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番外編3 一番の●●
ライト様のため(2)
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「感謝する」
「……ライト様のためだ」
わが城の医務室の床に、医療用の魔法陣が敷かれ、その上に魔王が横たわっている。
しかも、「魔王」ではあるが、いつもの人型ではない。生命維持ギリギリという重度の魔力切れを起こしたために、醜い原始の姿になっている。
「ライトのためにありがとう。感謝する」
「……」
本当は他人の原始の姿なんて視界に入れたくない。しかも魔王だ。
見たくないし、一緒にいるのも嫌だ。
しかし今、私の自慢の黒髪の先端は、魔力を付与してやるために魔王の竜角に結んである。
離れるわけにはいかず、床にクッションを置いて魔導書を広げていた。
「ライトもそろそろ落ち着いたころだろう。導王……ありがとう」
「……あぁ」
昨夜、我が国の騎士団が隣国の国境に到着すると、事態は一応落ち着いていたようだ。
魔王と護衛の騎士団たちが、その日の分の張替え作業を済ませ、野営地で休もうとしていたところに、敵の襲撃を受けたらしい。
その敵と言うのが……わが国の、過激派テロ組織だった。
「……多少は、責任も……感じている」
ずっと、魔王の国へのテロを黙認していた。
魔王を最初に嫌ったのは私で、国民はそれに賛同しただけなのに。
黙認して、今更解体に向けて動いて……解体の動きに焦った組織がテロ行動をとることなんて、予測できたはずだ。
テロリストは全員魔王の国の騎士団に取り押さえられ、魔王の国側に大きな怪我人が出なかったのは不幸中の幸いだった。
しかし、結界への強力な魔力介入があったらしく……即時張替えのために魔王が無理に魔法を使い、生命維持ギリギリまで魔力を使ってしまったということだ。
魔力回復設備が整っていない野営地では、まともに回復するまでに何十日かかるか……さすがに放っておけなかった我が国の騎士団が、魔王たち一行を城に連れて帰って来た。
……テロリストたちも。
「襲って来た実行犯は禁固刑にする。組織の他の者は懲役刑にするとしても、出所の時に魔法制限をかける。もう、絶対にお前に……お前の国に、手出しをさせない」
「頼む。ライトがいるからな」
「あぁ……ライト様のためだ」
もちろんそれもあるが……いや、上手く言えない。
そう言うことにしておこう。
「導王様、魔王様、一二時の分の回復薬をお持ちしました」
執事が魔力回復薬の瓶を二本乗せた盆を、私と魔王の間に置く。
「あぁ、ありがとう」
「ありがとう。次は一六時に頼めるか?」
「承知致しました」
恭しく頭を下げた執事を見送って、回復薬の瓶へ手を伸ばす。
黒髪専用の回復薬を作っておいてよかった。
汎用性の高い回復薬を黒髪の回復にあてるとなると、大量に摂取しないといけなくなる。これならコップ一杯に満たない量ですむので、何回も飲むことができるし効き目もいい。
「この魔力回復薬、本当に素晴らしい発明品だな」
私が瓶を取ると、魔王も爪が伸びた竜人の手で瓶を掴む。
魔王に魔法関連のことを褒められるのは久しぶりだな。
これは、自分用に作ったものなので褒められても嫌な気持ちにはならない。
素直に嬉しいな。
「まぁ、これくらい、自分のために備えて置いて当然だろう?」
「その通りだ。しかし、なぜこんなに甘いんだ? 自分のためと言うことは……甘党だったか?」
「あ……いや……」
言葉を濁しながら、回復薬の瓶に口をつける。
口の中に流れ込んでくる魔法薬は甘ったるいチョコレート味。
昨夜から数時間おきにぶどう味とチョコレート味を交互に飲んでいる。
どちらも、子ども用の菓子のように甘い。
「……」
正直に言うか?
この味付けは、あいつとの……。
「……ライト様のためだ」
わが城の医務室の床に、医療用の魔法陣が敷かれ、その上に魔王が横たわっている。
しかも、「魔王」ではあるが、いつもの人型ではない。生命維持ギリギリという重度の魔力切れを起こしたために、醜い原始の姿になっている。
「ライトのためにありがとう。感謝する」
「……」
本当は他人の原始の姿なんて視界に入れたくない。しかも魔王だ。
見たくないし、一緒にいるのも嫌だ。
しかし今、私の自慢の黒髪の先端は、魔力を付与してやるために魔王の竜角に結んである。
離れるわけにはいかず、床にクッションを置いて魔導書を広げていた。
「ライトもそろそろ落ち着いたころだろう。導王……ありがとう」
「……あぁ」
昨夜、我が国の騎士団が隣国の国境に到着すると、事態は一応落ち着いていたようだ。
魔王と護衛の騎士団たちが、その日の分の張替え作業を済ませ、野営地で休もうとしていたところに、敵の襲撃を受けたらしい。
その敵と言うのが……わが国の、過激派テロ組織だった。
「……多少は、責任も……感じている」
ずっと、魔王の国へのテロを黙認していた。
魔王を最初に嫌ったのは私で、国民はそれに賛同しただけなのに。
黙認して、今更解体に向けて動いて……解体の動きに焦った組織がテロ行動をとることなんて、予測できたはずだ。
テロリストは全員魔王の国の騎士団に取り押さえられ、魔王の国側に大きな怪我人が出なかったのは不幸中の幸いだった。
しかし、結界への強力な魔力介入があったらしく……即時張替えのために魔王が無理に魔法を使い、生命維持ギリギリまで魔力を使ってしまったということだ。
魔力回復設備が整っていない野営地では、まともに回復するまでに何十日かかるか……さすがに放っておけなかった我が国の騎士団が、魔王たち一行を城に連れて帰って来た。
……テロリストたちも。
「襲って来た実行犯は禁固刑にする。組織の他の者は懲役刑にするとしても、出所の時に魔法制限をかける。もう、絶対にお前に……お前の国に、手出しをさせない」
「頼む。ライトがいるからな」
「あぁ……ライト様のためだ」
もちろんそれもあるが……いや、上手く言えない。
そう言うことにしておこう。
「導王様、魔王様、一二時の分の回復薬をお持ちしました」
執事が魔力回復薬の瓶を二本乗せた盆を、私と魔王の間に置く。
「あぁ、ありがとう」
「ありがとう。次は一六時に頼めるか?」
「承知致しました」
恭しく頭を下げた執事を見送って、回復薬の瓶へ手を伸ばす。
黒髪専用の回復薬を作っておいてよかった。
汎用性の高い回復薬を黒髪の回復にあてるとなると、大量に摂取しないといけなくなる。これならコップ一杯に満たない量ですむので、何回も飲むことができるし効き目もいい。
「この魔力回復薬、本当に素晴らしい発明品だな」
私が瓶を取ると、魔王も爪が伸びた竜人の手で瓶を掴む。
魔王に魔法関連のことを褒められるのは久しぶりだな。
これは、自分用に作ったものなので褒められても嫌な気持ちにはならない。
素直に嬉しいな。
「まぁ、これくらい、自分のために備えて置いて当然だろう?」
「その通りだ。しかし、なぜこんなに甘いんだ? 自分のためと言うことは……甘党だったか?」
「あ……いや……」
言葉を濁しながら、回復薬の瓶に口をつける。
口の中に流れ込んでくる魔法薬は甘ったるいチョコレート味。
昨夜から数時間おきにぶどう味とチョコレート味を交互に飲んでいる。
どちらも、子ども用の菓子のように甘い。
「……」
正直に言うか?
この味付けは、あいつとの……。
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