魔王さんのガチペット

メグル

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番外編3 一番の●●

一番という男(4)

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「でもなぁ……国のために無茶ができて、周囲が支えようと思える魔族ほど、王に向いていると思う。一人で頑張るんじゃない、周囲も巻き込める王がいい」

 目の前の男も、こうやってすぐに相手の懐に潜り込めるあたり、周囲を巻き込む求心力はありそうだが……。

「そうか? そんな奴に振り回される方が国民は苦労する。私は……お前が王になる方が良いと思う」

 私の言葉に、一番は目を大きく開いて驚いた後、なぜか朗らかに笑った。

「嬉しいことを言ってくれるな。だが、王になると遊べないだろう? それに、書類仕事も多い。俺は……遊びたい」

 本音ではなさそうだな……まぁいい。

「はっ! そんなことを聞くと、ますます王にしてやりたい。俺は国民ではないから投票権はないが……そうだな、投票の際に国外の有識者として応援演説をしてやろう」
「他国の次期王が応援か……まずいな、当選してしまう。今のうちに素行不良なところを国民に見せないと」

 冗談っぽくそう言いながら、一番はずっと話に集中して見ているのか見ていないのか解らなかったアクセサリーの棚から、革のブレスレットを二本、手に取った。

「土産はこれにしよう。あいつがまた魔力切れを起こさないように……あと、俺がとばっちりを受けた時用に」

 ブレスレットは黒系統の魔物の革を編んでできたものか。同系統の素材を身に着けると魔力循環が良くなるときくからな……え?

「っ……!」
「ん? どうかしたか?」
「いや、何でもない……」

 今、一瞬みえた値札……いや、まさかな……。

「こちら二つで金三〇と銀五〇になります」

 店員がブレスレットをそれぞれ薄い皮袋に入れて、一番に渡す。
 金三〇……先程の値札、見間違いではなかった。導王の国であれば、一般的な四人家族が三ヶ月は衣食住を賄える金額だ。

「質が良い物はやはりそれなりにするな」

 そう言いつつ、一番は金の入った皮袋から軽々と言われた額を出して、店員の差し出すトレーの上に置いた。
 袋の膨らみ具合、重く沈んだ感じ……まだ袋の中に二倍以上残っていそうに見える。

「俺の買物は済んだが、お前は?」
「私は……今日の目的は魔導書なんだ」
「そうか。この街なら有名なものから僻地のマイナーなものまで何でもそろうらしいからな」

 一番の言葉にすました顔で頷いたが……少し気持ちは複雑だった。
 私は次期王なのだから、自由に使える金は、同年代に比べれば多い方なのだと思っていた。
 だが今、ローブの内ポケットに入れている袋の中には……城から持ってきた自分の金、導王様から頂いた小遣いが入っている。両方合わせて、金が一〇あるかないか。
 いや、気にすることではない。一番の方が先に成人しているようだし、どういう経緯で手持ちが多いのかは解らないじゃないか。

「では、次王は魔導書店か? 俺は武器屋に行かなければならないからここでお別れだな。と言っても、夕方のパーティーでまた会えるか」
「あ、あぁ。そうだな」

 魔物素材のギャラリーを出て、もう解散と言う時だった。

「あ、うちの騎士だ。おい、ウエンダ!」
「あ! 一番様!」

 一番が顔を向けた方を見ると、騎士らしい屈強な体つきで、濃い青髪を後ろに流した男が駆け寄ってきた。服装は、一番の後ろにいる騎士のような甲冑ではなく軽装の黒い部分鎧だ。

「お使いの品が無事に購入できましたので、武器屋へ向かう所でした」

 真面目そうな騎士が、一番の前に跪いて濃い茶色の紙袋に入ったものを手渡す。
 ……何か、自分や「騎士」らしい格好では買いにくい物を頼んでいたのか?

「助かった。……あぁ、これだこれ。これが欲しかったんだ」

 なんだろう? 袋の形から言って薄い本のようではあるが……。

「気になるか?」
「え? あ、まぁ」

 ついジロジロ見てしまっていると、一番が俺の隣にやってきて、こっそり袋の中身を覗かせてくれた。

「国内では買いにくいだろう?」
「……」
「それに、俺は肉付きのいい柔らかい子が好きなんだが、国内ではスレンダーな子が人気でな?」
「……」
「あ、悪い。初対面で下ネタは流石に……」

 袋の中身は、セクシーな人間の男の子の写実画集だった。俗にいうエロ本だ。
 こういう本の話は、若い男が集まってする話としてはおそらく当然で、普通なら盛り上がるところかもしれないが……。

「最悪だ」
「すまん……」

 本当に最悪だ。

「私の気に入りの本だ。全く同じだ。これからその本で楽しむ時にお前の顔がチラつきそうで、最悪だ」

 なんでこんなところまで気が合うんだ? 思わず舌打ちをしてしまったが……一番の方は思い切り驚いた後、なぜか楽しそうに笑いだした。

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