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番外編3 一番の●●
導王様(1)
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四〇〇歳を過ぎた頃から、導王様と共に国際会議に出席するようになっていた。
ただ、私に発言権はなく、一〇人の王と三人の国際機関やギルドの会長が囲んだ円卓を、一歩下がって眺めるだけだった。
「今回の議題は以上だな」
今回の議長である東の国の王が、締めの挨拶をしようと立ち上がりかけた時だった。
「ひとつ、頼みがある」
導王様がローブの袖から皺の深くなった手をあげて、立ち上がった。
「頼み? まぁ、時間もあるし聞こう」
東の王に促された導王様は、出席者全員の顔を見たのち、ゆっくりと口を開いた。
「国間にある第四採掘場の採掘権を、すべて譲って欲しい」
「は?」
「え?」
「導王?」
参加者全員が驚いたが、特に動揺したのは山の国の山の王、東の国の東の王、魔王の国の魔王だった。
当然だ。第四採掘場は、この三国と導王の国の間にある、どの国の土地でもない場所の魔法石採掘場だ。
ここで採れる魔法石はこの四国で均等に分けている。
「領土を広げる気は無い。ただ、採掘権を譲って欲しい。もちろん採掘場の維持はこちらが行う」
「は……?」
「なっ……?」
「導王、魔法石が欲しい気持ちは解るが、それはどの国も同じだろう?」
呆然とした王たちの中で、最初に口を開いたのは魔王だった。
一番や二番と似た容姿ではあるが、どちらと比べても線が細く、あまり威圧感の無い王で、導王様を落ち着かせるように、優しい口調ではあったが……導王様にはそれが気に食わなかったのだろう。
「同じな訳があるか! 魔王の国も、山の国も、我が国より採掘量が一〇〇倍以上ある! 恵まれているうえに自国の土地以外の採掘権も持つなど、卑しいとは思わないのか!?」
「導王の言いたいことも解るが、一国が所有するとなると領土権の問題が……」
「は? 卑しい? 卑しいのはそちらだろう!?」
魔王の言葉を遮ったのは、山の王だった。導王様に次いで高齢で、牛系の角が生えた長い黒髪を後ろで束ね、武骨な顔に革鎧が印象的な、少々荒っぽい王だ。
「我が国は麦があまり採れないが、だからと言って他所の麦畑をくれとは言わない! きちんと対価を払って輸入している! ……ふぅ……」
怒鳴るように話し始めた山の王であったが、途中で冷静さを取り戻したのか、大きくため息をついた。
「あぁ、そうか。当然対価はあるんだろうな?」
「……」
「無料でもらおうなどと、乞食のようなことを言う訳はないよなぁ? なぁ、導王?」
「……いくばくかの、独占料は考えている」
「は! お前の国が払える料金などたかが知れているだろう!? それよりも……」
山の王の歪んだ視線が私に向いた。
……なんだ?
「最近、良い物を手に入れたではないか? そちらの次王がとった、魔法陣の新構造の国際特許を取り下げるなら、考えてやってもいい。どうだ、魔王? 東の王?」
「確かに、あの新構造が自由に使用できるのであれば助かるが……」
「私は、山の王の言う通りだと思う」
……。
悔しくはあるが……それで採掘権が得られるのであれば……あれは元々国民の暮らしのための発明だ。
あの特許の益で他国から買える魔法石の量と、独占して得られるであろう採掘量を比較すれば……悪い話ではない。
私に発言権はないが、導王様が一瞬でも振り向けば頷くつもりだった。
だが……導王様は振り向かなかった。
ただ、私に発言権はなく、一〇人の王と三人の国際機関やギルドの会長が囲んだ円卓を、一歩下がって眺めるだけだった。
「今回の議題は以上だな」
今回の議長である東の国の王が、締めの挨拶をしようと立ち上がりかけた時だった。
「ひとつ、頼みがある」
導王様がローブの袖から皺の深くなった手をあげて、立ち上がった。
「頼み? まぁ、時間もあるし聞こう」
東の王に促された導王様は、出席者全員の顔を見たのち、ゆっくりと口を開いた。
「国間にある第四採掘場の採掘権を、すべて譲って欲しい」
「は?」
「え?」
「導王?」
参加者全員が驚いたが、特に動揺したのは山の国の山の王、東の国の東の王、魔王の国の魔王だった。
当然だ。第四採掘場は、この三国と導王の国の間にある、どの国の土地でもない場所の魔法石採掘場だ。
ここで採れる魔法石はこの四国で均等に分けている。
「領土を広げる気は無い。ただ、採掘権を譲って欲しい。もちろん採掘場の維持はこちらが行う」
「は……?」
「なっ……?」
「導王、魔法石が欲しい気持ちは解るが、それはどの国も同じだろう?」
呆然とした王たちの中で、最初に口を開いたのは魔王だった。
一番や二番と似た容姿ではあるが、どちらと比べても線が細く、あまり威圧感の無い王で、導王様を落ち着かせるように、優しい口調ではあったが……導王様にはそれが気に食わなかったのだろう。
「同じな訳があるか! 魔王の国も、山の国も、我が国より採掘量が一〇〇倍以上ある! 恵まれているうえに自国の土地以外の採掘権も持つなど、卑しいとは思わないのか!?」
「導王の言いたいことも解るが、一国が所有するとなると領土権の問題が……」
「は? 卑しい? 卑しいのはそちらだろう!?」
魔王の言葉を遮ったのは、山の王だった。導王様に次いで高齢で、牛系の角が生えた長い黒髪を後ろで束ね、武骨な顔に革鎧が印象的な、少々荒っぽい王だ。
「我が国は麦があまり採れないが、だからと言って他所の麦畑をくれとは言わない! きちんと対価を払って輸入している! ……ふぅ……」
怒鳴るように話し始めた山の王であったが、途中で冷静さを取り戻したのか、大きくため息をついた。
「あぁ、そうか。当然対価はあるんだろうな?」
「……」
「無料でもらおうなどと、乞食のようなことを言う訳はないよなぁ? なぁ、導王?」
「……いくばくかの、独占料は考えている」
「は! お前の国が払える料金などたかが知れているだろう!? それよりも……」
山の王の歪んだ視線が私に向いた。
……なんだ?
「最近、良い物を手に入れたではないか? そちらの次王がとった、魔法陣の新構造の国際特許を取り下げるなら、考えてやってもいい。どうだ、魔王? 東の王?」
「確かに、あの新構造が自由に使用できるのであれば助かるが……」
「私は、山の王の言う通りだと思う」
……。
悔しくはあるが……それで採掘権が得られるのであれば……あれは元々国民の暮らしのための発明だ。
あの特許の益で他国から買える魔法石の量と、独占して得られるであろう採掘量を比較すれば……悪い話ではない。
私に発言権はないが、導王様が一瞬でも振り向けば頷くつもりだった。
だが……導王様は振り向かなかった。
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