魔王さんのガチペット

メグル

文字の大きさ
上 下
321 / 409
番外編3 一番の●●

人工魔法石

しおりを挟む
「お、おぉ! す、すばらしい! 本当に魔法石になった……!」

 大臣たちを研究室に呼び、魔法石を目の前で作ってみせると、四人は涙を流して喜んでくれた。

「原料の鉱石は国中に鉱脈があります。早速採掘場を整備しましょう!」
「しかし、国内で最も硬い鉱物……加工できる者を集め、道具も揃えないといけませんね!」

 大臣たちは早速、量産の算段を付けようとしていた。
 しかし……冷静になって考えれば、一つ問題があった。

「希望を持たせたところに、すまない。魔力付与に関してだが……おそらく、できる魔族が限られている」
「え? ま、まさか導王様にしか……?」
「いや、私だけではない。おそらくこれは、黒髪と……付与能力の高い緑系統の魔力の者にしか作れない」
「え……」
「緑系統……」

 目の前の四人の大臣は、赤、茶、青、紫だが、緑系統はこの国では珍しい髪色ではない。
 一〇~二〇人に一人はいるはずだ。
 だが、本来なら……誰でも作れる魔法石なら、国民が気兼ねなく使えるのに……術式をそこまで改良するには、まだまだ時間も知識も設備も足りなかった。
 不甲斐ない。
 時間をわざわざもらったのに、限定的な物しか作れなかった。

「よかった……」
「え?」
「導王様にしか作れないものではないのですね! 導王様お一人の負担になるのなら実用化は断念しなければならないと思いましたが……国民がお手伝いできるのですね!」
「あ、あぁ……」
「早速、各地の緑系統魔族を集めましょう!」
「魔力量の多い者がいいですよね? でも、術式が少し複雑だから実践魔法が得意な者が良いか……」
「……」

 自分では、不完全で頼りない技術ですまないと思ったが……四人は手放しで喜んでくれた。


      ◆


 そして、四人の大臣は、通常の業務もある中、人工魔法石の量産体制確保に向けてすぐに動いてくれた。
 これこそ、私がすべき仕事なのに……

「導王様は、量産に向けてのマニュアル作りや一般魔族向けの術式の調整をお願い致します!」
「私たちにはそちらはできませんので、できることを精一杯させて頂きます!」
「あぁ……」
「それと、この三年ですっかりやつれてお肌が白くなられて……少しでも、お体をお休めください」
「あぁ……」

 四人の大臣。更に大臣から話を聞いた国民は皆、一丸となってこの事業に取り組んでくれた。


      ◆


 城下町のはずれに建てられた魔法石の工場……ほぼ、レンガ造りの倉庫と言った様子ではあるが、そこに国内の優秀な緑髪魔族一〇〇名が集められた。
 いよいよ、人工魔法石の量産が始まる。
 その第一歩として、魔力付与の術式の説明をしなければいけないのだが……適役は、どう考えても私だろう。大臣たちには止められたが、自ら工場に赴き、学校のように机を並べた魔族たちの前に立った。

「導王様自らご指導いただけるなど、光栄です! ありがとうございます!」

 工場の代表者となった、元々は騎士をしていた緑髪の若い男性魔族が、竜角が地面につきそうなほど頭を下げる。先日まで甲冑を着ていたのに、魔法が使いやすいようにローブ姿になっていた。

「……礼を言うのは私の方だ。皆、それぞれに大事な仕事があったにも関わらず、緑系統で、魔力量が高く魔法が得意だという理由で、ここに来てくれた者ばかりだときいている。家族と離れて暮らすことになった者もいると。国のために、すまない。感謝する」
「導王様……!」
「そ、そんな! この魔法石がどれだけ国民の希望か!」
「そうです! 私はみんなの笑顔が見たくてパン屋をしていましたが、この魔法石ならもっともっとみんなを笑顔にできます!」
「家族を置いてきた故郷の街は、魔法石が足りず水道が止まりました。井戸は隣町にしかありません。家族の……街の皆のために喜んで参りました!」

 口に出した者も、口に出していない者も、覚悟を決めた……そして、希望に満ちた顔だった。

「……私は騎士でしたので、導王様のお噂は沢山耳に入っております。もっと、高度な魔法の研究ができるレベルの神のような魔法の才能がおありだとも、本当はそれをなさりたかったということも」
「それは……」

 元騎士の男は、なぜか涙をこらえるような笑顔だった。

「ご自身のされたいことよりも、国民のための研究を続けてくださっていること、存じております。感謝しております!」
「そんな……私にできるのはこれだけで……感謝も……私の方こそ……!」
「あぁ、お優しい……! こんなに国民のためにご自身を削って、懸命に取り組んでくださる導王様だから、私たちは応えたい、お供したい、微力ながら協力したいんです!」

 元騎士の言葉を聞いてから皆の方を見ると……全員が大きく頷いていた。
 あぁ。
 国民に寄り添い……国民から寄り添ってもらえるとはなんという喜びだろう。

「ありがとう……皆で力を合わせて、国を豊かにしていこう」

 そのためなら私は、血のにじむ努力だってする。自分の持てるものをすべて差し出す。

 いや……待て……そうか。

「導王様……あぁ、導王様が私たちの王で良かった……」

 一番が言っていたではないか。

 確か……「国のために無茶ができて、周囲が支えようと思える魔族ほど、王に向いていると思う。一人で頑張るんじゃない、周囲も巻き込める王がいい」と。

 なぁ一番。
 私は今、お前が「王の器」と思える男になれているか?
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...