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第9章 その後の世界 / 新しい仲間と遊びの話
お泊り会(6)
しおりを挟む「イユリちゃんは魔王さんのペットとしてじゃなくて、俺の秘書としてお城に来てもらいたい」
「なっ……」
魔王さんがデレデレの笑顔を引きつらせる。
そんなに変なこと言ったかな?
「秘書は……ほら、ローズウェルがもう、秘書のようなものだろう?」
「うん。ローズウェルさんは、超有能でなんでも手伝ってくれて安心できる最高の執事さんだから助かってる。でも、なんでもできるせいで、俺が新しく始めることを全部手伝ってくれちゃうからなぁ……最近俺につきっきりでお城のお仕事ができていないんじゃない?」
「それは……そうだな」
ローズウェルさんは俺の手伝いを喜んでしてくれるから、ついつい全部引き受けて残業になって……少し前にローズウェルさんの恋人の騎士団長さんに「ローズウェルがとても楽しそうに働いているのに水は差したくないが、仕事が忙しくプライベートの時間が減っていて……体調が心配なのと……その……あ、いや、俺はいいんだが……」と真っ赤な顔で相談されてしまった。
たぶん、恋人同士の大事な時間が減っちゃっているんだと思う。
本当に申し訳ない。
俺だって、魔王さんとの時間が減るのは嫌なのに。
「それにね、俺、ちょっとやりたいことがあるんだ。そのためにも一人、手伝ってくれる子が欲しい」
「そういうことなら、魔族の執事を増やしてはどうだ? イユリ様を雇用したくないというよりも…… 人間を『雇用』する実績がない」
「えー……だめ? 人間同士の方がわかりあえそうだし、人間がすべきことがあるんだけどなぁ。人間が手伝ってくれないと俺が自分でしないといけないことが多くて、俺の自由時間が減るなぁ」
ちょっとわざとらしいくらいにため息をついて、「寂しいな」って顔をする。
「魔王さんとの時間、減っちゃうかもなぁ」
「はぁ!? そ、それはだめだ!」
痛ッ……魔王さん、抱きしめる力強くしすぎ。
いつも力加減完璧なのに、こんな一言で余裕なくなっちゃうんだ? 俺のこと好きすぎ。
「人間の俺の代わりができる、人間の子がそばにいてくれたら、自由時間が減らないと思うなぁ」
「う、うぅ……ライトの望みはかなえてやりたいし、俺のためにも雇用したいが……雇用試験が……」
「それ、イユリちゃんじゃ受からない?」
「雇用条件に魔力量や基礎魔法の試験もある。どれだけ努力しても人間が使えるようになる魔法ではない」
「うーん……そっか。みんな頑張って試験クリアしているのに、一人だけ無条件で雇用するのはズルいか」
「そういうことだ」
俺に夢中になっているときでも、王様として、平等で公平で、お城勤めのみんなのことを考えられる魔王さんって上に立つ人として偉いなぁ……惚れ直した。
じゃあ、そんな魔王さんの心配をなくしてあげないとね?
「じゃあ、俺が直接雇用する」
「は?」
「お給料出せるくらいの稼ぎはあるし……お城のみんなの平均賃金はわからないけど、なるべく近い額で」
「ライトの経済状況なら余裕で出せるとは思うが……」
いろいろな商品の権利料とか、新聞の連載とか、最近は他にもいろいろしているし、この世界の物価もだんだんわかってきた。元の世界でホストとして一番稼いでいた時に比べれば少ないけど、普通のサラリーマンよりは稼いでいるはず。使い道も少ないし。
「あ、ぼ、僕、お金は最低限生活できれば……!」
イユリちゃんが後ろから援護のつもりで声を上げてくれるけど……それは違うな。
「ん? だめだよ。上を目指す子が、自分のことを安売りしちゃだめ。そんなこと言わないで」
「あ……は、はい!」
イユリちゃんはすぐに頷いてくれた。理解が早くてよかった。
「……前例がない。だが……」
魔王さんは微妙な顔をした後、「はぁ」と大きなため息を吐いてから表情を緩めてくれた。
「ライトがそこまで言うなら、本当に必要なのだろう。エンラキに相談しよう」
「やった! ありがとう、魔王さん」
後ろに友達がいるのに少し恥ずかしいけど、魔王さんの頬にキスをすると、魔王さんは締まりのない笑顔になる。
本当、人前でキスされるの好きだよね? わかりやすく喜んでくれるからやりがいがある。
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