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番外編3 一番の●●
ライト様のため(3)
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「……懐かしいな。子どもの頃、こういう味が好きだった。一番様が『俺はもう甘いジュースは卒業した。お前が全部飲んでいいぞ』と言ってくれたのを思い出す」
「っ……!」
「ご自身も、甘いぶどうジュースやホットチョコレートが大好きなのに」
「……」
「いつも、一番様からお前の話を聞いていた。お前が新しい魔法関連の研究発表をするたびに、なぜか一番様が自慢げに俺に見せてくるから……尊敬している一番様が、更に尊敬している方だと……憧れていた」
「私は……」
そんな優しい気持ちなんて持てなかった。
「私は、一番がお前の話ばかりするから、お前が嫌いだった。私は一番こそが王にふさわしいと思っていたのに、一番は、お前が王になるべきだというから……」
「それは理解できる。俺だって、一番様が王になるべきだと思っていた。一番様が王にふさわしいと」
「だったら、今からでももっと一番みたいに振る舞え。一番ならもっと上手くやる。少なくとも、こうやって情けなく床に寝転ぶ事態にはなっていない」
いい機会だと思って長年の苛立ちをぶつけたのに。
魔王は私の言葉を素直に受け入れてしまった。
「そうだな。一番様ならきっと、とっさの結界修復も最低限の応急処置で済ませて、落ち着いてから修復にかかるだろう。いい意味で、手抜きのできる方だったから」
「そうだ。そうすべきだ。お前みたいに手抜きができない常に全力の馬鹿が王など……国民も、ライト様もかわいそうだ」
「……反論できないな。だが……俺はこれでいく」
「……馬鹿だな」
「馬鹿でいい。一番様が俺を王に推したのはこういうところだ」
「……」
知っている。
もし一番が生きていたとしたら、今の魔王を見ても「お、よくやったな! あとは俺に任せて休んでおけ」なんて笑顔で言うだけだろう。だがそれは自分が横で支えられるという前提で……こいつ一人になってもそれでいいとは、言わなかったのではないか?
「一番様が亡くなった時、俺も戦場にいた」
「え?」
てっきり、あの日戦場に来たのは一番だけで、こいつは安全な城にいたのだと思っていたが……。
「一番様が、戦場を見ておけと連れ出してくれたんだ」
「見ておけ……?」
「あぁ。あの頃の俺は、戦争で勝利することにこだわって、一部の犠牲は仕方が無いと思っていた。そういう策を沢山たてた。それで、形勢が良くなったこともあった」
「戦争とは、そういうものだろう?」
特攻や囮も使った三国連合の作戦……魔王の国の者であれば、一番が策を立てていると思ったが……。
「そうだな。だが……一番様は、俺には常に俺らしくいて欲しかったようだ」
「俺らしく?」
「戦場で、生身の魔族が戦っている姿を見て、自分のこれまでの策が間違っていると気が付いた。誰一人死なせてはいけなかったのだと」
「無理だろう。夢物語だ」
「そうだ。だが……そこを目指さないと、いつしか犠牲が当たり前になってしまう。どんどん、大事な国民を、駒としか観られなくなる……それに、一番様は気付かせてくれた」
「……」
「戦場で、兵士の一人も取りこぼさないように結界魔法を使う俺を見て、一番様が本当に嬉しそうな顔をしたんだ。それで……俺はこの気持ちを一生忘れてはいけないと思った。一番様が最後に教えてくれたこの気持ちは……一番様の願いだと思った。だから、国民を守るためなら無茶をする。誰一人取りこぼさずに幸せにする。王として、この考えだけは変えられない」
あぁ。
一番だな。
一番がしそうなことだ。
あいつは……ここまで……。
「……導王?」
「……」
「泣いているのか……?」
「観るな」
「……一番様の墓の場所、教えた方が良いか?」
「行って良いと思うか? 敵国だったんだぞ?」
「戦争ではそうだったが、あの方は……」
魔王が飲みほした魔力回復薬の瓶を置くと同時に、医務室がノックされた。
「っ……!」
「ご自身も、甘いぶどうジュースやホットチョコレートが大好きなのに」
「……」
「いつも、一番様からお前の話を聞いていた。お前が新しい魔法関連の研究発表をするたびに、なぜか一番様が自慢げに俺に見せてくるから……尊敬している一番様が、更に尊敬している方だと……憧れていた」
「私は……」
そんな優しい気持ちなんて持てなかった。
「私は、一番がお前の話ばかりするから、お前が嫌いだった。私は一番こそが王にふさわしいと思っていたのに、一番は、お前が王になるべきだというから……」
「それは理解できる。俺だって、一番様が王になるべきだと思っていた。一番様が王にふさわしいと」
「だったら、今からでももっと一番みたいに振る舞え。一番ならもっと上手くやる。少なくとも、こうやって情けなく床に寝転ぶ事態にはなっていない」
いい機会だと思って長年の苛立ちをぶつけたのに。
魔王は私の言葉を素直に受け入れてしまった。
「そうだな。一番様ならきっと、とっさの結界修復も最低限の応急処置で済ませて、落ち着いてから修復にかかるだろう。いい意味で、手抜きのできる方だったから」
「そうだ。そうすべきだ。お前みたいに手抜きができない常に全力の馬鹿が王など……国民も、ライト様もかわいそうだ」
「……反論できないな。だが……俺はこれでいく」
「……馬鹿だな」
「馬鹿でいい。一番様が俺を王に推したのはこういうところだ」
「……」
知っている。
もし一番が生きていたとしたら、今の魔王を見ても「お、よくやったな! あとは俺に任せて休んでおけ」なんて笑顔で言うだけだろう。だがそれは自分が横で支えられるという前提で……こいつ一人になってもそれでいいとは、言わなかったのではないか?
「一番様が亡くなった時、俺も戦場にいた」
「え?」
てっきり、あの日戦場に来たのは一番だけで、こいつは安全な城にいたのだと思っていたが……。
「一番様が、戦場を見ておけと連れ出してくれたんだ」
「見ておけ……?」
「あぁ。あの頃の俺は、戦争で勝利することにこだわって、一部の犠牲は仕方が無いと思っていた。そういう策を沢山たてた。それで、形勢が良くなったこともあった」
「戦争とは、そういうものだろう?」
特攻や囮も使った三国連合の作戦……魔王の国の者であれば、一番が策を立てていると思ったが……。
「そうだな。だが……一番様は、俺には常に俺らしくいて欲しかったようだ」
「俺らしく?」
「戦場で、生身の魔族が戦っている姿を見て、自分のこれまでの策が間違っていると気が付いた。誰一人死なせてはいけなかったのだと」
「無理だろう。夢物語だ」
「そうだ。だが……そこを目指さないと、いつしか犠牲が当たり前になってしまう。どんどん、大事な国民を、駒としか観られなくなる……それに、一番様は気付かせてくれた」
「……」
「戦場で、兵士の一人も取りこぼさないように結界魔法を使う俺を見て、一番様が本当に嬉しそうな顔をしたんだ。それで……俺はこの気持ちを一生忘れてはいけないと思った。一番様が最後に教えてくれたこの気持ちは……一番様の願いだと思った。だから、国民を守るためなら無茶をする。誰一人取りこぼさずに幸せにする。王として、この考えだけは変えられない」
あぁ。
一番だな。
一番がしそうなことだ。
あいつは……ここまで……。
「……導王?」
「……」
「泣いているのか……?」
「観るな」
「……一番様の墓の場所、教えた方が良いか?」
「行って良いと思うか? 敵国だったんだぞ?」
「戦争ではそうだったが、あの方は……」
魔王が飲みほした魔力回復薬の瓶を置くと同時に、医務室がノックされた。
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