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番外編3 一番の●●
軋轢(3)
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「おい見ろよ。導王のペット、また歳を取って来たな。若いのを買う余裕がないのか?」
「最初どんなにかわいくても、毎回死ぬギリギリまで連れまわして……ペットも可哀そうだよなぁ」
背後から、心無い声が聞こえた。
どうせ山の王とその取り巻きだ。
無責任に若い美形を食い散らかしているお前らに言われたくはない。
だが……言っても無駄だ。
今日は会議でもやり合って疲れた。
「ラセイタ、東の王へ挨拶に行こう」
「は、はい!」
その場から早く離れたくて、速足になってしまった。
ラセイタは、とても緊張する子だし、最近足の調子が悪くなってきたことは……解っていたはずなのに。
「あ、わっ!」
「え!?」
私の斜め後ろでラセイタの慌てた声と、もう一人、若い男の声が上がった。
――ブチッ……
布が引きちぎれるような音も。
「あ……!」
「あ、あ、も、もうしわけ……」
ラセイタがつまずいた際に、他のペットのジャケットを掴んでしまったようで、ラセイタの手には銀色のジャケットの袖が握られ、隣に立つ金髪で若く整った顔の人間は、左腕があらわになっていた。
どう考えてもラセイタが悪い。
そして、私が気を使ってやれなかったのが悪い。
素直に謝って弁償するつもりだった。
だが……
「ニマ! ニマ、怪我は無いか? 大丈夫か?」
「はい。怪我はありません。でも……」
悲しそうに丸見えになった左腕へ視線を向ける人間は、魔王のペットか。
そうか……魔王の……。
「これはすまない。ラセイタには悪気はなかったんだ。この子ももう年で足腰も弱っているのに、連れまわした私の責任だ。服は弁償させてもらうから、どうかラセイタは責めないでやってくれ」
すぐに謝った。
だが……自分でも嫌な言い方をした自覚がある。
顔も、笑っていたと思う。
会議での腹立ちを引きずって、「いい気味だ」なんて思ってしまった。
だから、魔王が怒るのは当然だった。
「導王……」
魔王の怒ったところを見たのは、初めてかもしれない。
「解っているなら、そんな老いたペットを連れまわすな!」
「は?」
「ラセイタ様の怯えた様子、どうせお前が……っ! くそ、お前のような者に、ペットを飼う資格はない!」
私が指示をしたとでも思ったか?
そこまで卑怯なつもりはない。
だが……こいつの言葉には黙っていられなかった。
「は! 数年ですぐに手放す無責任なお前の方が、飼い主の資格を疑う! 老いるまで面倒を見る覚悟もない癖によく言えるな!?」
「っ……」
なんだ図星か?
威勢よく噛みついてきた魔王がひるんだ。
「あ、あの、魔王様、私は大丈夫ですから。それよりも、はやく肌を隠したく……」
「あ、ニマ……」
魔王がペットの方を向く。
このペットも、魔王の国の者らしく、平和ボケというか、なんというか……。
とてもかわいいが。
「魔王、隣の部屋でメイドに直させよう」
「……頼む」
主催である東の王が間に入って、やっとこの場がおさまった。
魔王のペットも、ずっと床で震えていたラセイタも、ほっとしたのが解った。
しかし……
「尊敬、していたのに」
魔王の絞り出すような声を聴いても別に悲しくはなかった。
私は初めて会った日から、ずっとずっとお前が嫌いだった。
戦争の制裁も終わり、魔法石も潤沢。立場は同じになった。
だから、もういいだろう。
これでもう、堂々と嫌える。
◆
この日の会議での出来事も、パーティーでの出来事も、両国の新聞に載った。
魔王の国は、魔王の言い分が正しい。
我が国は、私の言い分が正しい。
そんな書き方だった。
別に魔王の国の民にどう思われようとかまわない。
自分の国民に解ってもらえればそれでよかった。
そして、私のことを妄信している自国民は、当然私の味方をしてくれた。
つまり……魔王のことが大嫌いになった。
「最初どんなにかわいくても、毎回死ぬギリギリまで連れまわして……ペットも可哀そうだよなぁ」
背後から、心無い声が聞こえた。
どうせ山の王とその取り巻きだ。
無責任に若い美形を食い散らかしているお前らに言われたくはない。
だが……言っても無駄だ。
今日は会議でもやり合って疲れた。
「ラセイタ、東の王へ挨拶に行こう」
「は、はい!」
その場から早く離れたくて、速足になってしまった。
ラセイタは、とても緊張する子だし、最近足の調子が悪くなってきたことは……解っていたはずなのに。
「あ、わっ!」
「え!?」
私の斜め後ろでラセイタの慌てた声と、もう一人、若い男の声が上がった。
――ブチッ……
布が引きちぎれるような音も。
「あ……!」
「あ、あ、も、もうしわけ……」
ラセイタがつまずいた際に、他のペットのジャケットを掴んでしまったようで、ラセイタの手には銀色のジャケットの袖が握られ、隣に立つ金髪で若く整った顔の人間は、左腕があらわになっていた。
どう考えてもラセイタが悪い。
そして、私が気を使ってやれなかったのが悪い。
素直に謝って弁償するつもりだった。
だが……
「ニマ! ニマ、怪我は無いか? 大丈夫か?」
「はい。怪我はありません。でも……」
悲しそうに丸見えになった左腕へ視線を向ける人間は、魔王のペットか。
そうか……魔王の……。
「これはすまない。ラセイタには悪気はなかったんだ。この子ももう年で足腰も弱っているのに、連れまわした私の責任だ。服は弁償させてもらうから、どうかラセイタは責めないでやってくれ」
すぐに謝った。
だが……自分でも嫌な言い方をした自覚がある。
顔も、笑っていたと思う。
会議での腹立ちを引きずって、「いい気味だ」なんて思ってしまった。
だから、魔王が怒るのは当然だった。
「導王……」
魔王の怒ったところを見たのは、初めてかもしれない。
「解っているなら、そんな老いたペットを連れまわすな!」
「は?」
「ラセイタ様の怯えた様子、どうせお前が……っ! くそ、お前のような者に、ペットを飼う資格はない!」
私が指示をしたとでも思ったか?
そこまで卑怯なつもりはない。
だが……こいつの言葉には黙っていられなかった。
「は! 数年ですぐに手放す無責任なお前の方が、飼い主の資格を疑う! 老いるまで面倒を見る覚悟もない癖によく言えるな!?」
「っ……」
なんだ図星か?
威勢よく噛みついてきた魔王がひるんだ。
「あ、あの、魔王様、私は大丈夫ですから。それよりも、はやく肌を隠したく……」
「あ、ニマ……」
魔王がペットの方を向く。
このペットも、魔王の国の者らしく、平和ボケというか、なんというか……。
とてもかわいいが。
「魔王、隣の部屋でメイドに直させよう」
「……頼む」
主催である東の王が間に入って、やっとこの場がおさまった。
魔王のペットも、ずっと床で震えていたラセイタも、ほっとしたのが解った。
しかし……
「尊敬、していたのに」
魔王の絞り出すような声を聴いても別に悲しくはなかった。
私は初めて会った日から、ずっとずっとお前が嫌いだった。
戦争の制裁も終わり、魔法石も潤沢。立場は同じになった。
だから、もういいだろう。
これでもう、堂々と嫌える。
◆
この日の会議での出来事も、パーティーでの出来事も、両国の新聞に載った。
魔王の国は、魔王の言い分が正しい。
我が国は、私の言い分が正しい。
そんな書き方だった。
別に魔王の国の民にどう思われようとかまわない。
自分の国民に解ってもらえればそれでよかった。
そして、私のことを妄信している自国民は、当然私の味方をしてくれた。
つまり……魔王のことが大嫌いになった。
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