族様へのご負担が大きすぎるので」
「一番様がいた頃って先代の魔王様もいて、一番様に魔王さん……三人も黒髪がいたからお仕事の分担もできていたんだよね?」
「はい。魔王様がお仕事をしすぎて倒れるようなことがあっても、その後たっぷりと、必要以上に休めるように一番様がフォローされることもありました。早く次の黒髪魔族様が国内で生まれてくださればいいのですが……こればかりは、天に任せるしかありませんので」
「そうだね……」

 東の国も黒髪が産まれなくて苦労していた。
 この世界、この国、魔法でいろいろなことができるし、魔族のみんなはいい人ばかりで、勤勉で、国としてしっかりしていると思うのに、これだけ出来上がった国でも「黒髪」がいないとダメなんだな。

「申し訳ございません、ライト様にご心配をかけてしまって」
「ううん、俺も、魔王さんのことは知っておきたいし、魔王さんのためにできることがあるなら嬉しいから。ありがとう、ローズウェルさん」
「……ッ」

 素直に笑っただけなんだけど、ローズウェルさんがギュっと目も口も閉じながら「かわいい!」って顔をしてくれる。
 八年たってもまだ、時々こんな反応をしてくれるんだよね。
 元の世界でもそうか。飼って一年のペットにも、八年のペットにも「いや~ん、うちの子カワイイ!」って言う飼い主さんはたくさんいるよね。
 改めて、この「ペット」ってポジションは長年愛してもらいたい俺にピッタリ。

「魔王さんとのデート、すっごく楽しかったからまたしたいしね。魔王さんが遊びたくなるように、楽しい遊びやかわいいお誘いの仕方をいっぱい考えるよ」
「ライト様にそう言っていただけると、とても頼もしいです。私共も、魔王様のご負担を減らせる体制づくりを進めていければと思います。どうぞ、よろしくお願い致します」

 入ってきたときは心配そうだった顔を執事らしい真面目な顔に戻したローズウェルさんは、一礼してから部屋を出て行った。

「魔王さんとの遊びか……」

 魔王さん、みんなには真面目な顔しか見せていないけど、本当は遊ぶことも好きなんだと思う。
 昨日の、俺にだけ見せてくれた楽しそうな顔……あれ、もっと見たいよね。
 
「どうしたら見られるかな?」

 あぁ、楽しい悩みができちゃったな。
 俺、魔王さんに「俺のことで頭いっぱいになってほしい」なんて言ったけど、魔王さんのことで俺の頭をいっぱいにするのも大好き。

「昨日のデートで思いがけず『下見』もできちゃったし、もう少ししたらイユリちゃんも来てくれるし、ずっとやりたかったことができるかな?」

 魔王さん、喜んでくれるといいな……いや、違うな。

「絶対に、喜ばせる」

 魔王さんとの毎日は幸せだけど、もっともっと幸せにできそうな気がして、誰も見ていないのについつい俺が一番かっこよく見えるキメ顔の笑顔になってしまった。



 ※続きも不定期で更新予定です。
  次回「●●の準備 編」秋ごろの更新を目指しています。
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