333 / 409
番外編3 一番の●●
軋轢(1)
しおりを挟む
話は五〇年ほど前にさかのぼる。
戦争が終わって二五〇年ほど。まだペットは四人目のラセイタだったころだ。
東の国で行われた国際会議に、いつものように出席した。
制裁も全て済んではいたが、我が国はまだまだ「敗戦国」という立場で、会議の居心地は悪かった。
しかし、その日の会議は……珍しく気分が良かった。
「本当に、来期の魔法石輸入枠はゼロで良いのだな?」
「あぁ、構わない。国間の採掘権が戻れば充分だ」
円卓のちょうど向かいに座っている山の王に念を押されたが、笑顔で返事をする。
国内の魔法石の生産が安定したことに加え、どうしても天然物が欲しい場合でも、制裁が解除された国間の共同採掘場で得られる分で賄えることになったからだ。
今まで高額で輸入してきた魔法石に頼らなくて済むというのはなんとすがすがしい気持ちだろう。
そして、今まで我が国が払って来た金が入らなくなると解った山の王の悔しそうな顔……あぁ、この顔、先代様にも見せたかった。
「……人工魔法石と言うのは、思ったよりも使えるんだな」
山の王が観念したように呟く。
今まで「そんな手間がかかって粗悪な物、興味が沸くわけがない」と笑っていたくせに。
「あぁ、もちろん天然物に比べて持続時間や魔力量など劣るところも沢山あるが……」
やっと私が主役になれると誇らしげに口を開いた時だった。
「そうだ、人工魔法石はとても素晴らしい!」
「え?」
なぜか山の王の隣に座っていた魔王が、嬉しそうにまくしたてた。
「普通の魔法石では作れないような大きなものが作れたり、付与の術式に様々な術式を重ねれば、魔法石の効果を自在に変えることができたり……ゆくゆくは出力量の調整ができたり、魔法道具に合わせた魔法石が作れたり……無限の可能性がある!」
言いたいことをだいたい言われてしまった。私ならもっと上手く話すとは思うが。
いつも私の魔法を褒めてくれるとは思っていたが、こんなにも詳しく知ってくれていたとは……。
「天然の魔法石ではできなかった魔法道具ができるかもしれない。魔法石の使用を前提とした新しい魔法が作れるかもしれない。様々な分野への展開が期待される。とても素晴らしい発明だ!」
若干ウザったらしいと思っていたが、まぁ、ここまで褒められて悪い気はしないか。
「人工魔法石は必ず世界中の魔法の発展に……民の暮らしの発展につながる。だから俺は、導王の国の研究所への出資や、国内での活用法を研究するための人工魔法石の輸入も検討していきたいと思っている」
ん?
「……出資? 研究? 輸入?」
「あぁ、このような素晴らしい物、世界全体で盛り上げていくべきではないか? その方が導王の国の産業も盛り上がるだろう? 協力は惜しまない!」
魔王は、笑顔だった。
悔しいくらい穏やかで、平和そうな……笑顔だった。
なぁ、一番。
確かにこいつのいう通りなら、世界中が発展して「皆で」幸せになるかもしれない。
王の器なのかもしれない。
だが……こいつの「無茶」に付き合う者がいればの話だろう?
「不要だ」
「……導王?」
「お前たちが苦労せずに魔法石を手に入れて遊んでいる横で、私たちがどれほどの苦労と努力を重ねて人工魔法石を作って、それに合わせた社会を形成してきたか……解っているのか?」
「もちろんだ。尊敬している」
魔王は笑顔から神妙な顔になるが……解るわけがない。
そんな苦労、したことが無いのだから。
「尊敬? だったら私たちが一番苦労していた頃に出資してくれればよかっただろう!? それを今更……最初は見向きもしなかったのに、使えると解れば横取りか?」
「違う……! ただ単に、皆の利益になれば……導王の国の発展にもなれば、と……」
「皆の利益? 自分の庭のものは自分で独占する癖に、他所の物は分けろという……お前の言う『皆』は自国民のことだけだろう? 私には、私の民の大事な物を護る責任がある」
「……言い方が悪かった。聞いてくれ」
「よりキレイごとを並べる気か? どんなに言い換えても事実は変わらない!」
「っ……」
魔王が悔しそうに口をつぐむ、他の王たちはどちらにつくか決めかねているように見えたが……まぁ、魔王寄りだろうな。
誰も、私に賛同はしてくれないんだな。
魔王の国はこの大陸で一番大きく豊かで、一番発言権も影響力も大きい国だ。
敵には回せないだろうし、魔王のように我が国の人工魔法石が欲しいのかもしれない。
絶対に渡さない。
先代様と、国民と創り上げたこれだけは……。
一人でも必ず守り切るつもりではあったが、会議中ずっと黙っていた一人の王が口を開いてくれた。
戦争が終わって二五〇年ほど。まだペットは四人目のラセイタだったころだ。
東の国で行われた国際会議に、いつものように出席した。
制裁も全て済んではいたが、我が国はまだまだ「敗戦国」という立場で、会議の居心地は悪かった。
しかし、その日の会議は……珍しく気分が良かった。
「本当に、来期の魔法石輸入枠はゼロで良いのだな?」
「あぁ、構わない。国間の採掘権が戻れば充分だ」
円卓のちょうど向かいに座っている山の王に念を押されたが、笑顔で返事をする。
国内の魔法石の生産が安定したことに加え、どうしても天然物が欲しい場合でも、制裁が解除された国間の共同採掘場で得られる分で賄えることになったからだ。
今まで高額で輸入してきた魔法石に頼らなくて済むというのはなんとすがすがしい気持ちだろう。
そして、今まで我が国が払って来た金が入らなくなると解った山の王の悔しそうな顔……あぁ、この顔、先代様にも見せたかった。
「……人工魔法石と言うのは、思ったよりも使えるんだな」
山の王が観念したように呟く。
今まで「そんな手間がかかって粗悪な物、興味が沸くわけがない」と笑っていたくせに。
「あぁ、もちろん天然物に比べて持続時間や魔力量など劣るところも沢山あるが……」
やっと私が主役になれると誇らしげに口を開いた時だった。
「そうだ、人工魔法石はとても素晴らしい!」
「え?」
なぜか山の王の隣に座っていた魔王が、嬉しそうにまくしたてた。
「普通の魔法石では作れないような大きなものが作れたり、付与の術式に様々な術式を重ねれば、魔法石の効果を自在に変えることができたり……ゆくゆくは出力量の調整ができたり、魔法道具に合わせた魔法石が作れたり……無限の可能性がある!」
言いたいことをだいたい言われてしまった。私ならもっと上手く話すとは思うが。
いつも私の魔法を褒めてくれるとは思っていたが、こんなにも詳しく知ってくれていたとは……。
「天然の魔法石ではできなかった魔法道具ができるかもしれない。魔法石の使用を前提とした新しい魔法が作れるかもしれない。様々な分野への展開が期待される。とても素晴らしい発明だ!」
若干ウザったらしいと思っていたが、まぁ、ここまで褒められて悪い気はしないか。
「人工魔法石は必ず世界中の魔法の発展に……民の暮らしの発展につながる。だから俺は、導王の国の研究所への出資や、国内での活用法を研究するための人工魔法石の輸入も検討していきたいと思っている」
ん?
「……出資? 研究? 輸入?」
「あぁ、このような素晴らしい物、世界全体で盛り上げていくべきではないか? その方が導王の国の産業も盛り上がるだろう? 協力は惜しまない!」
魔王は、笑顔だった。
悔しいくらい穏やかで、平和そうな……笑顔だった。
なぁ、一番。
確かにこいつのいう通りなら、世界中が発展して「皆で」幸せになるかもしれない。
王の器なのかもしれない。
だが……こいつの「無茶」に付き合う者がいればの話だろう?
「不要だ」
「……導王?」
「お前たちが苦労せずに魔法石を手に入れて遊んでいる横で、私たちがどれほどの苦労と努力を重ねて人工魔法石を作って、それに合わせた社会を形成してきたか……解っているのか?」
「もちろんだ。尊敬している」
魔王は笑顔から神妙な顔になるが……解るわけがない。
そんな苦労、したことが無いのだから。
「尊敬? だったら私たちが一番苦労していた頃に出資してくれればよかっただろう!? それを今更……最初は見向きもしなかったのに、使えると解れば横取りか?」
「違う……! ただ単に、皆の利益になれば……導王の国の発展にもなれば、と……」
「皆の利益? 自分の庭のものは自分で独占する癖に、他所の物は分けろという……お前の言う『皆』は自国民のことだけだろう? 私には、私の民の大事な物を護る責任がある」
「……言い方が悪かった。聞いてくれ」
「よりキレイごとを並べる気か? どんなに言い換えても事実は変わらない!」
「っ……」
魔王が悔しそうに口をつぐむ、他の王たちはどちらにつくか決めかねているように見えたが……まぁ、魔王寄りだろうな。
誰も、私に賛同はしてくれないんだな。
魔王の国はこの大陸で一番大きく豊かで、一番発言権も影響力も大きい国だ。
敵には回せないだろうし、魔王のように我が国の人工魔法石が欲しいのかもしれない。
絶対に渡さない。
先代様と、国民と創り上げたこれだけは……。
一人でも必ず守り切るつもりではあったが、会議中ずっと黙っていた一人の王が口を開いてくれた。
39
お気に入りに追加
3,577
あなたにおすすめの小説
悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~
トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。
しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。
貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。
虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。
そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる?
エブリスタにも掲載しています。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
悪役の俺だけど性的な目で見られています…(震)
彩ノ華
BL
悪役に転生した主人公が周りから性的な(エロい)目で見られる話
*ゆるゆる更新
*素人作品
*頭空っぽにして楽しんでください
⚠︎︎エロにもちょいエロでも→*をつけます!
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
異世界に落っこちたら溺愛された
PP2K
BL
僕は 鳳 旭(おおとり あさひ)18歳。
高校最後の卒業式の帰り道で居眠り運転のトラックに突っ込まれ死んだ…はずだった。
目が覚めるとそこは見ず知らずの森。
訳が分からなすぎて1周まわってなんか冷静になっている自分がいる。
このままここに居てもなにも始まらないと思い僕は歩き出そうと思っていたら…。
「ガルルルゥ…」
「あ、これ死んだ…」
目の前にはヨダレをだらだら垂らした腕が4本あるバカでかいツノの生えた熊がいた。
死を覚悟して目をギュッと閉じたら…!?
騎士団長×異世界人の溺愛BLストーリー
文武両道、家柄よし・顔よし・性格よしの
パーフェクト団長
ちょっと抜けてるお人好し流され系異世界人
⚠️男性妊娠できる世界線️
初投稿で拙い文章ですがお付き合い下さい
ゆっくり投稿していきます。誤字脱字ご了承くださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる