魔王さんのガチペット

メグル

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番外編3 一番の●●

一番という男(1)

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 その後も、成人するころまでは国内で大事に育てられ、次期導王としての勉強を最低限と、やりたい魔法の勉強を好きなだけさせてもらっていた。
 魔族の「成人」は、体の中の魔力器官が成長しきったことを意味するので、「成人」を認められる歳は個々による。私の場合は一般魔族よりも長く成長したため、成人は少し遅かった。

「二五〇歳まで成長が続くなど、なかなかないことだ。本当に次王は魔法に恵まれている。きっと素晴らしい魔法で国を豊かにしてくれる! 次の世が楽しみだ」

 私の成人の式典で導王様が掛けてくれたお言葉だ。導王様だけではない、城の中庭に集まった政治家や商会の代表、国民代表たちも、皆口々に言っていた。

「次王様の世が楽しみです!」
「きっとこの国を発展させてくださることでしょう!」
「この国の希望です!」
「王……いえ、この国の神様です!」

 期待はプレッシャーでもあるが、まだ若かった私は、素直に「私の能力が高いから期待をされている。がんばらないといけないな」とやる気に満ちていた。
 背は、もう導王様とほぼ同じ。髪も腰まで伸びた。竜角も大きくなった。
 身体はもう少し鍛えないといけないし、顔立ちにまだ幼さは残るが、もう立派な魔族。
 今まで以上に、自分が王になることを意識して励もう。
 立派な王になろう。
 そう思っていた。

 しかし、私はまだ、この国のことも、この国が国際的にどういう立ち位置なのかも、本で読んだだけの浅い知識だけで……本当の意味では何も解っていなかった。


      ◆


 成人すると同時に、国際会議へ同行することとなった。
 まだ会議には参加できないが、会議後のパーティーで諸外国の要人にお披露目をするためだ。

「東の国は城下町の治安がいいし、面白い物も多い。私が会議の間、遊んで……いや、見聞を広めて来なさい」
「はい……!」

 導王様は、身を護るための高価な魔法石のネックレスを首にかけてくれたあと、優秀な騎士を一人護衛に付けて街へと送り出してくれた。「使い切っていいぞ」と言いながら小遣いの入った袋もくれた。
 街を歩くことは導王の国でも珍しくはない。
 城下町と東の大きな街だけだが……黒髪はどこへ行っても大事にされるので、街歩きは楽しかった。
 しかし……東の国の城下町は、国際商工ギルドの本部がある「商売の街」。

「す、すごい……魔導書の専門店かと思ったら、医療系の魔導書だけで一軒の店なのか? なんて充実した品ぞろえなんだ!?」

 導王の国の首都よりも、はるかに多くの物が集まって、それを求める客や商人も集まって……このように栄えた街は、我が国には無い。

「魔物の素材ギャラリー、魔法武器の専門店、魔法調理器具のオーダー? 魔法石店、魔法陣用の布・紙卸店……」

 信じられないほど何でもあって……。

「ぜ、全部みたい……全部欲しい……!」

 時間も金も足りない。
 夢のような場所だ。
 国際商工ギルドは世界で一番大きな組織であるとは解っていたが……こんなにも……。
 
「あ、黒髪の魔族様だ……」
「ローブ姿ということは……導王の国の次期王様か?」
「あ、新聞で見た! 成人された次王様よ!」

 ……!

 つい夢中になって街を見渡していると、背後からの視線を感じ、微かに話し声も聞こえた。
 そうだ。黒髪はどこに行っても目立つ。
 導王の国の次期王として、恥ずかしくない立ち居振る舞いをしなければいけない。

「……」

 なるべく背筋を伸ばし、威厳のある顔を心がけ、改めて商店が並ぶ道へと足を進めかけた時だった。

「なぁ、そこの黒髪!」
「は?」

 他所の国のマナーは詳しくないが、どこの国でも黒髪魔族は貴重な存在だろう?
 自国の黒髪には優しく、他国の黒髪にだって国際問題にならないように丁重に……ではないのか?
 無礼な奴め。無視でもいいが、顔を見てやらないと気が済まない。
 そう思いながら振り向いたが……振り向いて見えた姿に、相手を無礼とも言い切れなくなった。

 私に声をかけて来た彼も、黒髪だった。
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