魔王さんのガチペット

回路メグル

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番外編3 一番の●●

何よりも大事なもの(2)

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――ガタン!

「!?」

 森の中の一本道で、急に馬車が止まる。
 窓から様子を伺うと……倒木か。
 大きな木が道をふさいでいた。

「導王様、少々お待ちください」

 馬車を取り囲むように護衛として馬で並走していた騎士の一人が、馬を降りて倒木へ向かうが……。

「っ!」

 森の方から一筋の光が見えたと思うと、騎士が急に膝をつく。

「ぐっ、こ、攻撃魔法だ!」

 騎士が肩を抑えながら声を上げる。
 攻撃魔法? 状況は解らないが、 攻撃魔法ならば……私とオファ、騎士たちに魔法を防ぐ結界を張った。
 だが……敵は、それを見越していた。

――カン……ドン!

 馬車の屋根に何かが当たる音がして、とっさに隣に座るオファを抱き寄せたが……馬車が大きく揺れ、大きな衝撃と共に煙に包まれた。
 まずい。
 これは……まずい。
 私の……黒系統の結界に、魔法石で干渉して爆発を起こしたんだ。
 かなり特殊な手口で、干渉用の魔法石を作るだけでも何年もかかるはずなのに……これは……この手口は……こんなことができるのは……過激派組織か!?

「くっ……」

 壊れた馬車の扉が外れ、過激派組織の魔族がよく被っていた、まだら模様のフード付きローブ姿の男が、森から向かってくるのが見えた。
 馬車の入り口近くで、爆発に巻き込まれて動けなくなっている騎士の姿も。
 
「死ねぇ! 売国奴がぁ!」

 ……今まで、国内で狙われることがあるなんて考えたことも無かった。
 黒髪は国の宝で、黒髪がいないと国が護れない。
 どんなに私のことが嫌いな国民がいたとしても、私がいなければ国が危険になるから、悪口を言う様なことがあったとしても、襲ってくるような馬鹿はいないと思っていた。

 油断だ。
 こちらに向かってくる男は、格好や叫んでいることから言って、隣国へテロ行為を行っていた過激派組織の残党だ。
 隣国を嫌ったくせに、最近距離を縮めるようになり、組織解体に向けて動いた私への恨みか。
 
 なんだ。
 過去の自分のツケか。

「っ……」

 反撃しようにも、魔力干渉のせいで体内の魔力が上手く制御できない。
 爆発の衝撃で体も上手く動かない。
 賊が持っているのは刃物に見えるが、刃物傷なら魔法で治せるが……こんなことをする賊が持っている刃物が普通の刃物だとは考えにくい。
 魔力に干渉する刃物かもしれない。
 刺して、体の内側に満ちた魔力を不安定にすることで……殺す気か?
 そもそも、抵抗できないのなら、回復する前に死ぬほどの重傷を負わされる可能性もある。
 馬車の反対側から騎士が甲冑の音をガチャガチャとたてながら向かってくるのが解ったが、あちら側も爆発の影響や魔力干渉の影響はあったはずで、動きが鈍い。恐らく間に合わない。
 賊の方が速い。
 たった数秒なのに、とても長く感じた。
 あぁ、私は、ここまでなのか?
 ここで……

「導王様!」

 不意に、私の前に人影が現れた。
 白いシャツの背中が見える。
 オファか?
 そうか……オファは、人間で、魔力が無いから干渉されなくて、動けて……。
 いや、だめだ。
 オファ、だめだ!
 だめだ!!!

「邪魔だどけぇ!」

 賊の叫び声でも、オファは退かなかった。

「お、オファ、逃げ……て、くれ……!」

 私の声でも、オファは退かなかった。

「人間ごときが邪魔すんじゃねぇ!」
「うぐ……!」

 オファの背中が私の方に倒れてくる。

「導王様!」

 それと同時に、騎士が間に合ったのか賊の体はそこで止まり、後ろに引っ張られ……地面にたたきつけられた。

「くそ、離せ! この売国奴! 同胞の仇! 隣国に魂を売った悪魔め!」
「大人しくしろ!」
「導王様! ご無事ですか!?」 

 叫び声は聞こえるが、もう、賊の言葉も、騎士の言葉も理解できない。

「オファ! オファ……!」

 倒れ込んできたオファの体を、痺れる腕で何とか受け止める。

「う……ぐ……っ」

 オファのかわいい顔は歪み、額には汗が滲み、口からはうめき声だけが漏れていた。

「……!?」

 オファの左の脇腹には、ナイフが刺さって血が滲んでいた。
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