魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
348 / 409
番外編3 一番の●●

ライト様のため(3)

しおりを挟む
「……懐かしいな。子どもの頃、こういう味が好きだった。一番様が『俺はもう甘いジュースは卒業した。お前が全部飲んでいいぞ』と言ってくれたのを思い出す」
「っ……!」
「ご自身も、甘いぶどうジュースやホットチョコレートが大好きなのに」
「……」
「いつも、一番様からお前の話を聞いていた。お前が新しい魔法関連の研究発表をするたびに、なぜか一番様が自慢げに俺に見せてくるから……尊敬している一番様が、更に尊敬している方だと……憧れていた」
「私は……」

 そんな優しい気持ちなんて持てなかった。

「私は、一番がお前の話ばかりするから、お前が嫌いだった。私は一番こそが王にふさわしいと思っていたのに、一番は、お前が王になるべきだというから……」
「それは理解できる。俺だって、一番様が王になるべきだと思っていた。一番様が王にふさわしいと」
「だったら、今からでももっと一番みたいに振る舞え。一番ならもっと上手くやる。少なくとも、こうやって情けなく床に寝転ぶ事態にはなっていない」

 いい機会だと思って長年の苛立ちをぶつけたのに。
 魔王は私の言葉を素直に受け入れてしまった。

「そうだな。一番様ならきっと、とっさの結界修復も最低限の応急処置で済ませて、落ち着いてから修復にかかるだろう。いい意味で、手抜きのできる方だったから」
「そうだ。そうすべきだ。お前みたいに手抜きができない常に全力の馬鹿が王など……国民も、ライト様もかわいそうだ」
「……反論できないな。だが……俺はこれでいく」
「……馬鹿だな」
「馬鹿でいい。一番様が俺を王に推したのはこういうところだ」
「……」

 知っている。
 もし一番が生きていたとしたら、今の魔王を見ても「お、よくやったな! あとは俺に任せて休んでおけ」なんて笑顔で言うだけだろう。だがそれは自分が横で支えられるという前提で……こいつ一人になってもそれでいいとは、言わなかったのではないか?

「一番様が亡くなった時、俺も戦場にいた」
「え?」

 てっきり、あの日戦場に来たのは一番だけで、こいつは安全な城にいたのだと思っていたが……。

「一番様が、戦場を見ておけと連れ出してくれたんだ」
「見ておけ……?」
「あぁ。あの頃の俺は、戦争で勝利することにこだわって、一部の犠牲は仕方が無いと思っていた。そういう策を沢山たてた。それで、形勢が良くなったこともあった」
「戦争とは、そういうものだろう?」

 特攻や囮も使った三国連合の作戦……魔王の国の者であれば、一番が策を立てていると思ったが……。

「そうだな。だが……一番様は、俺には常に俺らしくいて欲しかったようだ」
「俺らしく?」
「戦場で、生身の魔族が戦っている姿を見て、自分のこれまでの策が間違っていると気が付いた。誰一人死なせてはいけなかったのだと」
「無理だろう。夢物語だ」
「そうだ。だが……そこを目指さないと、いつしか犠牲が当たり前になってしまう。どんどん、大事な国民を、駒としか観られなくなる……それに、一番様は気付かせてくれた」
「……」
「戦場で、兵士の一人も取りこぼさないように結界魔法を使う俺を見て、一番様が本当に嬉しそうな顔をしたんだ。それで……俺はこの気持ちを一生忘れてはいけないと思った。一番様が最後に教えてくれたこの気持ちは……一番様の願いだと思った。だから、国民を守るためなら無茶をする。誰一人取りこぼさずに幸せにする。王として、この考えだけは変えられない」

 あぁ。
 一番だな。
 一番がしそうなことだ。
 あいつは……ここまで……。

「……導王?」
「……」
「泣いているのか……?」
「観るな」
「……一番様の墓の場所、教えた方が良いか?」
「行って良いと思うか? 敵国だったんだぞ?」
「戦争ではそうだったが、あの方は……」

 魔王が飲みほした魔力回復薬の瓶を置くと同時に、医務室がノックされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

異世界に落っこちたら溺愛された

PP2K
BL
僕は 鳳 旭(おおとり あさひ)18歳。 高校最後の卒業式の帰り道で居眠り運転のトラックに突っ込まれ死んだ…はずだった。 目が覚めるとそこは見ず知らずの森。 訳が分からなすぎて1周まわってなんか冷静になっている自分がいる。 このままここに居てもなにも始まらないと思い僕は歩き出そうと思っていたら…。 「ガルルルゥ…」 「あ、これ死んだ…」 目の前にはヨダレをだらだら垂らした腕が4本あるバカでかいツノの生えた熊がいた。 死を覚悟して目をギュッと閉じたら…!? 騎士団長×異世界人の溺愛BLストーリー 文武両道、家柄よし・顔よし・性格よしの パーフェクト団長 ちょっと抜けてるお人好し流され系異世界人 ⚠️男性妊娠できる世界線️ 初投稿で拙い文章ですがお付き合い下さい ゆっくり投稿していきます。誤字脱字ご了承くださいm(*_ _)m

異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった

藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。 毎週水曜に更新予定です。 宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。

処理中です...