魔王さんのガチペット

メグル

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番外編3 一番の●●

軋轢(1)

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 話は五〇年ほど前にさかのぼる。
 戦争が終わって二五〇年ほど。まだペットは四人目のラセイタだったころだ。
 東の国で行われた国際会議に、いつものように出席した。
 制裁も全て済んではいたが、我が国はまだまだ「敗戦国」という立場で、会議の居心地は悪かった。
 しかし、その日の会議は……珍しく気分が良かった。

「本当に、来期の魔法石輸入枠はゼロで良いのだな?」
「あぁ、構わない。国間の採掘権が戻れば充分だ」

 円卓のちょうど向かいに座っている山の王に念を押されたが、笑顔で返事をする。
 国内の魔法石の生産が安定したことに加え、どうしても天然物が欲しい場合でも、制裁が解除された国間の共同採掘場で得られる分で賄えることになったからだ。
 今まで高額で輸入してきた魔法石に頼らなくて済むというのはなんとすがすがしい気持ちだろう。
 そして、今まで我が国が払って来た金が入らなくなると解った山の王の悔しそうな顔……あぁ、この顔、先代様にも見せたかった。

「……人工魔法石と言うのは、思ったよりも使えるんだな」

 山の王が観念したように呟く。
 今まで「そんな手間がかかって粗悪な物、興味が沸くわけがない」と笑っていたくせに。

「あぁ、もちろん天然物に比べて持続時間や魔力量など劣るところも沢山あるが……」

 やっと私が主役になれると誇らしげに口を開いた時だった。

「そうだ、人工魔法石はとても素晴らしい!」
「え?」

 なぜか山の王の隣に座っていた魔王が、嬉しそうにまくしたてた。

「普通の魔法石では作れないような大きなものが作れたり、付与の術式に様々な術式を重ねれば、魔法石の効果を自在に変えることができたり……ゆくゆくは出力量の調整ができたり、魔法道具に合わせた魔法石が作れたり……無限の可能性がある!」

 言いたいことをだいたい言われてしまった。私ならもっと上手く話すとは思うが。
 いつも私の魔法を褒めてくれるとは思っていたが、こんなにも詳しく知ってくれていたとは……。

「天然の魔法石ではできなかった魔法道具ができるかもしれない。魔法石の使用を前提とした新しい魔法が作れるかもしれない。様々な分野への展開が期待される。とても素晴らしい発明だ!」

 若干ウザったらしいと思っていたが、まぁ、ここまで褒められて悪い気はしないか。

「人工魔法石は必ず世界中の魔法の発展に……民の暮らしの発展につながる。だから俺は、導王の国の研究所への出資や、国内での活用法を研究するための人工魔法石の輸入も検討していきたいと思っている」

 ん?

「……出資? 研究? 輸入?」
「あぁ、このような素晴らしい物、世界全体で盛り上げていくべきではないか? その方が導王の国の産業も盛り上がるだろう? 協力は惜しまない!」

 魔王は、笑顔だった。
 悔しいくらい穏やかで、平和そうな……笑顔だった。

 なぁ、一番。
 確かにこいつのいう通りなら、世界中が発展して「皆で」幸せになるかもしれない。
 王の器なのかもしれない。
 だが……こいつの「無茶」に付き合う者がいればの話だろう?

「不要だ」
「……導王?」
「お前たちが苦労せずに魔法石を手に入れて遊んでいる横で、私たちがどれほどの苦労と努力を重ねて人工魔法石を作って、それに合わせた社会を形成してきたか……解っているのか?」
「もちろんだ。尊敬している」

 魔王は笑顔から神妙な顔になるが……解るわけがない。
 そんな苦労、したことが無いのだから。

「尊敬? だったら私たちが一番苦労していた頃に出資してくれればよかっただろう!? それを今更……最初は見向きもしなかったのに、使えると解れば横取りか?」
「違う……! ただ単に、皆の利益になれば……導王の国の発展にもなれば、と……」
「皆の利益? 自分の庭のものは自分で独占する癖に、他所の物は分けろという……お前の言う『皆』は自国民のことだけだろう? 私には、私の民の大事な物を護る責任がある」
「……言い方が悪かった。聞いてくれ」
「よりキレイごとを並べる気か? どんなに言い換えても事実は変わらない!」
「っ……」

 魔王が悔しそうに口をつぐむ、他の王たちはどちらにつくか決めかねているように見えたが……まぁ、魔王寄りだろうな。
 誰も、私に賛同はしてくれないんだな。
 魔王の国はこの大陸で一番大きく豊かで、一番発言権も影響力も大きい国だ。
 敵には回せないだろうし、魔王のように我が国の人工魔法石が欲しいのかもしれない。
 絶対に渡さない。
 先代様と、国民と創り上げたこれだけは……。

 一人でも必ず守り切るつもりではあったが、会議中ずっと黙っていた一人の王が口を開いてくれた。
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