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番外編3 一番の●●
次の世代
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その日も、それ以降のパーティーや式典でも、顔を合わせるたびに二番は私の魔法を褒めてくれたが……褒めてくれるのに嫌な顔をするなどという大人げないことはできないので笑顔で返してはいたが……ずっと、この平和ボケした豊かな国の温室育ちが気に食わなかった。
二番の言う「国民全員を助けたい」「国民全員を幸せにしたい」という言葉は、私にとっては夢物語過ぎた。
馬鹿だな。
馬鹿だな、とは思うが……。
心の奥で時々顔を出す「そんな風に思えて羨ましい」には気付かないふりをした。
◆
成人してからは年々、導王様の仕事をお手伝いすることが増えた。
導王様はもう一九〇〇歳を超え、魔族の平均寿命まで一〇〇といったところ。
いつでも代替わりできるよう、引継ぎと覚悟が必要だ。
そしてもう一つ……導王という立場を引き継いで忙しくなる前にしておきたいことがあった。
「人工魔法石の研究は順調に進んでいます。まだまだ試験が一〇〇以上あるので実用には最低五〇年……一〇〇年ほどはかかりますし、試験の結果によっては……実現できないかもしれませんが」
城の奥にある塔の地下室に作ってもらった薄暗い研究室に、珍しく導王様が視察に来られた。
「おぉ……素晴らしい! これが実現すれば、我が国のエネルギー問題を解決できるのだな!?」
ここ数年取り組んでいる、人工魔法石の研究成果が気になられたようだ。
王として当然だろう。
「はい。ただ……材料費を考えれば魔法石の輸入額よりも安いですが、手間が……また、作れる魔法士が何人いるか……課題は山積みです。でも、必ずより安く、より簡単に、より安定して作れるように研究を重ねたいと思います」
「……ありがとう、次王」
理論上は作れるが、実用までたどり着けるかは解らないが……そんな不確かなものに、導王様は皺が深くなった顔を、一層くしゃくしゃにしながら笑ってくれた。
子どもの頃から、私の才能をいち早く認め、私のしたいことをさせてくれた導王様に喜んでいただけることが、何よりも嬉しかった。
だが、子どもの頃から私を見ている導王様には……バレていた。
「本当は、もっと取り組みたい研究があるのだろう? 民のために、すまない」
「……っ」
無いと言えば、嘘になる。
本当は、もっと自然系の……精霊魔法を組み込む様な新しい様式の魔法を研究したかった。
だが……次期王として本来ならばもっと自由の無い暮らしのはずなのに、導王様が私の好きなことをさせてくれ、才能を伸ばしてくださったから……城の者をはじめ、国民がそれを許し温かく見守ってくれたから……。
私は、導王様にも、国民にも、必ず恩返しをすると心に決めただけだ。
「そんなことは……」
「お前の才能があれば……もっともっと、革新的な魔法がつくりだせるはずなのに、この国に資源が乏しいばかりに、さもしい魔法の研究ばかりさせてしまって……魔法石を多く使う大掛かりな魔法も使わせてやれなくて……不甲斐ない」
「あ、頭をお上げください!」
いつの間にか導王様の背は追い越したが、導王様の竜角をこんなにも見下ろすのは初めてだ……。
「私は、王になってからの約一〇〇〇年。何とか国を守るだけで、何一つ変えることができなかった。素晴らしい、神のような宝である次王が生まれてきてくれたのに、こんな状態の国を引き継いでしまうことが、申し訳ない」
「そんな……導王様は素晴らしい王様です!」
魔法石が採れないことはどうしようもない。
導王様だって、新たな採掘場の調査を積極的に行ったり、上質なシルクや金といった産業の発展での外貨獲得額増加を果たしたり、王としての功績はたくさんある。
「このままでは、次王たち次の世代に大きな負担がかかる。私が……私の代で、風向きを変えなければ……次王という奇跡を授かったのに……」
「導王様?」
この時、もう少しきちんとお話をすれば良かったのかもしれない。
いや、そんなことはないな。
当時の私はまだ王の器なんてものが無い、ただの魔法が得意で魔法が好きなだけの魔族だったのだから。
導王様の優しい……優しすぎるお気持ちに、寄り添うことはできなかった。
二番の言う「国民全員を助けたい」「国民全員を幸せにしたい」という言葉は、私にとっては夢物語過ぎた。
馬鹿だな。
馬鹿だな、とは思うが……。
心の奥で時々顔を出す「そんな風に思えて羨ましい」には気付かないふりをした。
◆
成人してからは年々、導王様の仕事をお手伝いすることが増えた。
導王様はもう一九〇〇歳を超え、魔族の平均寿命まで一〇〇といったところ。
いつでも代替わりできるよう、引継ぎと覚悟が必要だ。
そしてもう一つ……導王という立場を引き継いで忙しくなる前にしておきたいことがあった。
「人工魔法石の研究は順調に進んでいます。まだまだ試験が一〇〇以上あるので実用には最低五〇年……一〇〇年ほどはかかりますし、試験の結果によっては……実現できないかもしれませんが」
城の奥にある塔の地下室に作ってもらった薄暗い研究室に、珍しく導王様が視察に来られた。
「おぉ……素晴らしい! これが実現すれば、我が国のエネルギー問題を解決できるのだな!?」
ここ数年取り組んでいる、人工魔法石の研究成果が気になられたようだ。
王として当然だろう。
「はい。ただ……材料費を考えれば魔法石の輸入額よりも安いですが、手間が……また、作れる魔法士が何人いるか……課題は山積みです。でも、必ずより安く、より簡単に、より安定して作れるように研究を重ねたいと思います」
「……ありがとう、次王」
理論上は作れるが、実用までたどり着けるかは解らないが……そんな不確かなものに、導王様は皺が深くなった顔を、一層くしゃくしゃにしながら笑ってくれた。
子どもの頃から、私の才能をいち早く認め、私のしたいことをさせてくれた導王様に喜んでいただけることが、何よりも嬉しかった。
だが、子どもの頃から私を見ている導王様には……バレていた。
「本当は、もっと取り組みたい研究があるのだろう? 民のために、すまない」
「……っ」
無いと言えば、嘘になる。
本当は、もっと自然系の……精霊魔法を組み込む様な新しい様式の魔法を研究したかった。
だが……次期王として本来ならばもっと自由の無い暮らしのはずなのに、導王様が私の好きなことをさせてくれ、才能を伸ばしてくださったから……城の者をはじめ、国民がそれを許し温かく見守ってくれたから……。
私は、導王様にも、国民にも、必ず恩返しをすると心に決めただけだ。
「そんなことは……」
「お前の才能があれば……もっともっと、革新的な魔法がつくりだせるはずなのに、この国に資源が乏しいばかりに、さもしい魔法の研究ばかりさせてしまって……魔法石を多く使う大掛かりな魔法も使わせてやれなくて……不甲斐ない」
「あ、頭をお上げください!」
いつの間にか導王様の背は追い越したが、導王様の竜角をこんなにも見下ろすのは初めてだ……。
「私は、王になってからの約一〇〇〇年。何とか国を守るだけで、何一つ変えることができなかった。素晴らしい、神のような宝である次王が生まれてきてくれたのに、こんな状態の国を引き継いでしまうことが、申し訳ない」
「そんな……導王様は素晴らしい王様です!」
魔法石が採れないことはどうしようもない。
導王様だって、新たな採掘場の調査を積極的に行ったり、上質なシルクや金といった産業の発展での外貨獲得額増加を果たしたり、王としての功績はたくさんある。
「このままでは、次王たち次の世代に大きな負担がかかる。私が……私の代で、風向きを変えなければ……次王という奇跡を授かったのに……」
「導王様?」
この時、もう少しきちんとお話をすれば良かったのかもしれない。
いや、そんなことはないな。
当時の私はまだ王の器なんてものが無い、ただの魔法が得意で魔法が好きなだけの魔族だったのだから。
導王様の優しい……優しすぎるお気持ちに、寄り添うことはできなかった。
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